話し合いと殴り合い
戦場は血が滾るものである。その中で接戦と舌戦が行われていた。
『鳳凰。あなたがもう一度ここで火を放てば、あなたは本当に住処を失ってしまいます。まだ再建ができる余地があります』
【なんだお前は?と、同時にそれは分かっている】
鳳凰がすぐにNM_Hの言葉に耳を傾けたのは彼女達が異端児であり、あの猿と罵っている人間に立ち向かうロイの姿があったからだった。
『ロイ様が必ず、あなたの巣を守ります。成功した時にこちらのお話を聞いてもらえないでしょうか?』
堂々と、テメェの卵を寄越せとまだ言えるわけがなかった。まだ目的が達成されるわけではないし、鳳凰には自分もロイも、相手にしている彼に対しても、棲家を犠牲にさえすれば葬れるだけの力がある。
【私に条件を付きつけるか?】
親は子を守るのが普通。しかし、子は離れていくものだし、そーゆう仕来りがない魔物だってある。血は繋がっていても赤の他人と思い、食い合える魔物もいる。人間ではなく相手は魔物。価値の判断は鈍いと思われる。
言葉でちゃんと動けるかどうか、ともかくロイが勝たなければいけない。
「人の巣を荒らしてんじゃねぇ!!」
マグマに覆われた彼を蹴り飛ばしてやるロイ。かなりの威力で蹴ったわけだが
「熱っっ!!マグマごと蹴っちまった!」
「ぎいいぃぃっ!」
自分も痛い目に合うロイ。そして、鳳凰の仕打ちに怒るポーズを見せてからロイをしっかりと標的として合わせる彼。
「怒ってる、って感じじゃねぇか」
数回手合わせをして気付いた点はいくつかあった。こいつは身体能力こそ、自分より上だが技術力は皆無。戦場慣れしている半面、野蛮な戦い方しか知らない。
目潰しなどの奇襲をするだけの知恵はあるみたいだが、投げや絞めの恐ろしさは知らない。元々、自分と同じような姿と形をする輩とは初めて出会った感じ。
「うぎゃああぁっ」
「体術ってのは人間用に作られてるんだよ!人間同士が一番訓練しやすいからな!」
防御から掴まれるという窮地。先ほど、ロイが彼を地面に埋め込んだのも投げ技。この自然界にそういった攻撃を受けなかった彼は対処法が分からなかった。
ただの暴力だけでは敵わないことを伝える。
何度も地面に背を叩きつけられる。
「ぎいいぃっ!?いい!?」
「喧嘩は殴るや蹴るだけじゃねぇんだよ」
左腕をしっかりとったロイは素早く捻って、彼の骨を外す。
ビギイィッ
「いいいいいぃっ!?いい!?」
パワーもスピードもある。しかし、一度傷つければ大きな傷となる。筋肉の裂傷まで絞めで極めて見せるロイの早業。技術を知らない彼にとっては苦痛しか分からなかった。
「はははは!ロクに動けねぇだろ。だから、動けるように」
勢い良く山から彼を投げ飛ばしたロイ。
「山から転がって魔物の餌にでもなってやがれ!!」
強い。全てにおいて、ロイの方が上回っていた。自然界しか知らなかった彼にとっては衝撃的なことだった。
「いいいいいいい!!」
「なんて言っているかわかんねぇよ!じゃーな!!」
再戦希望。敗北は死を知る彼にとって、なんとか生かされる刑になって抱いたことだった。ロイが殺さなかったのは面倒なこともあったし、何よりこいつの生死よりも重要な任務があるからだ。
これで鳳凰の巣を荒らす敵はいなくなった。
【見事な手捌きだ】
『ロイ様ならこれくらい当然ですよ』
鳳凰はゆっくりと旋回しながら少し壊れた棲家の上に着陸した。その近くで見上げるほど大きい魔物だ。その存在と冷静に会話を試みるNM_H。
【して、要件くらいは聞いてやろうか】
『ありがとうございます』
「つーか、デケェな。鳳凰ってのは」
◇ ◇
「いいい!いいいいぃっ」
ロイとNM_Hが鳳凰に交渉をしていた頃。彼は山の下まで落ちており、身体はボロボロでロクに動くことはできなかった。魔物の世界において、彼の存在はとても忌み嫌われるものであり、単純に強かった彼を食おうとする存在は多くいた。
動けぬ彼に集まりだした魔物。それを見た瞬間に、初めて抱いた気持ちが終わってしまう。悔しいと思えた。
この大物を獲り合おうとする魔物達の群れが。
「山から転げ落ちて生きているとは面白いな」
軽いチョップのような振りだったが、魔物達の多くが一瞬にして両断された。
彼の目の前に突如現れた男。
「名もない獣。それとも人か」
「ぶひひいぃ、いいい」
ダーリヤはたまたまこの異世界にやってきて、偶然見つけてこの異世界で初めて出会った人間を助けた。一目でそう決めた。
「君を認めよう。人類の進歩に君は選ばれる」
「び?」
「言葉と知識、技術はあとで教えよう」
ダーリヤの言葉を知るのはまた今度であった。今はこの危機的な状況を救われたという奇跡に驚くばかりであった。そして、この生き物もまた自分以上の強者であると本能的に理解する。
ドバアアァァァンッ
魔物を爆散したかのような武術。一発一発があまりに強すぎる。魔物の群れが一気に吹っ飛んだ。彼以上に強大な攻撃に魔物達は命を優先して逃げ出す。
「手加減してもこーなってしまうか」
嘘だろ?それ……。
「もうすぐ、琥珀博士がアンリマンユを連れて来る。君を連れていくとしよう」
ダーリヤは彼を運びながら貴重な人材を手に入れた事を少し喜びながら、勝手に決め付ける。出会った段階で言葉がロクに通じないとは察したのだろう。
「今から君は勇浪と名乗れ」
「ぎいい?」
「他者の勇気を掻き乱せる、そーゆう戦士という意味だ。勇気を超える者ほど恐ろしい存在はない」
昔にそういう男がいたのだ。
小さくダーリヤは呟いていたが、その言葉の意味も記憶もしていなかった勇浪であった。