睡眠のお話
日が沈めば誰もが休息に入った。生存競争激しいこの場で休まないということは喰われる以上の死が待っている。
「夜行性の生物は少ないだろうな。昼間があんだけ騒がしい生存競争ならなおさらだ。安心して休めるはずだぞ」
明かりは付ければ魔物が集まる。星の光だけで過ごしているロイとNM_H。春藍がいないため、便利そうな家なんてできないが。テントみたいな物は持ってきていた。
簡易の布団の上に寝転ぶロイに対し、NM_Hはまだ突っ立ったままテントの外にいた。
「?休まないのか?魔物が来たら、テキトーに俺が追い返してやるよ。そもそもお前は戦う能力がないんだろ?」
『はい、戦うことはできません』
外にいるが、ロイの方を見ているNM_H。気になっていることは外の状況ではないようだった。
『ロイ様。お聞きしたいのですが、休息というのはどーいった事なんでしょう?』
「は?」
『言葉は分かります。ですが、我々は技術開発局より造られた存在。ロボット。あなた方、人間ではありません。ですので休息はないのです』
"科学"じゃないロイにとっては、NM_Hが言うことなどはっきりとした言葉を使うことができなかった。
「そーでもないだろ?」
『え?』
「お前等の動力は無限じゃねぇはずだ。食事や休憩とかは俺達より少なくて済むだけのこと。人間ってのは消耗が激しいんだよ」
そういえばテキトーに獲ってきた魔物を焼いていた時も、不思議そうな顔をして見ていたことを思い出すロイ。
人じゃない奴と旅をするのは案外これが初めてだったか?
『管理人さんが羨ましいです。彼等は私達のようにロボットに近い存在でありながら、人と同じように生活することができた。私には食べるや寝る、休むといった事ができない。感情は全てプログラミングされたことのみ。疎外感が辛いのです』
「随分と一気に喋ったな」
『感情を吐き出すようプログラミングされているからです。私はあなた方のようになりたい。でも、なれない。葛藤があるのです。協力できるけど、その芯まで続けられない。私達はあなた方といられる時間はきっと短い』
人間に造られた存在。区別を付けるため、ロボットというカテゴリーに入っているNM_H。こんなことをロイに話すのは技術開発局とまったくの無縁だからであろう。彼女から見れば彼等は父親や母親という存在、第三者という形にはなれない。
「深く考えても無駄だろ。そーゆう話はさ」
『そうでしょうか?』
「俺は人間だけど、別の異世界の人間だ。アレクや春藍、ライラからみりゃそーだ。でもカンケーねぇ。お前達がフォーワールドで造られていて、人間ではないってお前自身、相手だって思っていても。仲間にそんなことカンケーない」
『仲間、ですか。それは本当にどーやってできるのでしょうか?』
「自己申請、もしくは、相手がそー言えばできるだけだろ?人間の俺達だってよく分かっちゃいない」
もう少し愛想良く会話できれば、きっと楽しいんだろうけど。
言葉を知っていても利用することが精一杯。気持ちを乗せて上げることができない。
『ロイ様。では、仲間として一つだけご教授願いたいことがあります』
「おう。答えられる範囲に限りはあるぞ」
ロイはこの時、仲間としての気持ちで言葉を受けるつもりでいた。
『私に、寝ることを教えてください』
「ぶふうぅっ、げほぉ、けほぉっ」
『ダメでしょうか?私にはできないでしょうか?』
「お前、言葉のスペシャリストなんだからもう少し言葉を選べよ!!ビビッたぞ、変な方向に間違いなく考えるぞ!!男が聞くとな!!」
別に機械と寝るのは良いんだよ。でも、やっぱり接して分かるのは人間とロボットでは温もりが違うんだよな。ジョークで言っているんだろうが、悪いが俺にはそーゆうことはできないし。
何よりお前もできないんだろ?
正直なとこ、ロボがエロイことに目覚めたら春藍にでも頼めよ。あいつならなんとかしてくれんだろ。リアに惚れられ、自分も惚れる当たり絶対にNM_Hはあいつ好みで造られてるはずだ。
「あー。とりあえず、人間みたいに寝るには。不眠症に陥っている人もいるためにも言うと」
『はい』
「まず、布団とかベットに横たわれ!」
ロイが指示するとすぐにNM_Hは実行する。このままロイが変態的な命令を下せばアッサリとやりそうな雰囲気である。だが、そんな不安をまったく感じさせてくれないわ、一途に真剣だったり、温もりがないんだよな。
「両目を瞑る」
『こうですか?』
最低でもキスくらいしてやりてぇのに……。隣で眠っていても感情が動かねぇ。
どーにもね、気分になんね。仲間ぐらいがホントに丁度良い奴だな。
「寝るまでずーっとそーするだけだ。辛いかもしれんが、基本は我慢比べだ!以上!」
『承知しました』
「俺も寝るからな。日が上がったら起きるぞ」
見知らぬ場所で爆睡できるほどロイはアホじゃない。眠っているが、すぐに戦闘が行えるように気を張って眠っている。魔物がいきなり襲ってきてもおかしくはない自然環境だ。
『………………』
寝ろという指示を受けて、見様見真似で無になって寝てみるNM_H。仕える人が眠ってしまうと、何ができるか考えても本当に少ないこと。それでも自分は動き続けてしまう。
ロイと一緒に旅をする過程で、必要と感じる性能を忘れないよう記憶していく。自分は新しい自分のための実験台。モルモット。その役目を完璧にこなさなくてはいけない。
『一定時間のスリープモードは必須』
自分1人だけの時間はとっても寂しい。




