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RELIS  作者: 孤独
友達編
416/634

謝礼の品物と強力な2名の加入

「いやぁ~~、死に掛けました。ホントに」


なんとか交渉の成立を果たした藺は、王や山羊波等と合流をした。



「負けたんだろ?」

「もー。……はい、そうです」



あれだけ苦労して手に入れた人材も手放す始末。藺がやったことは自分の命を助けるだけであって。


「でも、命あってのなんちゃらとも言うでしょ?」

「自分に甘いんじゃね?」

「そりゃ自分ですから」



ただね、



「私はここで終わる気はないですよ。王くん」

「そーこなくちゃ、付き合ってらんねぇよ」


負けたという報告はみんなにした。藺が失った物など、他の連中はそこまで興味はない。負けたという報告もまた、彼等にとっては曖昧な物。

今は、心を開けるような親友として。王震源と2人でコーヒーブレイクをしていた。


「"占有"って、お前が決めても。まだまだ漠然としたもんだ。国なんてハッキリなんかしねぇ」

「まだまだ人が足りないですからね。時間も、情報も、足りないことだらけです。私1人の命で続けられるか」

「弱気になるのも、分かってやる」



せっかく手に入った戦力を手放した。これは作戦を練り直さないといけない。


「メテオ・ホールさんはどうでした?」

「あいつはまたしばらくダメだろ。精神を折られている。あの高慢で矜持な魔物だ。完膚なきまでに負ければ、立ち直れないのは当然だな」

「朱里咲が何枚も上に行ってましたからね。トラウマですか」



しかし、トラウマを知るとはあなたもそれだけの存在なんですよ。あの怪物相手に生き残ったのはさすがです。



「しねぇんだな。お得意の拷問とやらは」

「精神が折れてるなら、操りやすいもんです。私の言葉に素直に従ってくれます。2度敗れても、メテオ・ホールさんのような戦力はいませんからね。なるべく、自然体が一番ですよ」



とはいえ、メテオ・ホールをまたしても欠いた戦況だ。

謡歌を失う前に絞れるだけとった情報を利用し、またライラ達を捕縛しようと思ってもさすがに警戒され、空振りに終わるか。それとも本当に負けるか。

地道に行くしかない。負けて、地に足を付けたのなら。



「ところでお前、何やる気だ?」

「はい?」

「お前の後ろに置いてあるその馬鹿デカイ箱。中は山羊波の造った、"アルテマ鉱石"だろう?使うわけでもねぇだろ?(使い方知らないけど)」


山羊波が製造者であるが、使用できる技術者がいない"占有"側。強力な魔力、あるいは電力を生み出すため非常に貴重な資源である。

造られ方は非常にグロテスクであるため、あまり口外にはされないだろう。また、その技術を学ぶ者ももういない。



「お詫びの品物を送るだけですよ。人のお仲間を洗脳しちゃったお詫びです」

「あいつ等にか?」

「ええ。まだ、アメジリカに留まっていると思います」



謡歌から搾り取った情報から物品の共有、また情報の共有が有効であると判断した。ライラ達の目的は自分達同様、国を作り出す事。自分の異世界を守ることにある。

無論、話し合いもあるだろう。しかし、略奪や戦争に発展するのもある。アメジリカは後者だった。



「私が直々に謝罪に行きたいんですが、きっと殺されちゃうので。王くんが渡しに行ってもらいませんか?」



仲直りをしようというわけじゃない。

泳がせておいた方が良い。


「人材の量と質ではあちら側の方が、我々より優れている。"アルテマ鉱石"がなくても代用する物もあるでしょう」

「かといってよ」

「いいんですよ、確かに向こうの方が有利ですよ。大サービスしてますよ。けど、私達が最後に乗っ取りますから。あちらは素敵な異世界みたいなので、より壮観になって欲しいものです。あと、この取り上げておいた腕輪も5つ。返却してください。私達には扱えないよう、組み込まれていたみたいです」



