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RELIS  作者: 孤独
電子編
454/634

ICカード⑤

報道とは、『事実を周知させる』行為ということである。



「私が報道の責任者ですか」

「言語のスペシャリストである、ラフツー殿しかいませんからね」



当たり前のように会話できているが、今でも様々な言語が飛び交っている状況である。

NM_Hもまたその事務要員として、活動要請と量産計画が出てきている。



フォーワールドの報道網はキッチリと整備されているとは良い難い。



「"言葉の重さ"は、言葉より重いのはご理解している事でしょう?」

「ええ、それはもちろん」


言論とは力の加減ではなく、方向を決めるものにある。

管理人であるクォルヴァと、今は亡きレモン・サウザンドを育てていたラフツーはよく知っている。


「フォーワールドは技術力が恵まれています。報道機材の製造からできていますし、報道局を立ち上げることもできそうです」



黒リリスの一団が襲来し、このフォーワールドを戦場した際には映像公開もあったように、すぐにでも行なえそうであった。情報の統率は人間ではなく、管理人が行なっていたこともあって永らく封鎖状態にあったが、明日から人間達の手によって再開が決まった。

急ピッチで全住民に伝わるように設備を整えていく。



「情報公開の拡大かー」

「そりゃいい。クォルヴァ管理人からの発信となれば、信用できる」

「不確定な噂も流れたことも多かったですからね」


クォルヴァの案は住民の大多数が賛同していた。特に移民達の賛成の数は凄まじかった。いくらアレクやヒュールが代表となって、方針を語ったとしてもそれはあくまで単発的で、最新情報がとれていなかったからだ。

進んでいく時の中で、しっかりとした情報を発信できる存在が現れるのは大きい。



「だからって、私達がアナウンサーをやれって……」

「綺麗になってますか。終わったら仮面付けなきゃ」



その第一回目の報道にキャスターとして、ライラと夜弧が選ばれた。

2人共、着慣れていない可愛らしい衣服を纏い、マイクを握る始末。等身大の鏡でそれぞれチェックするも、どこか似合っていないと思っている。



「っていうか、私に白って……。黒か紫が似合うんですけど?」

「夜弧ちゃん。みんなの前に出るのに黒色はいかないでしょ?暗いニュースをお届けるわけじゃないし」



基本的にニュース報道であり、緊急時でない時以外は報道されることはない。

朝、6時から8時。昼、12時から13時。夜、17時から20時。という時間帯にしか報道は行なわれない。

夜弧とライラは人材の募集が完了するまで、報道員として働いてもらうこととなっている。



「ま、まぁ。私は大丈夫よ。緊張はしてるけど、嫌いじゃないわ」

「もうすぐ30となるのにですか?ライラはカメラに映って大丈夫なんですか?」

「!な、なにを!?あんた、あたしは見かけだけなら20代前半どころか10代後半です!っていうか、年なんて関係ないじゃない!!夜弧なんて、そんなペタンコな胸で良いわけ!?」

「なーーっ!!何言うんですか!?別にこれ胸元露出している服じゃないし!ちゃんとした女性用スーツです!体の一部分を見させることじゃありませんしーー!」



初放送を前に報道キャスター2人が喧嘩をやる始末……。



「別に君達の容姿とか年齢とかはどうでもいいんだよ」

「がーーーーん」

「酷くない!?」



そして、喧嘩の終戦かつ屈辱を告げるクォルヴァ。



「ちゃんとした女性の声の方が、人は落ち着いて聞き取れるものだからね。ちゃんと言わないとダメだけれど」


そんなこんなで始まった、移民達が集まってから初めて行なうニュース報道。

主な内容は政策、事件や事故の情報、労働求人の発信。


特に重要なのは当然、政策の発信である。アレクの望む、ICカードによる通貨制度の情報はまだまだ配信されていないことと、理解することにある。

アレクと関わりのあるライラと夜弧でも、この辺の仕様説明はまだ難しい。できてからでないといけない。それに文脈を生成するのは、ラフツーなどの文学楽園のインターシグナルの人材が行なうことになっている。まず、彼等からの理解が必要だ。



