鳳凰の羽ばたき、食生活
「ぎょぎょぎょぎょぎょ」
魔物達は彼の周りをただ歩き回っているだけであった。これ以上近づけば喰われるという警戒があった。
その姿は野生児。この自然界に生まれ、育ってきた魔物の部類に入る人間。
生きる理由はないが、何かを喰うという理念で彼は動く。ロボットと大差がないかもしれないし、彼がそれだけしか動く理由がないのならロボット以下の価値であろう。
「んぎょ?」
わずかな理性があるとしたら、たまに映る景色に感銘を抱くところくらいかな。
バサバサバサバサ
彼は、どんな今まで見て来た魔物の中で最も大きいと評価する紅い怪鳥が羽ばたいているところが好きだった。
巨大な怪鳥であり、この異世界で唯一とも言える炎を発する生命体。大きく発生している雲よりも大きく、全土に火を放てるだろう巨体を持つ鳥の魔物。
持っている羽に炎が宿り、木々に触れればあっという間に焼き払う。活火山の中心で生息できる貴重な魔物であり、この異世界にしか生息していない。確認されている数は7体のみ。
「うきょーーーーー!!きょきょきょ!!」
それが鳳凰という伝説級の魔物。
鳳凰が空を舞えば、地上は焼き尽くされる。超危険な魔物であり、狩ることも困難な生命体である。
「なんだあの馬鹿みたいにデカイ鳥!?蒲生みたいなデカさだ!」
『あれが今回のターゲットです』
「マジか!?」
鳳凰の羽ばたきをこの目で見たロイ、NM_H。
『ご心配なく。私達は鳳凰を狩るのではなく、鳳凰の卵を得ることですよ』
「そりゃそうだが、あれの卵を手に入れるのは相当アレだぞ!下手したら2頭を相手にするような事だぞ!卵ってあれだぞ、ヤッた後だからな!!」
『説明せずとも大丈夫です』
羽ばたきだけで森の多くが焼け死ぬ。その上に鳳凰は着地。森の上に着地することができないからだ。
普段から活火山の近辺で生息しており、自身の身体が高熱に耐えられないほどの状況になると森林まで羽ばたき、身体を冷やす性質だという。身体が冷え始めると紅い身体を持つ輝きが徐々になくなり、羽ばたきで落としていた羽の炎も徐々に消えていくらしい。
身体が冷えると再び餌を求めて、活火山に戻っていく。ちなみに身体の紅い輝きは、火山が吐き出すマグマを食べることからできているらしい。鳳凰の主な主食は大型の魔物であるが、マグマを乗せて喰うらしい。鳳凰達にとってはマグマはご飯に乗せるおしんこのような存在らしい。
「バリバリの肉食なんだな」
『鳳凰の生命活動について、クォルヴァ管理人から頂いたデータを拝見しています』
あれほどの巨体であるが、わりと小食。2日一回くらいの割合で空を飛び、デカイ口で森ごと食って火山の中へと吐き出す。しっかりと熱で殺菌してから食事をするということをする。
ちなみにこの時の狩りでは、羽に炎は宿らないという。黒く焼けた食べ物は口にしない。
「喰い方が雑すぎね!?森ごと喰うって……」
『あーゆう感じです』
また別の一頭の鳳凰が空を舞っていた。その姿に炎はなく、完全に狩りの目をしていた。
説明通り、鳳凰は巨大な口を開けて地上へと突っ込んだ。その巨体が低空飛行するだけで密林はメチャクチャに荒れ、狩りをしようとしていた魔物達も一時退却するほどの大破壊。炎を撒き散らさないだけ、被害は少ない方だが。
わずか1分で木々や魔物、無論、大地まで口一杯に含んで活火山へと運んでいく鳳凰。自然破壊並みの食事を、ロイ達に見せつけた。
「……………」
『……………』
唖然としていた2人。
「あー、そう」
『はい』
「あんな下品な喰い方してホントに大丈夫なの?」
『マグマや自然の熱でちゃんと殺菌するので大丈夫みたいです』
「へー、今度俺。挑戦してみようかな。何あの、大食い大会でどんぶりごと喰う馬鹿みたいな喰い方」
これが自然か。
「完全に自然界の生き物じゃねぇだろ!!」
『いえ、あれが自然の生き物です』
「マジで言っているの?あれ、自然災害レベルじゃねぇか!森ごと喰う化け物じゃねぇか!!ここの魔物、基本的にデカイんですけど!」
人間同士なら負ける気はしないが、体躯の差はパワーに明確な差があることを伝えている。ロイは鳳凰のデカさに頭を少し悩ませた。
「打撃も投げも絞めも。そもそも、あのデカ物に攻撃が利くか?」
低空飛行で木々どころか、障害物を全て粉砕している。飛べる能力だけでなく、身体の硬さも相当ある。体術の基本の多くは、対人間を想定されている。形状が不安定で定まっていない魔物のための武術というのはあまりに少ないもの。
特に自分よりも遥かに大きい生物を相手にするための、武術というのはおそらく存在しないだろう。
「まーったく。まぁいいや。なんとかしてやるよ」
ロイとNM_Hは無事にミッションをクリアできるのだろうか?