若の"ディスカバリーM"も、返却するよう命じる藺。なんていうか、しょうがなかったが。自分は地味な役割だと思う、王であった。

どうせ、ここで分かれてもまたふとした時に出会うのは分かっている。敵として睨み合うのも良しだが、共に戦うのも良しか。まぁ、直接ぶつかり合えばやはり負けるだろう。俺達はまだまだ下にいる。


「分かったよ。行ってくれば良いんだろ」

「お出迎えには2日後に、レモンちゃんを連れて行きますので。文字を付けてもらってくださいね?位置情報がなければ私達は帰りますから」

「2日も敵地で生きていろってか」



休憩時間を終えて、覚悟を決めながら敵地に1人へと乗り込む王。別れ際にレモンから心配の言葉を聞いたが。すぐに大丈夫だと返せていた。俺は怖くはない。

つーか、たかが荷物を渡すだけ。そもそも、俺に対する敵対意識はないだろう。



弱いからだ。だが、今が怖くない。今続いている幸運で行くまでだ。





◇  ◇



「いった~……」

「我慢しろ。痛みのショックで死ぬんじゃない」

「麻酔なしで体の解剖をするな。しかも、人の体!」



アメジリカ。

藺達との戦闘から3日が過ぎた。かろうじで生き残った人間達は朱里咲の元へ集まり、小さなキャンプ場のような物を設立した。

ライラ達もこのキャンプ場で治療を受けている最中だ。



とはいえ、治療を中心的に行なっているのは春藍であった。



「アルルエラさんの修復がようやく終わったよ」


もっとも深手を負っていたアルルエラの治療が今、完全に終わり。なんとか5人全員の無事が確保された。



「春藍~、あとで私も見てくれない。麻酔なしで体を捌かれて不安なんだけど」

「心外だな。私は人体には詳しい。しっかり治療したぞ」

「治療方法をどうにかしなさいよ!」



朱里咲の一撃によって内臓の一部を傷つけていたライラ。また、春藍の攻撃によって一度、身体を真っ二つにされた朱里咲。

その2人のやり取りを見て凄く感じるのは


「2人共、元気だね」

「そんなわけないでしょ!」

「こーでもしてないと重体者に専念できんだろう」



アルルエラ、水羽、謡歌の3人は生き残っているだけの状態。



「朱里咲!あなた、ちゃんとあの化け物を制御できるんでしょーね!?暴れまわったら、私が粛清するから!」

「水羽を化け物呼ばわりするな。私の弟子だ。ちゃんと説明してやれる。それより、あの夜弧という女に謡歌を任せて良いのか?なぁ、メカ青年。君の妹なんだろ?」



心の治療というのは簡単そうに見えて難しい。一度、強力な洗脳を受けた謡歌の治療は朱里咲も春藍も分野が違う。


「大丈夫です。夜弧が仲間だからです。ライラが僕を信頼するのと同じ。僕が夜弧を信頼してます」

「……ならば良いが」


洗脳された状態を消し去るということは水羽と謡歌の関係が無くなるということだろう。ならば、水羽にも記憶がなくなってもらうのがいい。


「これからお前等はどうするんだ?アメジリカに残っても良いが、別の異世界から来たのだろう?」

「あ~………」

「?」

「それ聞かないでよ……」


ライラ。肝心な、"ディスカバリーM"を無くし、さらには目当ての資源も入手失敗。藺が命を拾ったものと同じく、ライラ達だって自由を手にしただけに過ぎなかった。


「若かクォルヴァに連絡をとれるのが良いんだけどね」

「それは無理だよ、ライラ。朱里咲さん。謡歌やアルルエラさん、水羽ちゃんの心配もあるから僕はまだ残ろうと思ってます。まだ少しの間、お世話になります」

「君なら歓迎だな。水羽をあれだけ治療できる技術はここにはない」



現実を見れば、ライラ達には選択がなかった。


「私は何かできるわけじゃないけど……春藍や謡歌達を置いていくわけにはいかないからね」


異世界への移動が自由にはできないが、それぞれ隔たれていた異世界同士が少しずつ繫がり始めている。アメジリカがまた違う異世界と繫がる事もあるだろう。

運が良ければ……


