言葉を知らん存在が
アンリマンユが突如襲来する前のこと。
【我等、鳳凰の卵が欲しいと?】
『はい。鳳凰様達の、その小さな命を私達に譲って欲しいのです』
たった少しだけ助けられたとはいえ、子をよこせとは
【貴様等、何を言っているのだ?】
ですよね。そりゃそうだと、ロイは鳳凰の言葉は分からなくても怒っている雰囲気は感じ取れている。説得は無理そうだと思えたが、
『管理人を失い、あなた方はどのように行動すれば良いか。分かっておられるのですか?鳳凰様達の卵は管理人クォルヴァ、ならびに統計データからも無事に孵化となる確率は0.01%と出ています』
NM_Hは面倒も感じさせずに鳳凰とロイに伝わるように、2種類の言語を同時に操った。
「?どーゆうことだよ、NM_H」
『簡単に述べますと、鳳凰様が産んだ卵のほとんどは子として成立しないのです。それがどうしてならないかは鳳凰様に聞かなければなりませんがね』
そこまでの話をし、少し目を瞑ったのは鳳凰の方だ。
【貴様等、知っていたのか?管理人しか知らないことだぞ】
『私達も切羽詰っております。そのような会話は意味もなさないでしょう』
NM_Hの土俵だった。話すために造られた存在と、久しぶりに会話をした者とではやれる会話のレベルに差があった。最初から情報が違っていた事もある。
『あなたが産んだ卵もきっと孵らない。管理人がいつものように回収するように、我々に譲っていただけないでしょうか?』
譲って得られる報酬はないと思われるが、自分の産んでいる物がどーいった物かは鳳凰自身も知っていた。
『自分の火山を吸い上げて枯らす害はあなた自身も滅びますよ。管理人はあなた方を守るため、卵を回収して別の異世界で孵化させていた。違いますか?』
「!確かにそーか」
自然界に言葉はない。だが、知能にしろ本能にしろ。何が勝つにしろ、生命体が当たり前のように活動できる理由には一定のサイクルが存在するはずである。言葉はなくとも、自然がそうさせて教えてくれる。
鳳凰の口がわずかに動くも、言葉を出せなかったのは僅かな可能性とやってきた二人に対する目利きに費やしていたから。
【…………】
『私達の住んでいる異世界は』
NM_Hは必死さを見せていなかった。感情が乏しいからだった。
『自然が乏しいのです。発達した技術が存在しても、多くの生命体を養う環境ではないのです』
時に感情は、言葉を惑わせてしまう。音の波長で意味の解釈を間違えを生む。しかし、NM_Hは誰にも分かる声で正しい理由を伝える。たったそれだけで相手に考える時間をしっかりと与えていた。平等と言える話し合いを作り上げていた。
『管理人ならば言うでしょう。たった一つの犠牲ではなく、多くの命の保護を目的としたい。自然環境に困る異世界はあなた方が長く生きていれば、ご理解もできるはずです』
産んだ魔物ですら扱いが難しいのであれば、それを孵化させるのは非常に見極めが肝心となる。それでも管理人からの討伐対象外とされ、伝説という名の冠までもらいながらここまで生きていたのだ(彼等が保護されてたとも言える)。自然を造り上げる卵とはそれほど貴重。
拒否する理由を模索しても無意味だろう。
【……管理人がいなくなった】
『はい』
【ならば、どうあれ。私達の種族が没落することに時間はかからないな】
『私達は誰だって受け入れたいと思っております』
【相容れんな。生き物同士が仲良くするなど、ありえん】
鳳凰の言葉は、自然界を生き抜いたと言えるものだった。ここはどんな説得も無意味だろう。NM_Hにも"仲良く"という言葉は非常に不適格であると、自分の立場から理解できる。
【しかしか。爪跡が残るのなら、協力せんでもない】
『多くの異世界が混乱に陥っています。あなたが生み出した"生"は、必ず、私達が保護いたします。それは固くお約束します。どんな形であれ、災害とはいえ、人類という者は乗り越えてくる存在です。信じてください』
言葉の力を感じ取って。鳳凰は、2人に自分の遺伝子を残した。
そして、丁度その時だった。
あの馬鹿デカイ、決戦兵器。アンリマンユの姿が、この異世界に現れたのは……。
「あっ!?なんだありゃ!?」
『!?』
【なんというデカさだ】
巨大な生命体がやってきた。鳳凰すら、火山の大きさすら、比べるに値しないほどの巨体さ。デカ過ぎて感覚が麻痺してしまいそうな、プレッシャー。
「新種の魔物か!?」
『いえ、あれは私と同じロボットの類だと思います』
「ってことは、この異世界に俺達以外で誰かが雪崩込んできたのか!?」
『おそらく。それにしても、あの巨体な科学生命体はどのようにできているのでしょうか?』
この異世界の雲にも届いている巨体さだ。あれが動く生き物?
