表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RELIS  作者: 孤独
"金の城下街"ゴールゥン編
46/634

人の考え、管理人の考え、僕の考え、アレクさんの目的、考え、夢

静かな戦場の一つ。



インティに助けられ、桂と呼ばれる管理人?にも助けられた。けれど、ここまでなのかもしれないって思った。

アレクさん、ネセリア、ライラ。誰でも良いから、助けに来て。



『おっとと、桂のせいで転落をしてしまったが』

「こ、こっちに来るな!化け物!!」

『インティと一緒に捕まった君と出会ったか』



春藍は桂とインティと別れた後、すぐにウェックルスと遭遇していた。

"管理人"と対峙する事はラッシでもあったはずだ。だけれど、決定的に違ったのはこの場には、自分1人しかいない事だった。アレクは行方不明。ライラとネセリアは近くにいるが、ラッシに拘束されている。

今、仲間と呼ばれる者は誰も来ない。そんな中、"管理人"の1人と向き合っている。

背中は見せては無い。走って逃げれたら苦労しない。

自分はそんなに足が速くない事は、チヨダで経験済みだ。体力もない。逃げられないだろう。春藍は知らないが、今のウェックルスは鼻も良い。隠れても見つかるだろう。

怯えてはいるが、諦めていない顔をしていた春藍。"創意工夫"を填めて不器用に構えた。



「ぼ、僕を食べる気か……」

『ふううぅぅっ』



大きく空いた口の中は、タップリの涎がついた鋭い歯が並んでいた。それを見ただけで逃げ出したい気持ちがより高まった。無謀な逃避に走りたくなった。

ウェックルスは威圧から



バギイイィッ



素早く回転して、長い尻尾による打撃で春藍の腹部にぶつけ、地面に倒させた。



「!!ぐぅぅ、あうぅっ」

『食べたいんだから、寝てくれないと困るなぁ。綺麗に食えないだろう』



物凄く痛い攻撃だった。ジンジンと叩かれたとこに襲い掛かっていた。そこからさらに、



バギイイィッ



「うああぁっ!!おもっ………」

『ぐふふふふふ』



春藍の右足にウェックルスが圧し掛かる。重さがあり、右足がすぐに折れてしまった。


「ああぁぁっ、あううぅ」

『君は"黒リリスの一団"か?それともライラという女に巻き込まれた方かな?』

「ううぅぅっ」


圧し掛かるのを止めたウェックルス。

彼は明らかに春藍を拷問しようとしていた。当然だ。ライラ達はチェックメイトであり、この世界をグチャグチャにした加担者でもあり、違反者でもある。

"管理人"であり、支配者でもある自分の快楽のために、情報収集という名目を使っている。

そーゆうのを見下して。遊んでいる。

"創意工夫"を填めた両手で、必死に折れた右足を抑えて苦しんでいる春藍。




『君達、人間のごく一部の代表は"管理人"が悪と思っているのか?』

「っ!!」

『この世界が好きになれないと思っているか?ん?一日か二日の滞在で何が分かる?』



頭ではクソ、足が痛いと思っていた。だけれど、春藍は今。チャンスをもらっているのかもしれなかった。おそらく、気のせいだと思うかも。


ウェックルスに勝つ事でも、逃げる事でもないチャンス。自分が、"自分の思った事を言える"チャンスなんじゃないかと、切り替えられたのは絶望があるからだ。



「リ、リアは」

『!』

「可哀想って言っていた…………インティは……ここで過ごす人生は嫌だって言っていた」



言いたいんだって気持ちだった。



「嫌だよ!!こんな!!……あんたの、"管理人"の理想や基準を押し付けられた世界で、僕達は生きなきゃいけないんだ!!僕達はもっと自由でいいはずだ!!」

『人間風情が』

「この世界だって、僕の世界だって!!きっともっと!!良い出来事に出会えたはずなんだ!!もっと人々が笑っている世界を見れたし、僕達の事にも興味を持ってくれる人に出会えたから!!"管理人"がやっている事が僕には分からない!!自由が少ないんだ!!」



傷だらけでありながら、その叫びは自分自身を奮い立たせるには十分過ぎる。自分の意志だ。



『ゴミの畜生がああぁぁ!!』


だが、それは"管理人"を激昂させる叫びでもあった。


『なーーーーにがぁ、自由だ(笑)!テメェ等人間は家畜なんだよ!!俺達の娯楽に過ぎねぇんだよ!必死に馬鹿みてぇに、喉をぶっ壊しても、耳がイカレても、才能ねぇー、好きじゃねー、無駄な努力ばっかのアホアホ過ぎる浪漫を強制させりゃあぁぁよおぉっ!!サイコーにバカ受けの見世物じゃねぇかあぁ!!人の夢や体験を聞かされる奴が不幸そうな顔したり、理解してねーーって面を、外から知るのはサイコーにうめぇお食事だぜええぇっ!!』



