ロイ VS 勇浪
過酷な自然環境で生き延びた彼にとって、口という器官を上手に扱えなかった。
そもそもこの場所で唯一1人にして、1つの個体なのだ。声に色々な使い方があることが分からない。
魔物でも仲間や同類には分かるような鳴き声を使うのは別に当たり前。連携や縄張り争いなど、言葉を使ってもおかしくはない。
「ぎょぎょぎょぎょ」
言葉は使い方はまったく分からない。何かを伝えるときは行動で現しているだけであった。
ドオオオォォォンッ
「!?あ……?」
ロイは自分以上のアホと出会い、少し頭の方を馬鹿にしていた。
戦闘が急な傾斜がある山の上であること、彼が急に傾斜を殴る……いや、掘り始めるという行動に出た。そのまま真っ直ぐに行く。
「きゃきゃきゃ!」
彼にとっては砂遊びをしている感覚なのだろう。山中を掘り進み始める。何がしたいのか、ロイには分かるまでに遅れたが、
ビギイィッ
「!!上まで走れ!NM_H!!」
地面が脆くなっていくところを見て、彼がロイを攻撃するだけでなく。火山ごとぶっ潰すというスケールのデカイ攻撃を繰り出してきた。地中を掘って地盤沈下のようなことをやるつもりであった。
ロイも急いで上へと逃げていく。
バサバサバサバサ
【キーーッ、キーーッ】
山頂で羽を休んでいた鳳凰もこの異変に気付き、すぐに空へと舞った。そして、炎を纏った羽がこの山に降りかかり火の手が上がる。
『鳳凰は今、"あの猿死ね"と言っています』
「当たり前だろ!!火山の一つを沈める気だぞ!」
ロイの予想は当たっていた。対峙したアレは完全に馬鹿だ。何も分かっちゃいない奴だ。場所を考えて戦いやがれ。
山の半面がバランス悪く崩れ始める。これによって、火山の構造も微妙に代わり活動が突如として行なわれた。
「きゃっきゃっきゃっ!」
彼は地中から出てきた。海中を潜り、空気を欲しさに上がって来た子供のような笑顔。泥だらけで火傷の跡もいくつか見せながらも、とても楽しそうだった。山半分削って喜んでるんじゃねぇ。
「って」
危険人物ばかり目がいっていた。火山の巣にも被害が出たことで、ここの鳳凰も怒り気味。普段は食べる時にしか使わない口に熱を溜め込んでいる。
『ヤバイ感じです』
「気配で分かるぜ!」
マグマをおしんこみたいに食っているせいか。喉から吐き出す唾のような物はマグマとなんら代わりないもの。
そもそも唾というにはあまりにも大きく、範囲が大きいマグマの量。
「唾っつーか!ゲロみたいにマグマを吐いてくるんじゃねぇ!!」
"紫電一閃"でNM_Hを抱えながら鳳凰の攻撃を避ける。強力な熱もそうだが、その臭いも強烈なもの。鼻と耳、目が染みるほどだ。
「っっっ!!いってぇぇぇ」
『私には耳や鼻の機能がないので分かりません』
ロイはそれでも彼女を抱えながら火山を一気に降りていく。一方で彼は鳳凰の攻撃を直撃していた。熱さとその苦しみを直に浴びて転がり回った。相変わらずの奇声の痛みは、その酷さがよく伝わってこない。いつも奇声ばかり上げているせいでもあった。
「きょえきょえきょえ!!」
なんで俺はこんな目にあうのだろう。そんなことを思っていた。
憧れている鳳凰に近づく輩を排除しようとしただけなんだぞ。言葉では良く分からないが、暴れる仕草と敵意を向けるような表情から鳳凰は彼の考えている事に対して、こう述べる。
【ギーーー、ギーーー】
俺の巣を壊すんじゃねぇよ、猿。
ごもっともな意見。その言葉を聞いて理解できたのが1人。
『ロイ様。交渉の材料ができそうです』
「なんだよ!?」
『先ほど現れた人間。どうやら鳳凰の知り合いのようですが、敵のようです。ここは一つ、ロイ様があいつを倒して鳳凰の巣を守るのはどうでしょう?』
魔物の言葉を理解した。と考えて良いのか?
それを本当に信じて良いのか?とはいえ、鳳凰に恩を売るのは良い考えだ。
「NM_H。ならお前は上手く交渉して、あいつの卵をくれるようにできるのか!?じゃあねぇと釣り合わない。さすがの俺も火山のど真ん中でバトルロワイヤルはしたくないぞ」
『やります。言葉はこーゆう時に使われるのですから』
その言葉を聞き、NM_Hを降ろしたロイ。どっちにしろ、自分を攻撃した奴は敵と判断するべきだ。
ロイは交渉が始まる前に、マグマで苦しんでいる彼の方へと近づいた。鼻が痛いため、衣服を破って簡易のマスクのような物も作った。
一方でNM_Hは大きな声で鳳凰が聞き取れ、理解できる言語を飛ばした。自分の巣を壊され怒り狂いそうな鳳凰であったが、仲間の波長と合う言葉に冷静さを少しずつ取り戻していった。
『鳳凰よ、私のお話を聞いていただけないでしょうか?』