「って!運で助かるわけがない!そんな都合があるわけない!」

「……ふっ、まぁ我々も多くの人員を失った。死亡した者、藺兆紗によって誘拐された者、全てがハッキリとしていない。協力者が欲しいのは私も同じだ」



情報をやり取り、お互い敵対する理由がない。同盟に近い関係。



「事態が変わるまで、仲良くやろう」

「分かってるわよ」



それは丁度、ライラと朱里咲が仲良くやろうとしていた時だった。

このキャンプ地に大きな荷物を抱えてやってきた、王震源。



「随分暴れたとか聞いたが、ぼちぼちの住居があるじゃないか」


不審者への警戒は強い。それはアメジリカが初めて襲われる恐怖を知ったからだ。連絡は速やかに朱里咲へと流れていった。


「侵入者です!朱里咲様!」

「数は?」

「今のところ1名です!しかし、交戦するような態勢はとっておりません!」

「ライラ、一緒に来てくれないか?」

「分かってるわよ」



ほどほどに動ける体になったが、全快にはまだ遠い2人。

ライラと朱里咲が同時に侵入者である王を目視した時、彼は丁度、荷物の上に座って本を読んでいた。



「あいつは確か藺の仲間」

「じゃあ、敵か?」

「だけど、そんなにヤバイ奴じゃないわね」


藺であれば問答無用で殺されていただろう。レモンや山羊波、メテオ・ホールでは交渉技術に難がある。

王は一切、戦う素振りを見せないことでライラ達の強い警戒を解いた。


あいにく空は晴天。ライラの能力を知る王は、雲に変化がなければ彼女の攻撃はないと判断していた。



「たしか………王震源って言ったっけ?」


目が合う距離まで、話ができるだけの距離まで。相手から来てもらったことは大きい。特に交渉事は。


「そうだ。先日の謝罪も兼ねて、謝りに行ってくれと。藺に言われたもんでな」

「だったら本人が来なさいよ!私が殺してあげるから!」

「謝罪は結構だ」


一つ言葉を間違えれば使者を平然と殺そうとする野蛮性。残虐性。藺とどこか似ている。同族嫌悪といったところか。

王は読んでいた本に栞を挟んで閉じ、ちゃんと面と向かって2人と話した。

ただ置いてくれば良い仕事なのも事実だが、



「藺からの謝罪の品物だ。ライラ、あんた達にとってはこれらが喉から手が出るほど欲しいはずだ」

「は?」


王が荷物の中身を大胆に広げる。その中には藺から渡された”アルテマ鉱石”と、


「これも返してやる」

「へ?」


投げられてライラに渡されたのは、若の”ディスカバリーM”。偽物かと疑いもした。これらにつられて、ありがとうなんて言葉は出ず、


「なんのつもり!?」

「自分の異世界に戻れないんだろう?藺は良い人材を潰すようなマネはしねぇーんだ。それがたとえ、自分の障害になろうとな」

「罠でしょ!?」

「だったら壊せばいい。俺達には使えないように細工してあったみたいだから、藺もいらねーって言っていた」



王はゆっくりと後ず去る。



「俺を殺したり、尋問しても意味ねぇぞ」


先ほどから剥き出しにしている殺意をどうかしまって欲しい。


「あああ~~?それだけで帰すと思う?あんた達の居場所や目的を事細かに吐かせてやりたいわ」

「お前の中には興味はない。だが、お前と戦うのが面白そうだと思っている」


ライラと朱里咲も、ゆっくりと王を捕えようとジリジリと進んでいた。


「おいおいおいおい。虎みたいな2人と戦う気はねぇーんだ」

「五月蝿いわね。腹いせにあんた殺すわよ!」

「腹いせ過ぎるだろ!」



おそらく、タイマンだとしても敗れるだろう。王は実力では何もないに等しい。


「俺は藺の傍にいるだけの男だ。何も分かっちゃいない」


ライラと朱里咲が戦意に走る前に言葉を使える。王の性格の良さもある。


「あんた達が怒りで殺したいなら、藺もお前等を怒りで殺すだろう。まだ、お互いが醜い争いをするような時じゃねぇだろ」


王は自分の命を守るために、今度は逃げずに前へと一歩進んだ。それはしょうがないから戦うからという意志ではなく、完全に戦う気満々。それ以上の覚悟。


