"人類存亡の切り札"管理人、クォルヴァの実力
管理人を失った事により、異世界の内部を制御できずに決壊に陥った異世界があった。
それはアレクが欲しい資源のある異世界の一つ、
"港未来"よこはま。であった。
ザパアアァァァーーー
希少価値のある"ザクロ水"を豊富に持つ異世界。
この"ザクロ水"とは呼び水とも言われる代物であり、あらゆる水不足を解消すると言われる。ある一定の温度で液状のままならば、ゆっくりと増え続ける効果がある。生き物が飲んでも害はない。
とはいえ、"ザクロ水"が大量にあればその異世界は水だけに包まれてしまう。魚などの海で生息ができる生命体を除けば死んでしまう環境になる。
"港未来"よこはまが潰れた原因は、"ザクロ水"の飽和であった。
一気に様々な異世界に水が流れ出し、激流へと変わって飲み込んでいった。
「うあああぁぁっ!」
「水が来るーーー!」
フォーワールドもその被害を今、浴びた状況であった。あまりにも突然過ぎる災害に多くの被害が生まれた。わずか1分ほどで死者は500人を超えたと、後に判明する。流れ込む間近に入れば避けようがなく、飲まれるだけ。
「高いところに避難するのよ!」
「屋上に逃げて!」
フォーワールドの南側は人材の育成を行なう機関が集中している。死者と怪我人が多く出たが、高い建造物が幸いにも多かったために避難も上手くいったこともある。
『緊急事態発生!緊急事態発生!』
すぐに異常事態が起これば警報を鳴らすよう、指示は徹底されていた。
この警報によりすぐさまリレー式でフォーワールド全体に情報が入る。
『フォーワールドの最南で大津波が発生!繰り返します!フォーワールドの最南で大津波が発生!周囲に住まう方々はすぐに、高いところへ避難してください!』
この緊急事態となれば、すぐに多くの労働者は手を止める。統括している者達の指示が来るよりも早く。
「手を止めろ!!すぐに避難体制に入ってくれ!」
アレクの言葉を聞いた者はあてがわれた住居に向かった。頑丈な造りであるため、津波が来てもある程度は耐えられる。それだけの代物をアレクは設計して、建設したのだ。
一方で、緊急事態宣言が発令されることで動き出す人々もいる。移民の中にはロイやアルルエラと同様に"超人"の人材は少なからず、災害が起きれば、その身体能力で出来る限るの人命救助活動に徹する。
管理人が実践していた救助マニュアルで事前のシミュレートはできており、ほとんど問題なく、人間の救助に携わる。
一方で災害そのものを圧し留める手段は、ほぼ持ち合わせていない。
「おいおい、どんどん水かさが上がってないか?」
「いつになったら、この水は止まるんだ?」
この水の流れと量を止めなければ被害は終わらない。すでに最南から5キロほど離れた地点が、もう水に飲み込まれている状況。早々に手を打たなければ沈んでしまう。
異常事態の場所の情報が入った瞬間、疾風迅雷の如きスピードで駆けつけたのが1人いた。災害を食い止めるためにはスピードと判断力が重要である。
ドーーーーンッ
「うぉっ!?この水の量はなんだ!?」
『これは…………"ザクロ水"。ということは、"港未来"よこはまが決壊してこの異世界にまで流れ込んで来たわけか』
1人であるが、今は一心同体で行動している。
若とクォルヴァの2人がいの一番にこの現場にやってきた。若は胸を2回叩いて、クォルヴァを表に出した。そして、クォルヴァはさらに小さく胸を強く押した。
ドボォォンッ
「いや、若くんと一緒の時で助かりましたね。"ディスカバリーM"は便利です」
「!おま、クォルヴァ。お前、身体がなきゃヤバイんじゃなかったか!?」
クォルヴァは若との一心同体を解除した。誰かの肉体に使役しなければ疲れやすく、あまり長いこと行動することができない。
とはいえ、ここは分離しなきゃいけない場面だ。
「半永久的な行動ができないだけさ。短い時間ならば対応できるよ」
疲れやすいという体質とはいえ、クォルヴァは管理人。それもポセイドンや桂よりも上にいる(ナンバーでは)存在。強さや凄さでは2人に負けず劣らず。
「若は早くアレクくんを呼ぶんだ。君の能力は移動をスムーズにさせてくれるからね。あとで僕に身体を貸してくれ」
「そーゆうことかよ!とはいえ、分かっていたけど!!」
「他は連れてくるなよ。アテになるのはアレクくんだけだからね」
「ああ!」
クォルヴァの指示を受けて、すぐに若はフォーワールドの本部に空間移動していった。アレクを見つけ連れて来るまでの時間は、早くても10分といったところだろう。
「私じゃ"留める"のが限界だぞ」
ようやく、クォルヴァの本領発揮の場が訪れた。
クォルヴァ
スタイル:魔術
スタイル名:エターナル
スタイル詳細:
完全平常と完全不変能力。
