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RELIS  作者: 孤独
防衛編
432/634

犠牲ロマンチック


先にスタートを切られた。押し寄せた水は軽々と力を押し潰す。



「ッッ!」



アレクは"紅蓮燃-℃"を起動するタイミングが数秒、遅れてしまった。

これは痛い。自分に襲い掛かってくる水を一気に蒸発させることはできるが、アレクの炎もまたすぐに消え失せる。

予め焼いておいた土地にもすぐ、水は広がり飲み込んでいく。



「津波が来るぞーー!」

「塞き止めろーー!」

「急いで土地を高くするんだ!」



人海戦術による力で造り上げる防波堤。いかに数が多くても、自然の前では無力なのかもしれない。特に速さでは勝ち得ない。




ドガアアァァッ



「ちっ」



アレクが立っていた高台も水に流され、アレクも水中に引きずり込まれる。急激な流れに会いながらも意識を保ち、自らの炎で水を消し飛ばす。なんとか自分を保つだけで精一杯だ。



「クソが」



こうなるとクォルヴァと若に頼るしかない。自分が生きているということは、2人も生きているということ。変化があればすぐに分かる。さっさと土地を壊しやがれ。


「!」


しかし、水だけが敵ではない!水中に飲まれたり、水中から脱出したりと忙しく動いているアレクに向けられる殺意。生物が発する特有の殺気って奴。

水中で生きている魔物達はすでにアレクの周囲を囲んでいた。



【我等、海中賊!】

【我等、全ての異世界を海にする者!】



港未来"よこはま"からの侵攻は管理人がいなくなった代償だけではなかった。海中の生物達による支配が絡んでいた。海を広げ、自分達の異世界を広げて守るための、侵攻。


【我等、人間は駆逐する!】



津波以外にいた予想外。



「こいつはラッキーだ」



アレクは不敵に笑い、津波から逃れるように放ち続けた炎を止めた。そうなれば当然、波に飲まれる。海中に包まれる。賊の陣地に入る。海中の魔物達がアレクを餌と認識して食いにかかる。

覚悟していれば、意識は踏み止まれる。しっかりとした足場が欲しかった。


アレクの思惑通り。



「本気になった俺が、テメェ等、生き物に殺されるわけねぇだろ?」



襲い掛かったのは炎ではなかった。あまりの水の多さによって炎という形が生まれなかった。しかし、"熱"は存在していた。

水という液体が一気に気体へと変わるほどの、熱という力。


「六紅鳥」


自分もろとも吹き飛ばす自爆のようなものであるが、アレクなりの海中脱出手段。炎が生まれない代わりに、生み出された水蒸気が作り出した形は空へと飛び立つ巨大な鳥。



ドゴオオォォッ



地面を痛烈に揺らし、フォーワールドの空気を激しく叩きつける。雲を跡形もなく、散り散りにする。



「いいいぃっ!?」

「なんて風だ!!」

「大爆発か!?」



アレクのいる位置からかなり離れて、防波堤の製造作業に携わる者達にも届く爆風。押し寄せる水にも波紋が大きく生まれるほどだ。

空中には無数の生き物……。いや、アレクだけが生き物だった。


「っつ~、自爆なんざやりたくねぇな」


自分の攻撃でダメージを喰らう。仕方ないが、それしかない。アレクを襲おうとしていた魔物達は今の攻撃で即死しており、水の上に落ちれば勝手に浮き上がってくれる。死体による船を造った。

その上にアレクは乗った。



「足場となる奴等が生息しているのは好都合な誤算だ」




どれくらいの数かまで考えていない。アレクに襲い掛かる魔物はいくつもいた。しかし、どれも



「俺には及ばない」



辿り着くまでの間に焼死体と化す。


「問題は水だ」


アレクが襲い掛かる魔物達を軽々と焼き尽くし、水を蒸発させている間。徐々にだが、水の流れが変わり始めた。海中はもっとヤバイ戦場となっているのだろう。魔物が一匹も海面に現れていないことが怖いことだ。



ドパアァァァッ




地面が削れれば、その分を水が補うように移動する。水は落下していく。押し寄せる力でも昇る事ができない落下を作る者はクォルヴァと若。



『ぎゃーーー!』

「五月蝿い!!」


心の中で怯え、叫びまくりの若に対して怒りながら、クォルヴァは"一刀必滅"を振り回す。この刀身の周囲には水が寄り付かない。あらゆるものを消滅させているからだ。

海中ではクォルヴァが暴れており、アレクと同様に魔物達が襲いかかっても、"一刀必滅"と共に一蹴する。一蹴っていうか、消滅してしまう。



「剣術は習ってませんけど、必要ないほどの刀ですからね!」



クォルヴァの握る刀は、"エターナル"の力によって離れることがない。



『こええぇぇよ!なんで僕が生きているのか不思議なくらいだよ!!』

「ですから、お静かに!私との一心同体が解除されたら、若だけは死んでしまうのですよ!」

『やっぱり死ぬのは僕だけなのかよ!』



アレクとクォルヴァ、若による水からの防衛は概ね成功と言える。多少、スタートが遅れたがすぐに巻き返した。予想以上に範囲は広がりを見せていない。

しかし、それでも分かっていた。


「!やっぱり届いたか」


魔物の死体の上。海上にいるアレクだけは、この戦場全体を見渡すことができた。分かっていた事だが水が防波堤を建造している人員達にも届いていること。



「止めろ!なんとしても止めろ!」

「いや、これは……」


勢いはそれほど強くはないが、水嵩が増していく光景を間近で見れば人々が恐怖するのは当然。あと数分もすれば建造中の防波堤を超えて、襲い掛かるだろう。


「無理だ!持ちこたえられない!」

「私達は死んでしまう!!」

「水がもう迫ってきます!!」


逃げ出したい。逃げ出したい。死ぬことは嫌だ。誰だって嫌だ。

だから、アレクはあえて水が迫り来るだろう場所に"移民"ではなく、"自国民"を配置していた。死ぬことだってありえた仕事、スケジュールもあった。

だから、……だから、……



「私達がやらなければ!みんなが死ぬのです!!」



1人の製造員は命を軽々と賭けて、積み上げていく。逃げるという選択、恐怖からの誘いを、



「与えられた仕事からは逃げない!!」


勇気と義務で打ち消した。必死だと分かる行動でも、それが仕事だと割り切って造り上げる。想定していた高さまで積み上げて……




ドパアアァァァ



35人の人間が水に飲み込まれて亡くなった。この捨て身をやってくれるのは、自分の異世界に住んでいる人間達だけだった。



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