「俺も戦士の1人だ。1人くらい刺し違えてでも戦う。弱いからって勘違いするなよ。お前等が本調子じゃねぇのは分かっている」


その本調子でなくても、王は敵わないと分かっている。

ただ、敵が捨て身で戦うと覚悟している。それが危険なのはライラにも、朱里咲にも分かること。


「お前等のために言おう。ここはこっちが出すだけ出した、謝礼に従ってくれ。俺はそのためだけに来た。本当だぞ」

「罠でしょ?」

「罠なんかねぇーよ」


藺は一度、謡歌を使って”ディスカバリーM”を起動させ、その効果が適用されるのは装備していた謡歌のみだと知った。異世界に謡歌が行ってしまうと、藺の制御が効かない恐れがある。

そのため、藺にはまったく必要のない代物となってしまった。

王が言っている事実は正しい。


「あんたはどーやって来たの?」

「藺の人材の中に、そーゆうことができる奴がいる。おそらく、管理人を補佐していた人間だろうな。”科学”の部類だった」

「藺の仲間はどれだけいる?」

「純粋な仲間なら俺と、レモンちゃん、山羊波、メテオ・ホールだけだ。藺が何人人材を保有しているかまでは知らないな」


話の流れが変わった。王の勇気が、ライラと朱里咲の戦意を折った。できるだけ生きている間に、王が持っている情報を得ようと優しく質問をするライラと朱里咲。それに対して丁寧かつ、ちゃんと答える王。


王が持っている情報ならいくらでもライラ達に提供しても良かった。


そのおかげでライラ達が警戒し、対策を練るのも好都合。

防衛や警戒への対策や負担というのは思う以上に来る。また、何も起きなければ無駄になる。藺達はライラ達とはしばらく戦いたくはないし、ライラ達がどー思うのであれ、戦う意志を先送りにしてくれれば良かった。



「藺の能力はな」


王が知る限りで、メンバーの能力の全容まで明かす。

確かにマイナス面もあるが、藺はメンバーを補充する考えがある。自分達の能力が知られても、代わりを作って補おうとしていたのだ。それに藺の場合、能力がバレても困ることでもない。

大サービス過ぎる発言を平然とする王。ライラと朱里咲が、王に対する敵意を薄めたのは事実だろう。



「喋り過ぎじゃない。まだ殴ってもないわよ」

「いいんだよ。俺は命が助かりたいだけだ」


ライラは毒気が抜かれただろう。朱里咲も、確かに相手は弱いと見なし、警戒するには過大評価だと値を出しただろう。


「これくらいでいいだろ?な?悪いがもう、ここから離れさせてもらうぞ」

「!……どー思う?」

「良いんじゃないか?そこまで敵意のある男じゃない」


脅威を感じない。


無能の仲間を演じていると思えるが。


「言うこと言ったんでしょ!?私達も聞いてあげたし!命が欲しければダッシュで逃げなさい!いつまでも私が相手にするわよ!」

「おっかねぇーな。(ライラの戦闘範囲は超広範囲なんだろ?お前の土俵になるじゃねぇーか)」



ライラが怒声っぽく、王の命を助けることを伝えた。抜け目無く、雨雲を呼び寄せており、小雨で常に王の位置を特定しようとしていた。

それを承知の上で王は2人から離れていく。それも必死にだ。


「良いのか?雨で位置を知れているとはいえな」

「……あれはたぶん、やれる奴ね。けど。殺しても意味がないのは確か。それより、なんであんたも戦わなかったの?」

「思う以上に弱い存在だったからな。勝つ戦いほどつまらないものはない」



戦闘で言えば、王の脅威はほとんどない。

しかし、王の性格は強者となんら変わらない怖さがあった。


「嘘を言える顔じゃないわよね」

「正直な男だろうな。相手にも、自分にもな」


こうして、ライラ達は謝礼という形ではあるが、フォーワールドへの帰還と”アルテマ鉱石”の入手に成功するのであった。

強力な仲間を2人、引き連れて……。


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