多くの少年少女が戦う、英雄ものの敵は汚い大人であるが、大人にも家庭があり家族があることを忘れてはいけない
英雄象。
管理人がいなくなり、父や母も倒れてしまった。
まだ自分には継承という形での王位。
「どうすればいいんだ?」
ロストメン王子は呆然としていた。
今、この世界はファシム大臣が執権を持っており、グイ軍団長が率いる軍隊は自分の権限に頷きこそするが、それを手にしていたのは王族だ。王族が自分1人となったから手にした者。王でなくなれば、権限はなくなる。
「どうすればいいんだ?」
まだ子供だから分からないことばかり。だから仕方がないと、言い続けることにいつか不満なり、疑問なりを抱くだろう。ただ、王子という自覚があるのか、それとも不安が嫌いなのか。
持って生まれた権力と人脈を持って、疑問については周りに意見を求めた。疑問という泡を人々の力で割っていった。
「ファシム大臣。グイ軍団長」
不安を割っていくことに誰かの力を必要としていたのなら、自分のやっていることは誰かの答えをただ答えるだけだったのかもしれない。
自分がみんなと同じであることを思いながら、
「どうすれば良いのだ?」
まだ、アンリマンユの右足が大爆発を起こす少し前のこと。
ファシムと、そのファシムの配下達が城内で騒ぎを起こし、外では急に出現したアンリマンユを迎撃するため、グイ軍団長を始めとする軍隊が戦っていたこと。
戦争の情景を初めて目にしたロストメン王子は、誰かの意見を求めていた。
王という血を持ちながら、誰一人も助けられることができない。いや、どんな助け方があるのかが分からない。
ゆえに窓から顔を出し、立ち止まるだけ。
「何をすれば良いのだ?」
王とはなんだ?
民の頂点にいる権力者?誰よりも裕福な存在?支配するべき器を持つ者?
自分の地位がいかにひ弱であり、また己も弱いという自覚を知った。知ったからとて、やり直せるような時間も手段も持ち合わせていない。
「王は……」
子供であるから、仕方のない。と
言えるのは戦時中以外であろう。王という飾りを身にまとった、ロストメン王子は不完全でも動き出した。
「英雄であろう」
振り絞った言葉を、自分が出せた答えと初めて思えた。
こんな自分に何ができるだろうか?王族を除いて、民衆と違うことは特異な体質であることぐらい。
『弱き民に手を貸し、身を削ってでも、護ることが、英雄ではないでしょうか?』
頭に過ぎっていく英雄象。
ロストメン王子が、その気持ちに満ちようとしていた。
『敵を倒すことが正義と感じるのは幼稚でしょうね』
『多くは何かを護るために戦うのです』
『護るべき者だけを数えること、それが正義でも悪でもない。そう、守護というもの』
英雄は戦うためだ。その目的は?何かを奪われるというところから、護るため。力を振り絞って
『王様に、この民を護って頂きたい』
民の声が聴こえる。この異能を使う時は今しかないと決断できる心は、みんなの気持ちからある。
「民のためなら受け止める!それが、僕の英雄伝だ!!」
自らを盾にできず、誰を護るというのか?
目の前に現れた民を護るため、覚悟を決めて盾となった。
ドバアアァァァァァッッ
ロストメン・アイゼリア8世
スタイル:超人
スタイル名:カメレオンイズスタンス
受ける、あるいは浴びた能力とは間逆の性質を宿す力は、アンリマンユの大爆発に対しても確かな働きを見せ、ロストメン王子の身体はそう簡単には滅びなかった。
「ぐぐっ、民を護るための僕の力だ」
彼の背後にいる2人を護るため、その身を削って被害を自らにだけとする働き。英雄になりたいと願っての、身代わり。
バリイィッ
とはいえ、いくら性質を変化させて相殺する受けの能力であっても、アンリマンユの自爆の方が圧倒的に量と力で勝っていた。相性を悪くするだけでは受けきれないほどの、威力がそこに込められていた。
「そ、それでも。僕は……みんなの王子だから」
死を予感させながらも、痛みが麻痺して。前を向く
「民を護るんだ」
全ての攻撃を受けて、守り抜いた2人の命。ロストメン王子はアンリマンユの自爆が収まると同時に両膝を地面につけ、倒れこんで死亡する。
その命を使って、人を護って見せたのだ。最後の瞬間に、命で2つの命を守り抜いてみせた。
「いや~、カッコイイ英雄でしたよ」
1人は拍手を送りながら、ロストメン王子の英雄としての行動を讃えるも。
「テメェはクズだな」
その言葉を拍手をする相方に送り飛ばす。とはいえ、彼もまたロストメン王子に身代わりをしてもらった身。こんな小さい子供にやらせるとか
「だからこそ、お前が支配者として適任だよ。藺」
「子供ってのは正義と悪、英雄、神とかが好きだからね。煽ればすぐに行動してくれる真面目なもんですよ、王くん」
王子とはいえ、……。
このど汚い大人2人は、あろうことか子供を盾にして身を護りやがった。藺兆紗と、王震源。死体となってしまったロストメン王子を
「死んでいるのに、床に転がってちゃいけませんよ?」
藺は踏み潰して、爆発が終った後の様子を探った。相当デカイ規模の大爆発であり、アイゼリア合衆国の形がまるで見る影もなくなった。
「おいおい。まだあの化け物がいんのかよ、酷く損傷しているがよ」
唯一、残っている物としたら琥珀博士が造り上げたアンリマンユのみ。右足を失い、大爆発に巻き込まれながらもその巨大さと頑強さは残り、王に畏怖を与えていた。
もしあれが動けるのだとしたら、勝ち目はないに等しいだろう。
「心配いりませんよ、王くん」
「なに?」
しかし、藺には分かっていたことがあった。
「大丈夫。神を自称する方は私達と違って、必死に護ることを必要としていませんから。ねぇ、メテオ・ホールさん」
アンリマンユの動作停止が、大爆発による影響ではないことを遠くから即座に理解できていたのだ。おそらく、散るであろうその体がどこにも見えなかったから。
「がぁっ。あっ!?」
アンリマンユの搭乗部分にて、琥珀博士は自らの手で首を抑えて苦しんでいた。
「息が、で、できんっ!?」
謎の呼吸困難。室内の酸素がどんどん抜かれていくこと。予測不能なエラーに琥珀博士は混乱し、必死にアンリマンユを動かして逃れようとするもできなかった。
徐々に首を絞められていく感覚。何者かが首に手をかけている気味の悪い温かさ。
『私が死ぬとこだった。半身以上、失ったぞ』
徐々に空気の一部が集まり出して、人の目にも捉えられる緑の煙となって現れるメテオ・ホールの姿。
『確かに馬鹿デカイ科学であったが、その分。外側から内部に侵入できるスペースがあった。気体である私ならば容易くすり抜け、内側に侵入できる』
「き、貴様。貴様がっ」
お互い苦しんでいたが、徐々に苦しみから解かれていったのはメテオ・ホールの方だった。琥珀博士の首を絞めながら、この優位を生かしていく。
「くぉっ、ぐぐっ」
『所詮は人間の造りし物。この神を倒せるはずはない』
アンリマンユに乗っていたとしても、ここまで接近されたら琥珀博士に打つ手はない。相手がメテオ・ホールだということもある。
「まだ、私は、デカイ物を……造らなければ……」
『足掻くな、塵芥』
メテオ・ホール VS 琥珀博士 + アンリマンユ。
勝者、メテオ・ホール。琥珀博士を窒息させ、アンリマンユを制御不能にし制圧。
藺兆紗、王震源、メテオ・ホールの3名は生存を確定。