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RELIS  作者: 孤独
移民編
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移民達の関心⑥

ロイと朱里咲が自然を相手に奮闘していた頃。


「こっちも始めるぞ」


アレクもまた、自然と闘っているところであった。

先日、隣の異世界から流れ込んできた"ザクロ水"によって生まれた海の前に立っていたところだった。



こちらはまだ居住区に近いこともあり、アレクを含めて15000人ほどの人員が集まっていた。



「アレク!建材の準備も整ったぞ!」

「分かった」



輸送関係の仕事を行なっている山佐はアレクの補佐としている。

アレクが、研究者や先生のような感じをかもし出す白衣を着ていないところは珍しかった。ちゃんとした工事用の衣類を着ていた。

これからやる一大工事は、ロイと朱里咲に任せたことよりも重要な物。失敗は許されない。



「魔物は武力で抑え込めても、津波はまずどーにもならんからな」



防波堤の強化はもちろんであるが、限りがほぼない水を使って様々な物を造り上げたかった。



「これより水路の工事、設営を行なう」



あまりにも水が多すぎるため、その貯蓄する場所が別の異世界にまで及んだ。しかし、一つの異世界にこの水を貯蔵できるとは到底思えない。休まずに、勝手に増えていく魔法の水だからである。



ドバババババババ



そこで海から10kmほど離れた地点に、巨大な穴を地面に空けていた。

およそ300m深い穴。この中に海からの水を一定の間隔で送り込んでいた。そして、その最深部には巨大なフライパンのような"科学"があった。



ジュバアアアァァ



流れ込んでくる水を瞬間的に蒸発させる"科学"。

発生した水蒸気であっという間に内部の様子は分からず、遠目で見れば火災でもあったかのような煙の量であった。海の水量を調整するという意味でもこの簡易的な、システムは役に立っていた。



「これを最低でもあと5つは必要だ」

「一つ建造するだけでも大変だったんだよな」


フォーワールドの気象は比較的に晴れが多い。人間が過ごしやすい環境は天候からもある。

"ザクロ水"の調整も含めれば良い感じはするが、明らかに気象に影響するほどの水蒸気が生み出されていることを山佐も感じ取っている。アレクだって分かっている。しかし、これはアレクなりの考えがあった。



「ロイ達が造っている自然の山まで、水を運ぶのは雨が一番だからな」


量や、どれだけの気象変化が起こるかの計算をしている場合ではなかった。まずはスピードを追求した上でのシステムがこんな原始的なものだった。

無論、これだけではない。



「生活用水の改善を山佐に一任してもらいたい」



多くの移民達が暮らすこととなって、現在の水道管理では明らかに足りていないことが判明した。蛇口から出る水、トイレの水、風呂のお湯など、水というのはとても有用であるのは人間の扱い方がとても上手かったからだ。

アレクは現在進行形で、海とは別の水の通用口を建造していた。



「さすがに海と一緒にするわけにいかないからな」



人口の湖の建造である。

この湖と山佐が得意とする運搬事業の知恵で、生活用水の改善を託された。


「水道工事なんかしたことねぇけど。運搬とは違うぞ」

「とはいえ、お前は運ぶことに関してはスペシャリストだろう?頼んだぞ。ちゃんとした専門家や人員は用意できるから遠慮するな」



要するに山佐が責任者となれ。それがアレクからのお願いであった。



「分かったよ。お前ばかり頭と身体を使ってもらっちゃ、困るからな」



アレクの要望を淡々と引き受ける山佐。

元は運送関連の事業に携わっている上に、そのトップでもあるのだ。人材の扱い方はちゃんとしている。本人が感じている不安は大袈裟とも、アレクには感じていた。



さて、


「用水路の改善業務ですか」

「これにもやはり、土地の性質が重要ですよ。この異世界じゃ不安が多い」

「念入りに調査を行なった方が良い。生活基盤は一度造り上げることより、変更や移動が難しいです」



まずは移民達の中でこのような業務の経験者がいるか、詮索して招致した。

移民達はすでに簡易的なアンケートを受けており、どのような職業をしていたかなどは把握できていた。

山佐を含め、5人のプロジェクトリーダーによって計画は進む。選定する土地、用水路の構造、必要な人材と資源、機材、金額、期限の見積り。とんでもなく、大掛かりになるのは間違いない。



「間違いは許されない。生活を支える仕事とは、"確実"であることが最優先される」



どんな仕事でもそうであるが、

今一度、期限という欄に斜線を書いておきたかった。綿密な会議、進行予想。速やかで確実な仕事をこなせという矛盾に近い状況。わずかな下地があるとはいえ、かなり0からのスタート。

山佐はふと、召集した人材に疑問を



「仕事にやりがいはあるか?」


フォーワールドという異世界はアレクの技術開発局を始め、娯楽などの類が少なくて、労働ばかりであった。やりがいという言葉は仕事を円滑にやるための、気合みたいなことだ。何事にも心がなければ生まれない。

厳しい業務に慣れていた山佐は仕事として、真っ当な対応と判断をこなせる。



「当然です」

「私達が、多くの人達を支える基盤を造るのですから」

「手が震える光栄を感じさせる、この仕事は成功させたいものですよ」

「命と生活がかかれば誰だって必死になれます」



ああ、よかった。


山佐はその気持ちを本当に、正直に、真面目に受け取った。

初対面な人もいる中で瞬時に本心なんだなって、感銘を受ける。自分も含めて、皆が心配し、不安を抱いている。その中でただ立ち止まっているのなら、変わりなく。



「失礼なことを訊いてしまった。すまない」

「いやいや、山佐さん」

「実際、これは1人では心が折れる……」

「しかし、人は皆支えてますからな」

「仕事はやるのみですよ!」


不安を抱いたからこそ、慎重になったとしても、手をゆっくりと進めていく、脳にある知識を引き出して、言葉を紡いで文字や声にする、人に協力を求める、さらなる協力を求めていく、不安が伝染していく、また安心も伝染させていく。

1人が考え、さらに5人が考え、しっかりとした決断ができるまでの考えを生み出した。考えを形にするための人材、人員もまたやってくる。



「やりがいのある仕事か」


そう、心から思えた事が久しい。それは仕事に慣れすぎたことだった。

多くの労働者達は感じているんだろう。確かな安心と安全がないにも関わらず、楽しめるのは未来が明るくなるという一面と絵図があるから。

何もないから。だからこそ、生み出す物に光りと色を見てしまう。


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