扱い辛いキャラがいると話を考えるのが一苦労なんですよね。苦戦にもできない。
春藍達が資源を集めに行くための冒険に行き、ロイ達もまた冒険に行ってしまった。つまり、主要メンバーでただ1人、フォーワールドに留まっているのはアレクだけであった。
「無事に帰ってくると良いが」
さすがに1人となると分かる。
自分には春藍達とは違って立場があり、弱いことは言えないしすることもできない。フォーワールドという世界をより大きく、安定した世界にできるのは自分しかいない。
「あまり気負わなくてもいいじゃないか?」
そんなアレクに声を掛けたのは、アレクと同じくらいの立場にある者。
「クォルヴァ」
「ロイも行ったみたいだね。心配したところで私達は待つことと、ここを守ることしかできないよ」
「知っている」
最後の管理人となったクォルヴァ。
現状のフォーワールドは大きく3人の人物が影響を与えている。
1人はアレク。もう1人はクォルヴァ。そして、フォーワールドの教育機関を運営したヒュールの3人である。
フォーワールドの住民から見ればトップはアレクであり、その他の異世界の住民達から見れば管理人であるクォルヴァ。そして、アレクとクォルヴァからすれば、ヒュールがトップとなって欲しかった。
ヒュールがどうしてトップに立って欲しいかというと、住民の未来を考えてのことだ。春藍達が冒険をしている間にも、クォルヴァと若の2人が多くの異世界を飛び回っており、崩壊しそうな異世界にいる人々を誘導し、フォーワールドに迎えいれている。
最初こそは多くの民が理解をしている反面、人間関係や食糧難、仕事の枯渇などの社会的な不安を感じているのも事実だ。今は壊れている状況が進んでいるからこそ、上につく存在を頼っているだけ。そして、時間をかければ生きていた理論が物を言ってしまう。内乱が起きても不思議ではない。すでに、異世界同士の騒乱も起きている。
争いを止めるには軍事力も重要であるが、正しい判断力や協調性、学習能力などの分野も大きく問われる。人が増えるほど、それらは複雑となる。多くの人間の指標となれる存在、つまり指導者としてならばヒュールしか適任がいなかった。
アレクの本業は技術開発局の主任であり、製造や仕事などでは現場を重視できる人間であり、指導者という柄ではないし適正もないと本人は思っている。また、クォルヴァは管理人であり適正こそあっても、管理社会が終えた今。再び、管理人がその任につくのも疑問と思っている。それを正当化してしまえば、ポセイドンと桂の意思による戦争を無下にしてしまう。
「別にな。俺達が」
「指導者になることを嫌っているわけじゃないんだよね」
…………。とはいえ、2人がトップでも問題はそこまで起きないとは思っている。別に嫌いとかではない。最適を考えれば、ヒュールしかいないのだ。ここに本人はいないが、本人だってそれを強く理解している。
「指導者はあまり前線に出て欲しくないしな」
また、アレク達が指導者に向かない理由に、前線に赴く機会があまりにも多すぎるからだ。
やってくる移民達に仕事を与えたり、キチンと住居を用意したり、ライフラインの設営、広がっていく土地の活用など…………。生きるための施設を充実させている仕事ばかり行なっている。正直、移民達の言葉を聞く暇がないし、聞けば必ず仕事に影響が出る。
その点、ヒュールは春藍達より若い世代の教育や、移民達に対してこの世界の方針などをしっかりと話す仕事もやっている。
そして、アレクとクォルヴァは
「フォーワールドに侵略者が現れれば、迎撃しなきゃならないからね」
すでに藺兆紗、朱里咲、ダーリヤなどの勢力が異世界への侵略を行なっている。
アレクが春藍達と同行できないのは、ここを守るためでもある。クォルヴァもまた様々な異世界に飛んでいるが、ちょくちょく戻ってくる。
2人が防衛としてここにいる。防衛だからこそ、一番難しく何が起こるか予想もつかない。そんな2人が指導者として活動すれば良くなるはずもない。先を考えればなおさら。
「新しい街とかは色々できたみたいだね」
「とはいえ、絶対的な数が足らない。自然の内に別の異世界と繫がって、土地も増えてきているが人の数が多すぎる。食料もどこまで持つか」
「それでも形にはなっているんだろう?」
現状、まだ苦しいとはいえ。良い方向になっているのではないかと、クォルヴァが尋ねれば。アレクもそこそこに考えてから
「それもそうだ」
「なら気負い過ぎる必要はないじゃないか」
少しは休んで欲しいと、クォルヴァは思っている。人材は大きく増えたのだ。少しはもう少し大きな仕事を任せるべきだとは、心の中で思っておく。
そして、翌日。当然ながらそこにはアレクが全体の指揮を執りながら、現場で働いている姿があった。
フォーワールドの北の方では隣の異世界との隔たりが徐々になくなってきており、土地が広がり始めている。そこに新たな拠点となる街を築いているところであった。
アレクの技術開発局との距離が遠くなれば重機や機材、資源などを運ぶ手間がどうしても掛かる。道の整備をしていても、根本的な距離の問題は別の手段で解決しなくてはならない。
「そろそろ技術開発局の支部局を造ろうと思う」
本部を動かす余裕はない。新しい土地に支部として技術開発局を建造することができれば、輸送の中継地点にも製造の依頼や製作の手間も捗る。
また、
「ヒュールの教育機関の支部や山佐の運送会社の支部も必要だろう?正直、東西南北で振っていた各所の役割はもう意味がない」
「確かにそうであるな……」
「フォーワールドが進歩していかなければいけない以上、私達は進歩していかなきゃな」
これに関して、該当しているヒュールも山佐も同意していた。しかし、懸念がある。特にヒュールは渋っていたことがある。
「支部の建造には賛成であるが、支部を任せる人材をどうするのである?1つや2つならば、推薦できる人材はおるがな。人材を誤れば混乱にも繫がる」
その規模が大きくなることは予想している。必要な経費、必要な資源、それらはまだ調達できるし、建造できる人数はあまりある。だが、纏める人間には限りがある。教育の大切さを知るヒュールだからこそ、その重要性は高く意識していた。
「ヒュール殿の意見も一理ある。人口爆発は起きているが、仕事の適任者としてだけでなく、仕事をする人間全てを管理できる人材はあまりいない。移民は移民だ」
「山佐のところもか。俺も正直、管理者という人間は少ない。春藍だってそーゆうことができんしな」
「でも、俺のとこの仕事は2人よりかは負担も内容も軽い方だからな。大丈夫だと思うが」
人間の数は増えても、質の方は時間をかけなければならない。
三人は支部の建造について賛成し、自分の代役をリストアップし始める。管理者としての適正はもちろん、現場を理解できて移民達への指導もできること。難題ではあるが、やらなければならない。
そして、できれば本部である3人の負担は減り、労働の幅も広がる。ここのところは、ほとんど土木工事ばかりであった。基礎だからしょうがないとはいえだ。
3人が頭を悩ませているところに、また新たな難題がやってくるのだった。
「新たな事業を立ち上げたい、とですぞ?」
最初にその話を受けたのはヒュールであった。