支配の感覚
アイゼリア合衆国には2つの勢力がある。
一つはファシム大臣お抱えの政治家集団と暗殺特化集団。
もう一つはグイ軍団長とロストメン王子を中心とした軍隊集団。
「どの異世界でも軍と政治は相容れないものですよね」
ロストメン王子はファシム大臣を信頼しているものの、軍隊を動かせる権力を握っているのは彼しかいない。また、グイ軍団長への信頼も厚いのだ。
日常的な会話はファシム大臣の方が多いものの、重大な案件には必ずグイ軍団長の意見も求める。
「ファシムには注意してくださいね。特にレモンちゃんと王くんは、認識し辛いでしょうから」
「ファシムの能力は絶対に御免だな」
「藺さんと同じタイプ。全員、遠慮です」
ファシム
スタイル:魔術
スタイル名:ハンドフロムスロット
スタイル詳細:
対象者を中毒状態に陥れる能力。ファシムの魔力に触れると何かしらの中毒症状を訴えるようになり、多大に浴びれば精神を壊されてファシムの操り人形と化す。
ファシムが大臣の地位まで上りつめられたのは、多くの人間を操り人形にしてきたからだ。また、流行り物を生み出しているのもこの力である。
「ともあれ、暗殺なら俺だろ?」
この異世界を支配するに当たって、もっともやるべきこと。
ファシムの暗殺は最重要任務。王震源が真っ先に名乗りを上げていた。
「ですね、ですから私とコンビです」
「なんだそりゃ……」
「言ったじゃないですか、ファシムの能力は危険ですよ?私が必死になって、登用した人材を奪われるわけにはいきません。ここは私と山羊波さんで別れるのが上策でしょう。敵はファシムだけでもありませんし」
アイゼリア合衆国は人が多い。ファシムによって操り人形となった住民もいたり、ロストメン王子のような王位継承者を慕う者もいたり、軍隊に憧れる者もいる。
そういった憧れや慕い、崇拝を藺は独占したかった。当然、
「支配はそうできますからね」
そこは藺なりの思想が入り混じる。元々、藺の支配に強い関心は他の連中にはない。
「……分かったよ」
「私とレモンちゃん、メテオ・ホールは何すれば良いのよ?」
「山羊波さん達は軍隊を引きつけてくれませんかね?グイ軍団長も中々の使い手と言われております」
グイ軍団長
スタイル:魔術
スタイル名:ブリッジオブルーム
スタイル詳細:
一定の空間内において、様々な橋を手掛けることができ、橋以外の部分は崩落していく。能力を解除すると、崩落した箇所は再生していく。
軍隊などの大軍、巨大生物との相性は抜群である。
「あと小さい子供とはいえ、王族も危険です」
「ロストメン王子という子ですか?」
「王族とは昔から平民とは違っているものです。侮らぬように」
ロストメン・アイゼリア8世
スタイル:超人
スタイル名:カメレオンイズスタンス
スタイル詳細:
他者の能力を浴びることで他者への能力の免疫が生まれ、拒絶していく。様々なことに適応していくことができ、他者の能力とは間逆の能力を一定時間身につけることもある。
やはり藺兆紗達。"占有"の利が大きい。保有している情報量が違い過ぎる上に、潜伏という状況でここにいる。
奇襲は無論、攻めのみに集中できる状況。
入念な情報収集と下準備を行なってからの、支配の実行。
「ともあれ、ファシムを抑え込めば私達の勝ちです」
「ガチンコでこの異世界に挑んだら殺されてるが」
「ターゲットはたった一人」
「なら、4対1ですね」
『ふんっ、我を忘れておるな。レモンよ』
このような準備を終えて、実行に入れば素早いものだった。
ドオオォォォンッ
「な、なんだぁー!?」
「城下町の近辺で大爆発が起こったぞ!?」
メテオ・ホールが派手に城下町で騒ぎを起こす。爆発というシンプルな騒動は、住民達は無論、兵士達をも一瞬の動揺を誘える。
軍隊が情報収集を始めれば、それを妨害するのがレモンと山羊波。
「急に文字が現れて襲われているー!」
「やる気なくなった…………」
混乱、混乱、混乱である。正直、ただ強い奴の襲撃ならば対処はしやすいが、様々な方面からの妨害は脅威であった。
「軍隊はとりあえず、こんな形で城内から出てもらいましょう」
「ファシムお抱えの暗殺部隊が中にいるんだろ?」
「所詮はファシムの操り人形。王くんなら倒せるでしょう?」
なんていうか、藺がファシムと相対したい雰囲気だ。
王には少なくともそう感じていた。
藺と王は、ファシムとロストメンがいる城の近くで隠れていた。時を見て、王が衛兵を2人暗殺し、衣類を徴集。変装して城内へと侵入していく。
その中で一番を知っているつもりで、質問してみた。
「普段だったら隠れてやるんじゃねぇか!?」
「え?」
「騙まし討ち、姑息、陰謀。卑怯ならば藺兆紗の十八番だろう」
「いや~、気持ち良い褒め言葉ですね」
進みながら今回の支配への仕方に疑問を思っていた。
「真正面からぶつかり合うのはお前らしくねぇな」
「仕方ないでしょ?すでに操り人形になった人材を見ているとムズムズするんですよ」
「人形だからか?」
「ええ、人材に光りを感じない。同タイプとはいえ、その仕方に輝きがない。吐き気のする邪悪です」
全ての人類はきっと、お前にだけは言われたくねぇだろ……。
「ファシムを倒せば人形から人間へと戻れる。それから私の人材への食指が動く」
手段は問わない奴だからこそ、正面を切れるわけか。
分かった、分かった。
兵士の多くが城の外へ出ている中で、逆走をしている兵士がいれば目に付くのは当然。そして、見た事もない顔立ちであれば当然。
進んでいく廊下で対峙したのは、ファシムお抱えの暗殺部隊。その数、4名。
「あらら、標的の前に出くわしましたね」
「……確かに藺の言うとおり、人形共だな。なっちゃいねぇ」
暗殺部隊と揶揄されながら、侵入者に対して馬鹿みたいに相対する時点で失格。細かい命令を把握できないんだろう。
王は藺の言葉を受けて、真正面から行く。
「この4人は俺に殺させろ。藺は、ファシムを倒してこい」
「さすが王くん。最高のパートナーですよ」