SENLAN KAGURA VELIS
恐ろしく強面の男が、王様のような存在と対等かの如く話をしていた。どちらも怯えるとか、震えるとかはない。
話の切り込みは昔話のようだった。
とある魔女の一族が残っていたそうだ。その血を持つのは2人だけだと、記録には残っている。
【しかし、2人共あの"最悪最凶な戦争"より前に死んだとされる】
『…………』
【ポセイドン。それでもなぜ、彼女達がここまで生き残ったか分かるか?】
『一つ言おう。我はその話に興味はない』
時計仕掛けの小部屋。まだポセイドンが生存しており、"黒リリスの一団"が丁度崩壊した頃のやり取りではあった。
【冷たいな。久々の客人達で俺はテンションが高い】
『あなたは我々、管理人を設計し製造まで携わった者の1人。そこまでは偉大だと思っております。が……それ以外、過去を辿ればあなた方が全ての引鉄でしょうな』
彼への客人は、ポセイドンだけではなかった。もっとも、彼女は残骸状態であったのだが……。
『このリアという女性の調査を行なったところ、"富豪の花屋敷"レィディの出身。また、彼女の本名は"リア・ベリス"。とはいえ、名乗っていただけに過ぎないところもあります』
【Oh~。ベリス一族の子だったわけか?快楽殺人鬼であり、全員レズのあれなんだよ。女性しか産まれないそうだ】
『彼女がそうだと知っていただろう』
彼は唯一の生き証人
【というわけではないが】
とは違うと否定する。ポセイドンからもそれなりの評価をもらっていた人間であるのは確かであった。
『管理人はいくつかの生命達のデータを基に作られている。そのデータとは、人類が一度滅ぶきっかけとなった"最悪最凶な戦争"』
【当たりだ】
『それは管理人"だけ"だと思っていました。結構昔はですがね……。しかし、ここたった300年の間にまるで実験のように出現し始める。危険人物の始末には苦労する』
生まれてくる人間が前世を引き摺っている。
『クォルヴァの"RELIS"はおそらく、あなたの技術を参考にしたか、あるいは盗んだか、はたまたあなたが教えたか……』
【へへっ】
『笑い事じゃない。我々の管理を邪魔しているとしか思えんのですよ。戦闘能力がないあなたを倒すのは苦労しない……が、桂と今戦うわけにもいかない。"遺産もない図書館"と"SDQ"、そしてあなたには後日、詳しい調査を行ないたい』
【……桂を殺してからにしな。それと変な言いがかりは止してくれ】
ポセイドンの考えていることは"管理人"としては正しい。管理するならば、俺を殺した方が良い。
ここに来たのは単なる脅しだな。
【俺はポセイドン側ではない。だが、敵でもない。ふっ、脅しだけのためにわざわざ足を運ぶとはな】
『……我は科学者の1人でもある。愛でた物を捨てる時、惜しい気持ちもある』
【俺はお前等の父ちゃんじゃねぇ。邪魔ならいつでも斬るといい。その度胸が付くことは、ポセイドンが平和を作ったことだろうな】
『もう一度確認しましょう。あなたではないという事ですね?生まれてくる人間に、かつての強者の人格なり能力なりを埋め込んでいる輩は』
【俺はずっとここから出ちゃいないさ。そんな技術もねぇ、強力な読唇術ぐらいが取り得だよ】
そんなマネができる存在はたった一つの存在だけだろう?
『分かってはおるよ。だが、それを辿ればあなたの立場は…………』
【…………】
『…………』
ポセイドンは自分の存在理由が、違反であると思ってはいる。
【敵じゃねぇよ】
『その一言で済みますかな?関係者であるのは間違いない』
【……俺がまだ"いる"理由は止めるためだ。ポセイドンと桂と同じではある】
『止めるという行い。即ち、"時代の支配者"が必ず動くということですか……それはあなたもまた協力者の1人として見なせる』
【どーとでも思え。お前は無くしたいんだろうがな】
人類を観測してきた管理人達がいなくなった今。細々としていたことは終わった。浮かび上がってくる人遊び。
いくらでも代わりがいると思っているのか。制御が効かない怪物達は共食いを始めていた。同類ではないが、同じ匂いがする。そんな感じの類に過ぎない。
「い、……いかんなぁ……」
朱里咲もまたその1人だ。
「ダメージが大きい」
春藍の攻撃によって体を焼き尽くされ、胴体にいたっては真っ二つに千切られた。絶命に近いダメージだ。
急いで体を修復せねば死ぬ。死ねば、もう二度と戦うことができない。それはまだ早い。悪くない死に方だが、良い死に方を求めて良いだろう?
痛みで動けないなど軟い肉体ではない。全ての戦況に対応できるだけの、鍛錬はしてきた。
上半身で這いながら、また下半身もぎこちないながら動き出し、ようやく傷口同士が交わった。
「はっ!」
焼けている両手を体内に突っ込み、千切れ、燃やされた器官の状況を細かく把握する。
死ぬまでに間に合うか?
応急処置を施す。延命するため、真っ二つにされた胴体を指の技術と自分の長い髪で接合、その後で体内をコントロールし、最優先で内臓の回復をさせる。
これほどの大惨事はさすがの朱里咲も初めてであったが、想定通りに体を動かせた。あまりにも不自然なところ。
「はぁっ……はぁっ……」
春藍は朱里咲を倒し、正気に戻っていた。物凄い怒りが吹き飛び、頭が空っぽになりそうだった。
「アルルエラさん!ライラ!夜弧!」
状況をふと思い出し、みんなの危機を救えるのは自分しかいないこと。
すぐに"テラノス・リスダム"を起動させ、朱里咲を除いた者達の修復を行った。どこまで自分の精神が持つか分からない。本来の持ち主であるポセイドンすら使用の連続で、一度、精神の崩壊に陥っている。
春藍にとって運が良かったのは、ライラと夜弧が致命傷ではなかったことだ。朱里咲が動けぬ程度のダメージで留めていた。
本格的に修復の能力をアルルエラのみ注げたのは大きく、負担を減らしていた。
「なんと……」
自分以上に焼き尽くされているアルルエラの体が、驚くべき速さで回復していく。それを目の当たりにした朱里咲は生きる希望を折られた。
世界は広いな。
これほどのダメージすら回復できる手段があれば、迷わずに人を撃てる。
そこまで把握しなかった自分の未熟さか。
春藍の意識もまた遠のきそうだった。しかし、ライラと夜弧は復活できるだろう。アルルエラも生き残るところまで戻れるだろう。
「っ…………」
なんとかこれでアルルエラさんも救えたかな?
意識が飛びそうだ。
「いやぁ~、待ってみるもんです」
「!うっ……」
意識が残っている春藍、朱里咲、……
そして、戻り始めたライラと夜弧、……
「獣同士が食い合い。その最後を頂くのは賢い人間ってね」
悪魔の言葉を吐きながら、ゆっくりと藺兆紗がこの場に現れた。