言葉を造り上げる存在と、言葉を声として発信する者は別である。



『お、おはようございます!』

『おはようございます』

「あ、この声はライラと夜弧だね」

「今日からやるのか」


ライラと夜弧がニュースのキャスターとして登場することは聞いていた春藍とアレク。モニターはないため、ラジオで聴いている。

嬉しそうに聴く春藍と、あくまで今の情報を吸い取るために聴くアレク。


「ライラさんと夜弧さんの声。緊張しているのかな?」


春藍の傍にいることで心を戻し始めた謡歌。謡歌はまだ自分の中にある心の不安を、ライラと夜弧に重ねるように感じていた。



「こーんな伝達手段があるんだねー」


一方で水羽は、ラジオというシステムが存在していることに驚いている。


このように情報を受け取る人間が感じていることが異なるのは当然。

だからこそ、情報は速やかよりも正確性を強く求める。発信される情報から何を拾って欲しいかを明確にしなければならない。


ライラと夜弧は緊張しながらも交代で作られた文章を読み上げていく。



『まずは政策についてのニュースです』



文章を作り上げる、インターシグナルの人々も緊張していることだろう。

ここで作る情報がこれから働く人々に届く、今日の情報となるのだ。間違いをお届けすることがどれだけの悪影響となるか。彼等はよく理解している。

そして、理解することから理解してもらうところまでが仕事。



『通貨と紙幣による、金銭取引の撤廃についてから』



アレクの強弁さを柔らかな物腰に変えるクォルヴァ。それをゆっくりとした変化として文章で表現するラフツー。気持ちを入れて声に出して読む、ライラ。ライラの声を翻訳して、誰にでも理解できる言語に変換する


『通貨と紙幣の製造はすでにストップがされており、住民の皆様と多大に貢献していただいた労働によって、金銭の価値が薄れています』


これはすでに流れている情報でもあったが、しっかりと伝えなくてはならない。


『現在の通貨と紙幣の価値は日に日に落ちていき、1週間後には撤廃となるだけの価値になります』


撤廃という言葉で断言するよりも、その意味がなくなるという伝え方で反対という意見をまず折った。


『そして、皆様にはこれまで使ってきた通貨と紙幣と違う。電子カードというのをお配りいたします』


ライラはここまで読んで、夜弧と交代のタッチをする。

なにげにライラ、かなり声が良い。


『で、電子カードという物なのですが』


一方で夜弧は始まる前とは違い、声に緊張が現れていた。


『こちらに見本をお借りいたしました。小さなカード……掌サイズとなる、い、板のような物です』



隣で聴いているライラは笑いながら小声で、「グダグダ」とぼやく。自分の緊張をなんとかしようとするから、夜弧もテンパってしまう。カードというのを知らない人にも分かるような説明であった。



『男性は青色、女性は赤色。!ごめんなさい、男性が赤色の電子カード。女性が青色の電子カードです!』


やっちゃいけない、情報伝達のミス。混同してしまえば、報道の意義が薄れてしまう。

夜弧が慌てるところをライラがすぐさま助太刀。



『今度はこの電子カードがこの世界での通貨となります』


ありがと、ライラ……。


夜弧はすぐに奥に引っ込んで、蹲って反省するのであった。ライラは台本が2つとなって、慎重に間違えないように伝えていく。



『通貨だけではなく、こちらには皆様の名前、生年月日、性別、住所、出身地、個人番号、連絡先、通学先もしくは勤務先、家族構成などなど……様々な情報が記載されている物となっています』


伝える手段は声だけではない。ラジオで聴いている春藍達には分からないであろうが、モニターと一緒になって知る者達もいる。

ライラは口こそ上手く行くが、しっかりとモニターにカードを映して説明するのはあまり上手ではなかった。


『小さいですわね』


台本にもねぇ、台詞をぼやくな!!


カードは小さいとライラの私情が流れ出る始末。これを知ってしまった春藍とアレクは、少し気まずい雰囲気となったという。



『これが名前、これが生年月日……?あれ、性別はどこにあるのかしら?』


ダメだ。やっているライラまでグダグダになってきている。ラジオで聴いている人々にとってはなんなのか分からない。そして、モニターで見ている彼等もライラの私情通りの事を思ってしまう。



「あいつ、ただのカードだと思っているのか?性別はカードの色だって夜弧が言っていただろ」

「ライラはここの出身ではないですからね」


全員に説明する人間が、こうもグダグダであってはせっかくの良い政策や良い商品も、悪いイメージが先行してしまう。



「ふ、不安だ……」

「これはちゃんと報道できているのか?」


当然、政策だけでなくライラと夜弧にも、不信感が募る住民。みんなの耳に届ける情報がこうも不安な声では……信頼するのことは難しいだろう。

まだ始まったばかり、と言ってやれるほど。状況は落ち着いてもいないのだ。


それからライラと夜弧の手探り&グダグダな報道トークに、住民達は心配の声を多数寄せたという。


まだまだ報道も、政策もこれからである。



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