ゲラゲラとキレながら魔物の姿であるウェックルスは叫んでいた。



『20000人いてよ、たった一人だけが歌手になれるチャンスを与えるとよーーー。成れた奴は20000人の希望を1人で食えるんだぜ!!幸せだって、それで人間は思えるんだぜ!19999人は深く絶望して、暗い暗い人生を歩んだりよー。中には歌手になった奴を妬んで不幸にさせようとして、そいつ殺したり、喉を潰したり、ファンレターで死ねと1000通送っててよー!全員不幸になってやんの!!結束力っつーか、未練タラタラ、足の引っ張りが好きだろー!滑稽でしかねーぞ、人間を見ていると!!だから、ここの支配者は辞められねぇよ!!』

「!!」



春藍は理解した。この、管理人は。今現在、ぶっちぎり最悪だと思っていたラッシがとてもまともと思えるほどの。極悪過ぎる"管理人"だ。

支配者なんてあくどい事を認めた奴はいないだろう。

これほど、人間を酷く扱っている奴は始めてだった。

インティとリアの気持ちが分かった気がした。このまま"管理人"に支配されるだけではダメだと、ライラやパイスーのように行動しないと。全てが悪とは言えないけれど、悪があっちゃいけないだろう?



『むず痒いもんだぜええぇ!才能あっても、努力をしても、好きであっても、安定だから目指しても、最終的にクズ共の末路になったら、ちょおおぉぉ。お笑い芸人だぞ。身体を張るんじゃなくて、人生張っちゃうんだよこのお笑い芸人。やるねーーー!死ぬまで芸をやってよ、過去に自分がやってきた事を進もうとする未来の世代を見たりすると、胸が痛むんだってよぉぉ!!ぎゃははっはははははは!!成れなくて残念だねーー!不幸でキッツイ人生で可哀想だねぇぇー!負け組だとすると、好きでも辛いよねー!!』

「……ぼ、僕には…………」



自分が苦しくなった。ホントに苦しくて、打ち明けた。



「人間を嘲笑う事しかできないあなたが一番の、クズです」

『……あ?』

「見てる事しかできないだけなんでしょう?管理人は、輪に入れない職務と思っているんでしょう?」

『は?何を言ってる?』

「あなたがここに引き篭もっていたのは、実際あなたは強くないから。インティも言っていた。人に殺されてもおかしくない」

『テメェ』

「人を嘲笑う時間があるなら、みんなを幸せにする事を考えるのが、真の支配者という存在ではないんでしょうか?」



あんたは、とても弱い。信じられないほど弱い。

人が落ちるところをただ笑って見ているだけ。それまで、"管理人"からすれば短い人間の人生だとしても、あなたの気分が悪い笑いよりも、気持ちよく笑っていた人達は多いんだ。



「"管理人"じゃないし、支配者でもないよ…………あなたは全然違う」

『!』



ウェックルスは春藍の、死ぬまでの間に全ての気持ちを言ってやる気概にイライラが溜まり、噴火のように春藍に襲い掛かった。

大きな口が春藍の右足を強く噛んだ。なるべく離れず、噛んでいる状態を保って春藍を苦しませる。鋭利の牙もそうだが、牙から溢れる強烈な酸に溶かされるのも地獄であった。



グジャアァァルウゥ



「うあああぁぁぁっ、ああぁぁっ、いやあああぁぁっ」

『苦しいだろう?痛みや苦しみには、人間ってのは正直なんだ』



バギイィッ



春藍の右足が今、完全に食いちぎられた。徐々に引き上げられ、焦らすように甚振るウェックルス。足掻き苦しみ、先ほどの威勢を失った春藍の姿は。失敗した負け組の人間達と重なって腹の底で笑った。ガリガリと春藍の右足を食べて、消化を始めるウェックルス。



『そんなもんなんだよテメェはああぁ!!口だけでしかねぇんだ!楽に死ねると思うなよ!!楽に元の世界に帰れると思うんじゃねぇぞ!』



バギイイィッ


「ふぇっぐぅぁ」

『テメェに足なんざいらねぇ!!死ぬまで地べたを引き摺って進んでろ!!!』



ガギイィッ



「ううええぇぇっ!!」



春藍の叫びはもう。ホントに喉が壊れそうな痛々しいものだった。左足は無残に何度も踏まれて骨も皮もグチャグチャにされて身が弾けるように筋肉がむき出した。

ただ痛かった。それしか記憶はなかったけれど。ここでわずかに隠している気持ちがある。



『どーしたぁ!!?もう死んだのかよおぉぉっ!!ぉぉ、お?』

「はっあ……あうぅっ…………」



ウェックルスの今の姿。春藍には、それが"科学"のなんらかによる物だと一目で判断できた。ネセリアの"掃除媒体"のような仮想世界を築いているのと似ていた。



『おがああぁっ!?あぁっ!?』

「はぁっ……………ぼ、」



もがき苦しみ始めるウェックルス。インティからの攻撃を無傷で防いだ際。ウェックルスは言っていた。"私はこうして絶対に、絶対に安心な場所にいないと落ち着かない"……っと。

