表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RELIS  作者: 孤独
流行編
444/634

営々累々と

努力の方向を問う奴はいるか?……いるものか。残念。



「せっかく積み上げたんだが、謎の反乱か?」

「いやぁ、分かってるくせにー」



ファシムにはある程度の予想はできていたらしい。


「何者だ、貴様。……いや、貴様等か?」

「藺兆紗。あなたを不幸にする者です」


両者、スーツ姿であっても。デブとガリの差がある。


「殴り合いは止めましょう。ひ弱なんでね」

「私も遠慮だ。デブは息切れが早いんだ」


なんの自虐大会だ?

藺兆紗がファシムと相対したのはファシム専用の個室であった。完全な敵地に、単身で乗り込んだ藺兆紗。本人が自覚しているように戦闘能力は低い。

物を言うならば、



「出てこい、人形共」


ファシムはまだまだ隠していた操り人形を惜しげもなく、呼び寄せた。藺兆紗から見えないよう、自分の前に立たせていく。


「話は人形にしてから訊こうか」

「ふふふっ、人形ですか。あなたが操る彼等を人形と言いますか。ホントに言っちゃいますか?私の目の前でですか?撤回はできませんよ」


その言葉をしかと、本人の口から聞いた藺は顔を抑えて


「うあはははははははははは」


気の狂いを吐き出す高笑い。


「あなたには無理だ!」

「何がだ?」


答えの意味を理解できないのなら、愚でしかない。


「人間を真に支配できない小物だということですよ。消えろ、ゴミ屑」


藺兆紗もまた啖呵を切ったように数は少ないが、自分が雇っている人間達を呼び寄せて行く。

藺兆紗は分かっていたが、ファシムはここでようやく理解する。


「同じタイプだったか。気が合わないわけだ」


操り人形達が勝つか、しかと洗脳された人間達が勝つか。どっちもどっちで、応援したくねぇ能力者同士だった。



◇   ◇



「あ~~~」


王の"超人"としての能力、MIIMミッション・インポッシブルは主に関節技サブミッションの達人となること。暗殺術に特化した能力である。隠密行動が主であり、彼もまた真正面をきっての戦闘を好んでいない。

とはいえ、戦いが嫌いと言っているわけではない。



「プロは仕事を選ばねぇ」



どんな人間も壊せば動けない。人形との違いはあっても、体を破壊することは間違っていない。好んでいないのは、極める機会が減ってしまうという単なる勝率が下がる程度のこと。

1人の相手の腕を手で握れば王の土俵。考える間も与えずに、曲げてはいけない方向に螺子り、



バギイイィッ



骨が、関節が持ちこたえられない音をしかと聞けば、王の足は蛇のように素早く相手の頭へと回る。足で、ボトルの蓋を外すように首と頭部を螺子切り離す。



ポォォンッ



王の動きがここまで洗練されているのは相手が人形故、動作が遅れていることがある。普通、こう上手くいかない。また惨く死体を造り上げて、恐怖を感じないのもまた人形らしい。

それくらいが王にとっては、性質の悪い事。


「一長一短だな」


ファシムの能力は対象者を操り人形にするだけであり、その数はかなり多いが精密な動きには欠けている。戦闘のような複雑な動きを表現する力はない。暗殺部隊であった彼等であっても、その本質はすでに大きく欠けていると言えよう。

ともあれ、



「ん?」



それはファシムが彼等を操り人形にしたからである。人形となる前、人間だった頃にやられたと推察すれば、何かしらの別の力があったと言って良いだろう。

すでに暗殺部隊を2人撃退した王であったが、こちらに向かってくる団体さんの足音を聞きつける。一度スイッチを入れば、どんな状況でも人形として操られて、ファシムの前へとやってくる。質で劣りながらも国民の3分の1を中毒状態にし、人形化しているファシムの力。



「おいおい、これだけの数はさすがに御免だぜ。戦えねぇ」



メテオ・ホール達が人間達を引きつけるだけの騒ぎは起こしている。爆発音はこの城にも届いている。



「命令されりゃ忠実に実行してくるのは腹立たしいな。頭使えよ……」


藺が本調子なら同じくらいの人数を用意できただろうが、さすがに分が悪すぎる。徹底した物量による中毒作戦が奴の狙いか……。


王は包囲される前に逃亡を図る。その逃亡を目撃すれば人形達は、王に狙いを絞って追いかけ始める。ファシムの命令に精密さが欠けている点を見抜いている王は全速力の逃げを行なわない。飛び道具だけを慎重に避けながら、ギリギリ許される戦闘の間合いを保ったまま誘導する。



