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RELIS  作者: 孤独
流行編
448/634

突然死について。分かる者、知らぬ者


突然死は本当に突然である。ただ、理解できる者と理解できない者で分かれる。



「こ、これは……」


ハッキングを行なっていたレモンにとっては衝撃的なことだろう。解析と同時に大爆発への阻害を急がなければならない。

青褪めていく表情が露になっていけば、当然、その様子の変化に気付ける者がいる。事態の深刻さを軽く考え、死を遠くに感じている者。



「レモン、どうしたのよ?」



山羊波はレモンのように、存在している言語の多くを理解できるような知能はない。


「れ」

「?」


レモンにとって、アンリマンユが残り数十秒で迎える心中を、仲間という薄皮一枚で繫がった形に、どのように深刻ぶりを伝えるか。同時に直面する現実の悲観さ。



「黙れ!アバズレ!!話しかけるなぁぁ!!」



激昂が解決になるわけがない。

しかし、レモンだけがこの場で死ぬことが分かっているのだ。カウントダウンまで知ってしまうおまけ付き。心臓の鼓動が早まっていく、このまま一気に老衰していくそうなほどの鼓動の速さ。集中して、抗うため、しかしながら、体中と心から死を核心してしまっている。


「っは」

「何言ったの?」


いくら、優れた知識と言語能力を持つレモンがまだ可愛らしい少女だとしても、軽く流せる冗談と、まったく流せない冗談がある。山羊波にとっては前者になる冗談はまったくないだろう。意味も分からず、年下の子から侮辱されたら表情を怒らせる。



たったそれだけで千切れるほど、人間関係とは脆い。



山羊波は周囲の警護を解き、レモンの方へ殺意を向けた。



「今までウザかったです、山羊波おばさん」


設定ではライラより若いんだけどね、山羊波春狩。


「2度ね」


残り時間は7秒ほどであった。

レモンの表情と心拍の激動は凄まじく、発言の内容に関してもその通りであり、声の裏返りも起こった。死の近さを伝えている動きだと理解するには、万人の1人くらいにしか分からない物だろう。


苦しくて醜くて、感情崩壊へと走り出すカウントダウンが5つ手前に差し掛かる。



泡を噴きそうな口、もらしそうな下半身の口。


まだ小さくとも、迫り来る死。生きている最後の時間をこのままにしたくはなかった。大昔のとある部族の男は、介錯ということを行なっていたそうだ。

レモンは散々な発言をすることで爆殺される結末よりも、山羊波に自分を殺して欲しかった。



「廃人行く?」


レモンの"オペラ・クルセイダーズ"はアンリマンユの内部に侵入しているまま。今のレモンは無防備であり、動けることもできないし、山羊波の"五月病"に耐えられるわけでもない。



グイィッ



直接、山羊波が触れれば"五月病"の効力は絶大。常人を一気に廃人にまで追いやるほどの失意。心の枯れ。

レモンの小さい頭を乱暴につかみながら、心を呪縛していく。迫る死への恐怖が一気に沈静されていき、呆然としていく。その数秒。


髪の毛が徐々に抜けていくところをリアルに読み取れること。身体にある穴から中にある液体が漏れ出すところまで。子供という体型は変わりなくも、大人になり、老いを感じ、ババアになって、老衰に到るまでの境遇を1,2,3,4秒という間で知る。

精神が崩壊する状況で、精神を狂わせる魔術をぶつければ当然の事態とも言える。



「ひぃぁ」


レモンの髪の毛の多くは抜け落ちていき、皮膚も骨も、心と同じだけ酷く劣化していく。しかし、レモンにはわずかながら笑みがあった。もう数コンマ前に思っていたことすら分からなかったが、

代弁するに、迫る死を避けられたこと。死を迎えるよりも先に死ねたこと。肉体と心が完全に離脱したレモンは。痛みから逃れ、死ねたのだ。そっちを選んだ。



「で」


山羊波はレモンを殺したことになんの情も湧かない。彼女にとっては、ムカついたガキを説教や注意をせずに、そのまま問答無用の処分をすることこそがやり方。怒声など悪手。



「なにが」


とはいえ、レモンのパニックを見れば。未来で何かが起こることは感じ取れた。まさか、敵にやられたというわけでもないだろうと、殺してからレモンの実力を高く評価する山羊波はちゃんと使い分けができている。




ブシャアアァァッ



ただし。

山羊波はレモンだけじゃなく、メテオ・ホール、藺兆紗よりも高慢であったこと。



「え?」


未来が不幸だと伝えられても、彼女には乗り越えられると自信があった。未知に出会っても心が怯えないと芯の強い心を宿していた。

宿しているからこそ、これから起こった大爆発への直面には激しく、肉体と共に悲鳴を上げた。



アンリマンユの右足が大爆発を起こし、この世界全体が光に切られたかのような衝撃を浴びた。そして、その衝撃が文字通り。本当のことだろうと証明するように、山羊波の身体は光の熱によって体を2つに切り離された。

眩く、斬りつけるような光は照らし続ける。



「熱っ」


肌と骨が焼き付く温度。体の内部を狂わせる猛毒。

吐き気に到る理由がいくつも出てくる。その全てを味わいながら山羊波は苦しむ


「うっっ…………」



喉が枯れて死に、悲鳴は体内と心にだけ強く響く。立つ事すらできず、体の崩壊はさらに進んでいき、わずかに保たれていた人間の形から紙くずのように散り散りになっていく。


「ぶぶっ」



頭は巨大なスプーンでしゃくられるように抉られ、肌は無残の黒焦げ。硬い歯は血の色で赤く染まって残った。爪は剥がれてから熱に溶かされ、足は腐りながら神経が切れた。

痛みが山羊波の心の全てを覆った。


「っっ」


人の心を自分の能力で壊し続けた山羊波であったが、その能力とはこのように容易く再現できるものなのかと、壊れる一瞬に感じてしまった。

死ぬ痛みの前では精神が抉られ、立ち上がる希望を折られる実感を得た。



「あ…………」



まだもうちょっとだけ…………


「り……」


山羊波は心を折られたことで、隠れた本音に気づく事ができた。

それは自分が意外にも、レモン以上に抱いていた気持ちであった。

全てが朽ちた時、最後の後悔を知った。ちょっとは楽しい一時であったからこそ、



藺達と、遊びたかったかな……



痛みが出た心の声ならば、大抵は死の恐怖から逃れたかっただろう。しかし、山羊波はここで死ぬことを残念に思いながら、悔いに留めた。抗わずに自分の死だけに収めた。死にたくないだなんて、かっこ悪い声は上げたくなかった。心の中でも……




「うわっははあはははははは!!」



アンリマンユの右足の大爆発は、あっという間にアイゼリア合衆国にいる人間達を飲み込み、屍を大量に作り出した。爆破による衝撃は本体のアンリマンユも吹き飛ばし、水槽が内から外へと破裂するかのような衝撃で、アイゼリア合衆国と繫がっていた別の異世界にも被害が及ぶほどであった。

レモン、山羊波だけじゃない。グイ軍団長などの軍隊を含め、住民がほぼ全滅。建物というものは全て破壊され、まっさらな土地となるほどの破壊力。

誰も生存させないほどの威力。



アンリマンユに搭乗している琥珀博士だけが、高笑いをしながら死屍累々の光景を見ていた。勝ったとはいえ、当初の目的が頓挫する形となったことに、本人は知る良しもないだろう。



レモン・サウザンド、山羊波 春狩。死亡。



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