異世界を造ろう!って、クソゲー臭が凄い。やりこみきれねぇよ。
移民達の多くは不安ばかりであったが、同じ境遇で寄り添えるところもあった。
確かにアレク達の奮闘で故郷こそ失えど、自分の命や衣食住は確保できる。生きるという最低限はほとんどの人間に与えられていた。
そんな中で労働に関して、一つの意見が出た。
「は?なんだよ、この……。土地の案件と建造の案件は……」
「すまんですぞ、アレク。正直、これはやらねばなるまいですぞ」
だからって、YESすんなよ!
「移民達の不満というわけか」
「彼等は異世界でやってきた仕事も経緯もあるのですぞ。いくら土地の整備やライフライン、住居の確保が重要とはいえ、そればかりでは不満になるのもいっぱいですぞ」
簡単に言えば、仕事の種類を増やそうという話だ。移民達にはそれぞれの経験があり、この異世界で新企業を立ち上げる意欲もあった。労働の自由化を考えているのもある。しかし、
「経済はそこまで上手く回ってないんだぞ。仕事の価値が不明瞭なところに金は用意できないんじゃないか?」
労働の自由化が起きた場合、フォーワールドで使われている金の価値が大きく動くのは事実であり、その上、アレク達が行なっている事業ですら頓挫することもありえる。成功すれば移民達は良いだろうが、成功にしろ失敗にしろ、割に合わないのはアレク達であった。
「移民はこれ以上、人が増えることを不安に思っているのですぞ」
「!……ライラの耳に入ったら雷が落ちたかもしれねぇぞ」
そう言いながら、アレクもライターに火をつける。話す相手がヒュールじゃなければ、爆殺していたかもしれない。タバコを吸って誤魔化す。
このまま人間が増えていくのに対し、新たな仕事が生まれないことが続けばストレスはもちろん、発展を見る事は難しいだろう。しかし、まだ基盤が完全に整っていない。せめて、一月は待ってほしいところだ。
「新事業の内容は細かに聞いているんだろう」
「さすがに丁寧に確認はしておりますぞ!」
当然だと、ヒュールも見る。
「昨日は20件の案件を見ていたですぞ。ラフツー殿や山佐、クォルヴァ殿にも審査をお願いし、通ったものをアレクに最終確認しているのですぞ。全部で3件ですぞ」
とはいえ、ここまでの話となればもうアレクも承諾するしかないのだ。
アレクは速攻で新事業の中身を確認する。
1.
自警団の設立。
主な理由:
このところ人間同士の喧騒が絶えません。ここには法律があっても、それをキチンと取り締まる者がいません。このまま法の徹底と取り締まりを疎かにすると、多くの犯罪者が生まれるのではありませんか?人が増えるからこそ、正しい法律と制裁が必要だと思います。
2.
飲食店の設立。
主な理由:
フォーワールドの食品加工技術は確かに凄かったですが、あくまで保存の技術が優れていると思います。私が作る料理の方が美味しいです。美味しい料理こそ、働く源になりますよ。食糧管理を行なうのだったら、しっかりとした調理人がやった方が節約と衛生面、もちろん味もしっかり保障します。
3.