「援軍の足止めは何も倒すことだけじゃねぇ」



数と数の戦闘になることは、藺が予測済み。俺の任は1人でも藺に近づけさせない事。ファシムを倒したら今度の社長はあの藺なんだからよ。少しはマシな奴だぜ、人形共。

少なくとも、人間として藺は操るからな。



王が敵の注意を最大限に引きつけながら、ラジオを聴くように喧騒を探る。


銃撃戦、剣の鍔競り合い、骨と皮膚が剥がれ落ちる音。人間同士の空の喧騒。



◇   ◇



一方、藺兆紗と王震源が城内でファシムと対決している中、城下町の方ではレモン、山羊波、メテオ・ホールの攪乱ゲリラ攻撃が多いに軍隊を苦しめていた。



「一体何が起こっている?」

「そ、それがサッパリ……。偵察に向かう兵士達が次々とやられ、意識を失う者ばかり。戻ってきても精神が崩壊している状況。様々な連絡手段が使えぬ状況でもあります!調査不能です!敵の数も不明!それが現状です!」



アメジリカでも猛威を振るった、レモンの"オペラ・クルセイダース"。言語に仕込まれた科学は、情報を多いに混乱させて標的を索敵しているグイ軍団長の頭を悩ませた。

そして、これが敵国に真に攻められていることだと知った。


「住民の安全は?」

「ファシム大臣の忠誠者以外は今のところ、10数人の死者しか……しかし、この情報も正しいかどうか」

「城内にも異変か。王子の命も危ないが、この現実はファシムの仕業ではないな」



この時点で、グイ軍団長は敵が散っており。7人も満たない侵略者だと判断していた。


「早急な解決が必要だ。警報を発令させるのだ。避難勧告を鳴らせ」


王子への忠誠は厚い。だからこそ、民衆の被害を最小限にして城内に戻る決断を即決した。情報の攪乱を主としている戦い方から得られる情報として、逃げることは得意でも護ることは苦手だろうと判断できる。

グイ軍団長が動く。



『全住民に告ぐ!これよりグイ軍団長が"橋を懸ける"!速やかに街から逃亡せよ!繰り返す……』



住民を護るとはまったく別の能力。多大な軍勢、巨大生物との戦いを想定して編み出した能力。



「ブリッジオブルーム」


範囲内にいる人間は発動前に遠く逃げ出すよう、訓練されていた。敵味方問わずに襲い掛かる攻撃だからである。注意していれば避けきれるものの、初見は間違いなく無理。



『発動まで残り10分』



制限時間のカウントが始まる。


レモンと山羊波、メテオ・ホールは一度集まって、グイ軍団長の能力を警戒していた。


『私は奴の攻撃など効かんがな』

「山羊波さん、どうします?」

「そりゃ私とレモンは逃げないとマズイでしょ。振り落とされるなんて嫌よ」


ゲリラ戦を一時中断し、逃げる選択をとることに即決。グイ軍団長の思惑通り、敵は逃げることに徹する。つまり、一時的ながら情報手段が回復し、満足に敵が動ける形にもならなくなる。山羊波達の判断も間違いではない。メテオ・ホールは無事で済んでも、レモンと山羊波は無事で済まない。まともな戦闘は避けたいのだ。



ゴゴゴゴゴゴゴ



「やばっ!?もう始まった!?」

「カウントダウンは誤報ですか。敵ながらやってくれますね」


決断からすぐに、アイゼリア合衆国の全土を揺るがす大きな地震がやってきた。



「グイ軍団長!まだ住民の避難が完了していませんよ!」


この地震には、なんと軍隊の方も動揺していた。まったく止むことがない揺れ。しかし、


「いや、そんなはずはない!発動まであと早くて5分は掛かる!」


グイ軍団長もまったく、予想していない地震であった。そして、揺れが深い地下から来る物ではないことを、自身の能力から察する。ありえぬ平面からやってきている。

高い建造物がロクにないこの異世界だ。入ってくれば、すぐに目を惹いてしまう。その圧倒的な絶望感。



バギイイィィィッッ



揺れが起きるのは当然と、言い切れるような超巨体。現れた部分がまだ手。多くはそれを知らない。



「ぶははははは!!なんじゃこの異世界は!?低い低い!!ちっぽけな異世界は!?我がアンリマンユを一望できる世界なのかあぁぁっ!?」



琥珀巨星と、アンリマンユの乱入、及び侵略であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