クォルヴァと一体化しており、魔力が尽きない限り、いかなる傷も欠損も起きない。ほぼ死ぬことがない。また、魔力も常に一定を保とうとするため、使用した分もすぐに回復する。
空気の流れや時の流れも変わらずにすることができ、空中を歩いたり、自然の摂理を一時的に止めたりもできる。
『保留』
その能力は桂やポセイドンとは違い、防衛や治療、生存能力を重点に置かれており、彼が"人類存亡の切り札"とも称されているのはこの点にある。
クォルヴァの魔力は管理人の中でも当然飛び抜けており、特に持久力と回復力は凄まじく、擬似的な無限の量にまで及ぶ。魔力を用いて使う最大出力という点では朴と龍に劣るが、永続的な力においては彼等を圧倒している。
ビタアァァッ
押し寄せる膨大なる水が、一瞬にして止まった。流れも増加も、全て一定に保たれたのだった。
「波が止まった………」
「何が起こったんだ!?」
水に飲み込まれるところだった人間達も驚く。クロネアの"クロツグ"と違い、時間が止まっているだけでなく、対象を選択して止めることができるため、水に浸かっていた人々は脱出することができる。性質をそのままにするため、溺れ死ぬということは限りなく低かった。
一気に広がりを見せた水を全て、保留にさせるクォルヴァ。
「ふーっ、とんでもない量だね」
誰かの肉体を使役している状況ではないため、疲労が酷く蓄積されてしまう。"魔術"の適正者の身体を借りればこの問題は解決できる。
管理人を造り上げた人物の意地悪のせいで、クォルヴァは完全な不死身というわけではない。いずれ、人類が管理社会から解き放たれるのなら、永久に生きてしまう存在を製造するわけにはいかなかった。
「今の内に遠くへ逃げるんだ!」
「急いで!!急いで!!」
「荷物は最小限にして、中央に向かえ!」
クォルヴァが水を足止めしている間に住民達は駆け足で現場を離れていく。この時、脱出経路などをしっかりと確保していた事が活き、混乱は思ったほどなく、順調な避難が行なわれた。
クォルヴァが足止めしている時間がかなり長いのもあっただろう。
ポツポツ……
「あれ?」
しかし、予想外は次々に起こる。
今日の天気は晴れ。曇はそれほど膨れ上がっている状況ではない。
ポツポツ……
クォルヴァにも、避難を始めている人々に当たり始めた粒の大きい雨。天を見れば日が差し込んでいるが、
ビギイイィッ
フォーワールドの異世界の天上に、小さなヒビがいくつも出来始めていた。南側だけじゃなく、上まで水がやってきたのだった。
わずか数分で別の箇所から決壊する。雨ではなく、津波が落下してくる。
「あー。あっちまで私の魔力を回すのはちょっとキツイな」
さすがに上から来る水を食い止めるのは難しかった。能力で止められる距離には限りがある。地上からでは遠すぎる。仕方なしに言葉を送る。
「頑張って逃げてー!」
「いやいや!無理無理無理無理!!」
「空から津波が来るなんて、逃げ切れるわけないでしょ!」
クォルヴァはこれくらいでは死なないため、飄々と避難する人間に応援と指示を出す。しかし、空から大量の水が落下するところを見たら、死を覚悟するのは当然。避けられる気がしない。
「お?」
そんな大ピンチの中に現れたのはタバコを吸って、バズーカを片手に立つ男。駆けつけるタイミングがとてもバッチリ。
「クソ忙しい時になぜ、」
もうタバコでもイライラが直らない。タバコはよくねぇな。思い切って禁煙をするか?咥えたタバコを吐き捨て、
「災害を相手にしなきゃなんねぇーんだ!!ゴラアァァッ!!状況考えろ!!」
今までのストレスを一気に発散するかの如く。
アレクは、バズーカ型の科学、"紅蓮燃-℃"を起動させる。
春藍の"創意工夫"に、ポセイドンの"テラノス・リスダム"を内臓したように、アレクもまたポセイドンの技術を借りて、自分の科学を強化していた。そのパワーも射程距離も、飛躍的に進化している。
生成される炎が最大出力で砲口から放たれる。
「炎熱霞燐龍!!」
バズーカから放たれた炎は連射砲から出たように、小さな炎が何千、何万と射出されていった。アレクの創造力を元に炎達は動きながら、龍の形となる。一つの炎で龍の形が作られているのではなく、もう何万にも膨れ上がった小さな炎で作り上げられた龍の型。
隙間があってもしっかりと龍の形に見える。そして、それは進みながら巨大になり、広がっていく。より広範囲に炎を放たれる技ということ。
小さな炎といえど、侮れない。水を一気に蒸発させてしまう火力。
ジュアアアアアアァァァァァ
天から降り注いだ津波を一気に蒸発させ、空を大きく揺るがすような水蒸気を生み出した。アレクの炎が津波を消したのであった。
クォルヴァとアレクのおかげで、突然の出来事は最低限の被害で留まったのだった。