「あんなん、どー倒せってんだ!?」
ロイの言葉通りだ。決定付けた印象。鳳凰も無言で侵略者を眺めていて、そう感じていた。デカさが単なるこけおどしにも見えない。
【侵略者の方だったか】
自分の異世界の終わり。あまり実感のなかった侵略者という存在による、方で終わることに少し虚しさが残った。しかし、これも自然らしいものか。
【私達の卵を持っていってくれ】
『よろしいのですか?』
【お互いその方が良いだろう】
鳳凰は飛び立って、出現した侵略者へと向かっていったのだ。それが無謀であることは誰にだって分かる。あの化け物は数や質では倒せない。
「おい!止せ!!」
ロイの言葉は届いていても、中身を理解することはなかった。
【自然は喰うか、喰われるか。私が逃げる場所などない】
肝が据わっている。
どのみち、同じならば望んで選ぶ。
【卵は任せる】
時代が動いていく。生き残れる者、生き残れない者。必要な存在とそうでないもの。
「くははは、魔獣に知性はないか!総動員で我がアンリマンユに挑むか!」
琥珀博士がアンリマンユを操作し、陸から空から向かってくる魔物達に向けて攻撃を仕掛ける。その巨体あって、鈍さをカバーできる広大な範囲とパワーで蟻にも等しく見える魔物達。
それでも魔物達は果敢に足元から攻撃を仕掛けていく。異世界の威信をかけての攻撃を始めるのだった。しかし、それでもパワーがあるということは当然、硬いということである。多くの獲物の皮膚と肉を裂いた牙は折れ、殴る拳の骨も折れ、皮膚が破ける。
物理耐久に関しては圧倒的な耐性を誇るアンリマンユ。
「単純過ぎるのー。それでも、攻撃できる間合いまで来たのは褒めておこう」
避けようのない踏み付けが、決死の気持ちで試みた攻撃をした魔物達に襲い掛かった。それはアンリマンユと自然がどれだけかけ離れているか分かるほどの、天と地の差のある敗北。
「琥珀博士。敵を侮りすぎだ」
一方でアンリマンユが物理耐久に優れているが、欠点があることを知っているダーリヤはあえて守りの姿勢を見せた。
鳳凰達が自分の口から、体内に蓄えたマグマの塊を大噴火の如く吐き出し、アンリマンユの左足を狙ったのだった。
「いかん!そーいうのにはまだ耐性を施しておらんよ!」
炎や寒さ、電撃などの、頑強さでは耐え切れない攻撃には、まだまだ完全な耐性がない。マグマなんてぶつけられれば左足は激しく損傷し、バランスを失って倒れてしまうかもしれない。
絶望的な巨大さでも蟻に負ける可能性はあった。足元から崩れれば、大きさの優位はまるでなくなる。
「マグマか。文献でしか見た事がない」
しかし、琥珀博士はこの男を知ってしまった。ダーリヤの存在。
この男と手を組んでいるのは、彼こそがあらゆる存在に対して耐性というのを持っているから。目標に近づくために、目標が近くにいる方が良い。
ダーリヤは丁度、魔物達が唯一アンリマンユへの攻撃ができるだろう部位に立っていた。ダーリヤには、朱里咲が天上で歩行するという技術ができ、彼はアンリマンユの足に対して、垂直となって臨戦態勢を作っていた。
向かってくるマグマに対して、左拳を握り締める。灼熱であるのは間違いないマグマの塊に対し、その身体で向かい合えるという自信。普通とは造りが違う根拠。
しかし、やってのける。それが"魔天"
「ふんっ!!」
肉体を突き詰めて辿り着いていると言えるほど、"超人"の理想像を手にしていた。肉体一つで自然現象と立ち向かい、抗えることができる。
風、雨、雪、雷、炎、地震、光、
様々な攻撃に対して、その肉体のみで反旗を起こす。
バギイイィィッ
鳳凰から放たれたマグマを拳一つで殴り返し、数頭の鳳凰にマグマをぶつける。その速度とパワーはカウンターのように数倍威力が上がっている。
「熱いな」
マグマを全て殴り返したダーリヤの左手に、一切の火傷はなし!!
恐るべき頑強さ、パワー、テクニック。これがダーリヤのシンプルで完成された実力。
【ぐっ………】
まさかマグマを無傷で弾き返せる生き物がいるとは知らなかった鳳凰。大きいアンリマンユよりも、この男の存在が強大だと知り、さらに絶望を知った。
「……おっと、アンリマンユに譲ったのに。何頭か癖で殺してしまった」
余力を残し、この発言。
こんな男が異世界の侵略者となれば、誰にも止められないのではないかと危惧するのはそう遠くはないことであった。