まるでそれは今、春藍が致命傷を喰らい。ウェックルスも狂気を帯びた精神と、謎の苦しみを味わっている今という、"現実"にはまだ到達していないような意味だった。



『げえぇっ!?何をしやがったああぁぁっ!!?』



崩れ落ちるウェックルス。もがく。ひたすらにもがく。

ウェックルスの科学、"ァーチャ・トゥルー"がインティの攻撃を無力化し、春藍の謎の攻撃にダメージを喰らっていた。



ウェックルス

スタイル:科学

スタイル名:ヴァーチャ・トゥルー



映像型の科学。

あらかじめプログラミングされていた自分を別の姿で投影する能力。




「僕は食われても、……生き残る覚悟はあるんだ」



ウェックルスを苦しめているのは、残酷に食いちぎった春藍の右足だった。"創意工夫"が触れた右足は修復されているのではなく、強アルカリ性(劇物)を持った右足になっていた。今、ウェックルスは堂々とその右足を消化していた。



『おげぇぇぁ』



たまらず吐き出そうとするが、もう身体の奥深くに入った右足は抜けずに溶けて、劇物が染み込んでいた。魔物の姿となれる"ヴァーチャ・トゥルー"という科学は、変体するのとはまるで違う科学だ。"アバター"という自分の分身を作り出す事が本領。

"ヴァーチャ・トゥルー"によって造られた分身は造られてから何もしていなければ破壊される事がない。仮想の状態という形で世界に留まっており、いかなる事象も通じない。だが、この分身が何かを起こそうとした時。使用者は死亡。もしくは死亡している事となり、分身が本体となって仮想の状態からちゃんとした現実にいる状態となる。



『があぁぁっ!おおぉっ、苦しいぃぃっ、うげぇっ』

「はぁっ…………ぁっ…………」



ウェックルスの"ヴァーチャ・トゥルー"は、効果が切れればハッタリでしかない。

前に効かなかったから諦めろと突きつける。あと一回で終わるところを諦めろと、告げるような事を語るような能力であった。ウェックルスにはとてもお似合いの科学。ハッタリだけでインティをよく追い返したものだ。



『ぐああぁっ、おあぁっ…………嫌だぁ、……死にたくねぇ。死に』

「!」

『助けてくれえぇぇっ』



グチャリィッと、暗めの音がウェックルスから鳴った。

不老不死に近い"管理人"でも、この"ヴァーチャ・トゥルー"によって"管理人"としての特性は削れている。だが、ウェックルスの状態から考えれば、この世界の支配者が常に食った物をゲロゲロ、オェェーッと吐いているような身体状態だったら、支配者という地位を捨てでも、普段は気にしない当たり前という物を選ぶだろう。自分だってそうだ。



『お、……お、俺を……もう一回…………ポ、ポセイ……ドン………様……』



グチャァ




ウェックルスは劇物の苦しみを味わいながら、死を味わえた。とてつもない後悔と屈辱が残った死であったが、残るまま生き続けるよりも幸福な事だろう。

この場には、左足の強い損傷と右足を失って力を出し尽くした春藍と。苦しんだウェックルスの死体だけが残った。




◇     ◇




そして、もう一つの静かな戦場。



ウェックルスの拠点の書庫にその現場はあった。

この世界にやってきて、混乱乗じて侵入に成功。ウェックルスただ1人であれば見逃されていただろう。



コトンッ



「………………」



アレクはモームストでも、チヨダでもそうであったが、何かを探していた。色んな世界の情報を得ようとしていた。"管理人"が存在してから取り始めたというデータを搾取していた。何に使うかは、



「そんなに一生懸命でどうしたのかな?」

「!!」



後ろから話しかけられた瞬間、振り向き様に投げられたダーツが3本、アレクの身体に刺さった。

ダーツの針には麻酔のような症状を訴える力があった。



「アレク。君の旅はここで終わりだ」



体の自由を奪われ、立つ事すらできずにダーツを投げてきた"管理人"の方を睨んでいるアレク。全身を黒焦げにしたというのに随分と復帰が早い。



「ク、クロネア…………いつから」

「君がここにやってくるのは読めるんだ。ライラのような人物とは、君は違う。君を見て来た"管理人"には良く分かるんだ」

「…………くくっ……外が五月蝿かったが……そろそろ静かになってきたな」

「ああ、止めておけ。その身体では私を万が一倒せても、ラッシや桂さんは倒せない。事情聴取されることを望んでくれ」



普通ならば、各々の異世界に混乱を巻き起こした彼等は、処刑に値する。ただ例外がある。



「アレク。フォーワールドには君の代わりがいない。君を欠いたフォーワールドはもちろん、君を一時失った事による多くの異世界への影響は計り知れない」

「なぁ…………クロネア」

「?なんだ」

「毒を打ち込まれてる……寝る」

「……………」



話の途中にアレクは力が尽きたからというより、ムスっとした表情を察するにそんな話は聞く気はないといったところか。



「私情を持ち込めれば、今の私達は君達を殺すべきなんだ。"管理人"なのだから」



堂々と眠れる男。何を掴んだか知らないが、こんな事ができるのは、ただ管理されていただけの人間ではないと感じさせる。



春藍、ライラ、ネセリア、最後にアレク。四人は管理人達に捕まる形となって、この世界の冒険を終えるのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