農業や漁業、狩猟、飼育、園芸の設立。
主な理由:
食糧問題が不安です。畑や田んぼに使える土地をもらいましたが、それでもあまりに面積が少なすぎます。もっと農業に長けた土地はないのですか?人間以外の動物が不足しているので、異世界から取り寄せて養殖事業を開拓した方がより安定すると思います。
「………………」
「これくらいなら大丈夫なはずですぞ?」
「ああ、まぁ。3番目に関しては俺も急ピッチでやっているが」
それでも土地の数がたんねぇって言うのかよ。
「分かりますぞ。フォーワールドは技術者のためにあるような異世界、農業などを行なう異世界としては不適合だということには……」
「この要望を出した奴もきっと分かってるはずさ。その上で土地が欲しいってのも……」
ロイが早く"鳳凰卵"を採取してくれれば、農地の開拓は大分楽になる。
養殖事業の開拓だって考えている。しかし、それでも要望が来るのが早すぎるだろう。
「土地の計算も変えなきゃならんな」
「すまんですぞ。それと自警団と飲食関係の土地と設営についてはどう思っておる?私は、自警団については"まだ"反対の気持ちがあるのですぞ」
それでも必要だとのは分かる。ヒュールがやや躊躇しているのは、移民達の意志と常識に齟齬がまだ生まれているからだ。その齟齬がなくなりかければ、自警団という存在が扱える。
「人間があまりに多すぎるんだよ。フォーワールドの人間なんて、犯罪者なんかそういなかっただろう?」
「その辺はラッシ殿やクロネア殿がしっかりと管理し、教育もしてきましたからなぁ」
「法律なんかいらねぇと思ってたぞ。そんな馬鹿、フォーワールドにいねぇから!」
「仰るとおりですぞ」
そもそも自警団がちゃんと機能するかも怪しい。管理人ならば職務をしっかりと全うするだろうが、寄り集まっただけの人間達がやれば必ず、私情や環境の言動に走る。法律で縛れるものじゃない。下手すれば内部分裂が起こる。
取り締まることに長けた人材が、移民の中にいたとしてもアレク達の中にはいない。法律という絶対的な力を振るうにはまだ時期尚早。
「だいたい、こーゆう自警団を造ろうという連中は腕に自信がある馬鹿ばかりだろ?支配欲でまくりだろ。人間の揉め事をしてる場合じゃねぇ」
現場にいる人間らしい意見だ。
「悪いがあとだ。まだ人間関係に目を向ける余裕はねぇ、やらせるならクォルヴァに一旦トップを任せろ。管理人の言葉が説得力になる」
2本目のタバコを吸って、もう一点の飲食店関係であるが、
「飲食関係も農場や漁業がキッチリと安定してからだ。別の異世界からの輸入も大きな期待ができない上に、こっちの自給自足も満足に整ってないんだぞ。保存食で凌ぐしかないだろ。気持ちは受け取っておくけどな」
アレクからしたら人間が生きれることをまず、優先している。
美味しい料理だ、人の取り締まりだ、それらが重要だというのは分かるが、自分達が嫌でも移民だという状況を理解して欲しいのだ。こちらは移民を受け入れられるほどの設備が整っていない状況で保護しているのだ。
「ったく」
まずは人間が生きれる環境から作り、そこから生活できる環境に発展させる。アレクの、異世界の作り方はホントに基礎から行なっている。
この視点になっているのも、先で何が起こるか予測が立て辛いから他ならない。いつ、どこで、何が起きるのか分からない未来で、住むところと食べるものがなければ人は絶滅する。生きているサバイバルだと移民達は理解して欲しい。
「ともかく、住居はマンションタイプに絞り込んでやる。あと農業に関してはそっちで必要な素材や道具のリストアップさせてくれ。土地の性質の問題は俺達じゃどーにもできん」
言論の問題が少なったが、会話ができるようになると交渉や揉め事に発展する。一長一短だと溜め息が出る。
交渉事はラフツーとヒュールを仲介し、アレクやクォルヴァに届く。それが認められるかは2人次第である。最近、移民達が増えたことで意見が大きくなっているらしい。
「このまま事態が大きくなったら、労働放棄や内乱があるかもしれないですぞ」
「そん時は実力でぶつかるしかねぇな」
難しいことだ。
そんな取り決めや、清き労働を今日も行なう頃だった。
フォーワールドの最南から異常事態が起ころうとしていた。
「ん?」
"無限牢"の崩壊が著しく進んでいたのはフォーワールドの北側であり、南側はとても穏やかどころか起こっていないに等しかった。土地の広がりが北側ばかりであり、アレクやヒュールなど。優秀な人材が中央から北にいた。
そんな状況で突如起こった、侵略。
ゴゴゴゴゴゴゴ
フォーワールドの最南にある住宅地にいる人間達の目が捉えたもの。それは侵略というよりかは災害だったか。
「水が迫って来る!?」
津波と言って間違いないほどの水が、フォーワールドの最南からやってきたのであった。