ICカード②
アレク・サンドリュー。
技術開発局というあらゆる分野を製造する施設のトップを任されている男。人望もあり、部下にも、住民からにも支持されている。
さらに彼は管理人のナンバー2、ポセイドンの弟子でもある。
選ばれている人材であり、選ばれたからこその教育も行なわれた完璧人間と言っても良い。
だからこそ、クォルヴァはここでアレクに対して言葉を述べた。
「フォーワールドだけの問題ではない。また、君の意見が全てでないからこそのこの話し合いだろう?みんな、忙しいんだよ」
アレクは戦闘能力もずば抜けている。フォーワールドにいる人材で彼とまともに戦えるのは限られていることだろうし、政治的な発言においても彼に言えることは限られるだろう。
「クォルヴァ」
「少し、落ち着きたまえ」
先ほどキレて分かるように、アレクも度重なる業務で心身を痛めていた。
それを軽く和らげるクォルヴァの緩い物腰。
「案は良いと思う。ただ、あまりにも君と技術開発局の皆様、広東のデータ処理を任されているチームへの負担は相当大きいと思う。労働で死んだら、それこそ意味ない」
並の人間がアレクの激務をこなしたら、すぐにあの世行きだろうけど。
「それにアレクくんの考える大切さを、住民はより理解しなければならないだろう。人は大切という言葉をよく履き違える」
実現を目指すことにはクォルヴァも賛成である。しかし、強弁に打って出る政に抵抗を感じるのも事実。移民が多ければ賛成よりも反対の方が上回る。まずは政策に対する理解をしてもらう必要がある。
「金はどの異世界にも共通して、人間達と管理人が作った価値だからね。そのシステムを変えるのならしっかりとした話し合いが必要だ」
とはいえ、移民達の多くと協議している場も時間もない。アレクだって暇じゃない。
「住民達への説明は私が引き受けてもいいかな?その方がアレクくんも開発に取り組みやすいことだろう?」
クォルヴァ。社会の大きな根源の決め事に名乗りを上げる。
◇ ◇
バヂイィィッ
アレクが電子カードの製造に力を入れ始めている。部下である春藍の協力もあり、製造そのものは上手く行っていた。
「これからはこのICカードが中心となるんですね」
「その通りだ」
春藍とアレクの力もそうだが、何より手に入れた資源、"アルテマ鉱石"を元に製造している。"アルテマ鉱石"が手に入ってやりたかった政策であったのは否定できない。
「クォルヴァが話をつければすんなりと行くんだがな」
自らの案に賛同してくれる者も当然いる。春藍は特に典型。一方で、
ガチャァッ
「お仕事中に悪いわね」
「少々気になって、私達が代表で来たんですけど」
アレクの仲間の中にだって、アレクの強弁な言い回しに不安を感じている者もいる。その中を代表して、ライラと夜弧の2人が来たのはアレクには分かっていた。
「春藍、少し1人でやっててくれ」
「え?」
アレクは話しやすくするため、1人で2人との話し合いに臨もうとしたが。
「ダーメ。春藍も来なさい」
「そうですよ!春藍様にもご報告があるのですから」
一度、2人は手を止めてライラと夜弧と共に面会室に入るのであった。
よく考えればこんなメンバーが揃うのは久しぶりであり、
「おぅ」
「ロイもいるのか」
「俺はタドマールの代表としてな」
ロイまで揃っての話し合いへとなった。
コトンッ
春藍が5つのお茶を用意し、隣り合って座る春藍とアレク。ライラと夜弧。1人だけ立って静聴するロイ。管理人の消失、"無限牢"の崩壊など、人類の指針が失われて造り上げる段階での話し合いだった。
「アレクがフォーワールドを護る意志、あなたが大切にしたい気持ちを高く評価しているわ」
ライラが最初にアレクに忠告した。
「でも、もうあなただけの物じゃない。私は多くの人を救いたいから、こうしてやってきたつもり。あなたはあなたの物を護りたいところなの?」
アレクの政策を非難するのではなく、アレクの政策に対する頑固さに危機を抱いた。
優秀だからこそ、誰よりの最良をとりたがる。支配の色は独裁といったところだろう。さすが、ポセイドンの弟子だと思える嫌な部分。
「あなたが尽くすほど、あなたがいなきゃいけない世界になるでしょ?」
「…………」
「まさか、不死身と思ってるの?」
「んなわきゃねぇさ」
1人突っ走っていた。
ライラ達は、ヒュールや山佐などの声も拾ったからこそ。警戒心を強めたのだろう。仲間だろうと、手を切れると言える雰囲気に
「ともあれ、心配をかけたな。俺も、お前等に言われれば納得できることが沢山ある」
アレクは自分の変化に気付ける仲間に、少し安堵していた。最近、目の前で起こっていることが自分ばかりいるように感じていた。
心の中じゃ、自分と並べる人に言われたことに見つめ直せた。とはいえ、この場であるのは自分も仲間も否めない。
「クォルヴァに、朱里咲、水羽みたいな凄い人も来ているわけだし、ヒュールや山佐、広東といった周囲の支えになれる奴もいる。アレク、あなた。今の政策が終わったら少し旅に出なさい」
「休暇って奴か?」
「残りの資源は2つでしょ?」
今、必要性を感じている資源。
1.
クローム・エクストス
採取世界、 "雲城"ホワイト・ジャスティス
2.
深海泥
採取世界、 "遊園海底"マリンブルー
この2種類はアレクのみならず、フォーワールド全体で欲していた貴重な資源であった。本来の予定ならば、ライラ達が集めにいき、アレクが護るというものであるが。勝ち、守り、生きて、……いればアレクもアレクで変わっていったのだ。
それを悪い方に止めるのが仲間だろう。予定は未定であるのはアレクだって分かる。
「たまには遠くに行きたくない?」
「……そうだな」
ライラの提案にアレクは素直に了承していた。ここのところ、フォーワールドの事ばかり。人の在り方ばかり考えていた。
休憩と身体に伝わるお茶を飲んでも、その頭はまったく変わらなかった。
「旅、してぇな」
「ふふん!決まりね!あと2つ、私達この5人で行きましょう!」
「それはいいね、ライラ!僕はアレクさんとまた旅がしたかったです!」
ライラの喜びに同調する春藍。
「本当に昔に思っていたことを……」
夜弧はぽそりと過去の記憶から、みんなと旅をしていた事を振り返る。今、こうして夜弧としてみんなと行動できる事を嬉しく感じさせるのはネセリアのおかげだろう。
「アレクがいなきゃ、張り合いもねぇからな」
ロイもライラの提案には多いに賛成だった。やっぱり、この4人が一番落ち着けると付き合って来て感じるのだ。
4人の喜びをアレクだって、嬉しく思っていた。表情こそ、みんなと薄かったが。見えない物を探すとしたら、仲間と思い、思いやれる奴等としたかった。
それと、
「もう一つの用件はなんだ?春藍に言う事だろう?」
「!ああ、そうそう」
こっちの方が重要だと思う。普通の家族ならば。春藍だから次に回してしまった。
「謡歌ちゃんが意識を取り戻したのよ、春藍!」