移民達の関心①
ボロボロな帰還を果たした春藍達。なんとか"アルテマ鉱石"を大量に手にしたが、ぶっちゃけると渡されただけである。
「いやぁ、酷いね」
全員一命を取り留めているが、重傷と重体者ばかり。治療に当たるクォルヴァも思わず、苦笑いを浮かべるほどであった。
春藍、ライラ、夜弧、謡歌、アルルエラの五人には強烈な精神攻撃による汚染を浴びていた。今はほぼ正常な精神状態だと本人と検査から現れたとしても、心の判断というのは難しいのだ。
後々の選択を変えてしまうもの。性格を壊されること。
「精神治療に完璧はないんだがな」
クォルヴァの治療能力は人類の救済に当たり、様々なものに対しての治療能力を備え付けられている。精神治療も可能であった。(本人は得意ではない)
精神汚染された対象者の肉体と"同化"し、一度、身体をクォルヴァが支配する。その肯定中に、自分と対象者以外から浴びた魔力が体内に残っていれば、クォルヴァの能力で体外へと弾き出す。
この世の黒さが表された、どす黒い煙が身体の外へと流れ出る。
「ここまでの精神攻撃を懸けられる人間がいるなんてね」
あくまでこの治療はすでに掛かった状態以降に対して、有効である。
つまり、一部ではあるが。性格に変化が生じていることも全員が承知しなければいけない。深く考えるほど、どんな性格だったか歪んでいくだろう。
「とはいえ、終わったよ!」
藺兆紗から浴びた精神攻撃の全てを取り除いたクォルヴァ。
多くの人間を管理してきていたが、これほどの能力者がいるとはにわかに信じられない。
「ふーむっ……」
一方で、春藍達と共にやってきたアメジリカの住民。それが全員強くて戦う女性と来たら、優男共の目も変わってくるもの。
しかしながら、大半は男に興味がない連中である。そんな中、1人の男を見つめている朱里咲の姿があった。
「君、タバコは止めた方が良い。せっかくの強さが損なわれる」
「あ?さっきからなんなんだ?」
春藍の無事の帰還にホッとし一服しているアレクに、金言のようで失言を発する朱里咲であった。
「アレクくんと言ったか?君とは一度、真剣な殺し合いをしたいな」
「ふざけたこと言ってんな。俺は暇じゃねぇーんだ」
「ちぇーっ、いかんなぁ」
アレクもまた、朱里咲のことを強く警戒した目を向けていた。
お互い感じることは戦ったら、どっちが勝つかわかんねぇ。しかし、ともかく。
俺の方が、強い。
私の方が、強い。
「こらーー!お前等、なに見つめ合ってんだ!!俺は許さんぞ!」
「いや、してねぇよ」
「色恋沙汰ではないんだがな」
そんなことは分かっているが、なんつーか納得いかんのだ。ロイにとってはやはりこう。なんなんこれ?
「伝説の女性だけの異世界、アメジリカになんで春藍は行っているんだよ!!しかも、移民としてここに彼女達が来てくれるなんて!!どーゆう運を持ってやがるんだ!?くそーー!」
「……ロイとか言ったか。一体なんのことを言っている?」
「さぁな?」
妬み&妬み。
女性パーティーを率いて異世界に行ってきたら、その異世界の女性全員を移民として連れて来てしまう、異様な女性を引き寄せる強運。
「俺がそーゆう役でもいいじゃねぇか!」
「無理だろう。お前は損するキャラだと思う」
「ちくしょー!」
なんだかんだ漂うネタキャラ臭ではあるが、発言とは裏腹に中に秘める成長の予感。アレクとは違い、まだ完成に至っていない素質。
「ロイ君との死闘も楽しそうだな。血、湧き、肉、踊る」
「随分な戦闘狂が来たもんだな。あの野郎を思い出す」
「うおーー!俺もなんか素敵な出会いがしてぇーー!」
朱里咲は新たな出会いに闘志を燃やし。
アレクは新たな人材に警戒感を抱き。
ロイは新たな運命を求めた。
「むぅ~~……」
「なんだい。水羽ちゃんと言ったかな?」
「また謡歌の中に入るつもりかぁぁ!?」
「そうしないと治療できないんだ。君にだってしただろう?」
一方で水野水羽は、管理人であるクォルヴァと対峙していた。謡歌の治療を行おうとするクォルヴァを強く警戒していた。
当然といえば、当然か。体内を乗っ取ることによる治療をやられた水羽だからこそだ。
「もうさせないぞ!謡歌に危害を与える奴は僕が倒す!」
「勘弁してよ。私は戦う気ないんだけど?」
治療の仕方が悪い。
手術という光景を生で目撃したら、医者以外は不安を感じるのと同じだろう。クォルヴァは立ちはだかる水羽をどうやって説得すればいいか、思案する。そんな時に声を掛けてきた人物が一人。
「クォルヴァ殿。少し急かして宜しいですかな?」
「ヒュールさん」
「誰!?そこのおじさん!」
ヒュールがその場にやってきて、水羽の機嫌の悪さをあっさりと和ますことを言ってのける。
「謡歌は必要な人材なのですぞ。早急な治療をお願いするのですぞ」
「だってさ、水羽ちゃん。医者じゃないが、私は管理人。君の心を踏み弄るような行為はしないさ」
まだ謡歌が眠っていること。意識が戻っていないこと。
「私は謡歌の先生をしていたのですぞ。だから、君以上に謡歌を知っており、謡歌の兄よりも知っておるのですぞ」
何よりも謡歌の回復を望んでいるヒュールの言葉。得体の知れない存在はお互い同じ。水羽は謡歌に近づくクォルヴァを止めようとするも、ヒュールが制した。殴りそうになる。
「君の拳をモロに受ければ、私は死にますぞ」
「………ホントに、あんたは謡歌の先生なんだよね?」
「無論ですぞ」
治療をするのはクォルヴァだ。水羽と同じなのは分かっている。
ヒュールができることは治療をさせるための環境作りのみ。説得する言葉のみ。
「100%を尽くすけどね」
「真剣であれば結果もついてくるものですぞ」
クォルヴァは自分の範囲内でしか行動できないと、しかと2人に伝えておく。多大な影響を与えられているため、性格や記憶に乱れが出るのは当然だと思って欲しいと伝える。
そう伝える。とても大切な事だ。伝え方で気持ちは動く。心が変わる。
「これからどうなる?」
現在、およそ200以上の異世界の住民達がこのフォーワールドに集まり始めていた。彼等を取りまとめているのは、管理人であるクォルヴァだという表向きの名であるが、実際はヒュールとアレクがクォルヴァの下を支えているどころか、2人の思想と行動が色濃く反映されていると言って良い。
仕方ない。なぜなら、この異世界は彼等の場所なのだから。
「どーなっているんだ!?」
「これから未来はどうなるのです!?」
避難という言葉を使えば、助かったと思うだろう。
しかし、移民という立場であれば避難とは一時的。彼等が寝食に居住まで手にすれば、住民に変わる。故郷に帰ることは難しいが、これからのビジョンをより明かして欲しいという声が高まった。
支配の色を知りたいのだ。