夜戦と雨
パチパチ…………
それぞれ掴んでいる情報はバラバラ。
「こうして過ごすのは久々ね」
「食べ物、とってきたよ」
もっとも情報不足であるライラ達。若の"ディスカバリーM"を失い、アメジリカに留まることしかできない状況。仲間の1人、謡歌も行方知らず。
敵である藺の姿も見えない。
「ちぇっ」
また、朱里咲の存在も知らないライラ達が抱える状況は思った以上に不利であった。
ひとまず、春藍が"創意工夫"を使ってそれなりの住居を用意し、みんなで森で食材をとり、作った料理をつまみながらこれからを話す。
「あ、これ美味しい」
「ライラ。これからどうする?謡歌の姿もないし……」
兄らしい心配というより、仲間意識を出しての言葉だった。
「当然、捜すに決まってるでしょ!それで藺って奴は私がぶっ殺す!!」
「殺意剥き出し過ぎ…………でも、当然だけどね」
敵を早めに潰しておきたいけれど、優先するべきはフォーワールドへの帰還が第一優先でしょう。
アレクさんかクォルヴァのどちらかと連絡が取れればなんとか良いのですが。
「情報収集したいのに誰一人もいないんじゃーね」
「街をぶっ潰したライラが言わないで」
「あの化け物相手に手加減できるわけないでしょ!やばかったじゃない!」
「同意だね」
左肩からゆっくりと左腕を修復させている春藍。命に別状はない。
「日が沈む。今日はこれくらいにしないかな?」
「正直、私は寝るのがキツイわね。悪い夢しか見そうにない」
「私もです」
「同意したいですか、し辛いですね……」
体に疲れもあるが、それより精神的な疲れの方が大きい。藺に捕まったあの悪夢がこびりついている女性3人。一体いつ、安心した睡眠がとれるだろうか?
「そっか。じゃあ、僕も寝ないよ」
「……悪いわね」
3人に付き合うように春藍もまた眠らず、その傍にいてあげた。
安心とはいえないが、即席の家を建造しリラックスはできる。体を休めることは可能。そして、きっといつしか眠ってしまうものだろう。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
4人共、周囲の静けさに同化し睡眠に入った。人がいないからこそ、ゆっくりと浸かった癒し。夜が発する静寂。
ゴゴゴゴゴゴッ
「?」
わずかに静けさがざわつく。何かが向かってくる音だというのは、その音が徐々に大きくなってきたからだ。それも大量。
ドガアアァァァッ
唐突の夜襲!ライラ達を襲ったのはライラが振り落とした氷塊の残りであった。
春藍が造り、みんなが休んでいた家は一気に押し潰れた。
「こうやって、私の……アメジリカを潰したのか……」
朱里咲が現地に到着した。そして、自分がいない間に全てが終わっていた光景を見せられたことで怒りが沸いてきた。もう腹いせなのも分かっている。
「水羽がやられたか」
絶対の信頼を置いていた水羽の行方不明。彼女が敗れたのも分かったが、まだ終わっていないと朱里咲は考えていた。もう、そう考えていたか……。
礼儀がなっていないか?不意打ちで悪いか?
水羽を倒した相手であり、街全体を軽々と押し潰せる"魔術"の使い手。手加減も、礼儀もあるわけがない。ここはもう戦場。
「死んでもいないだろう?」
押し潰された家から走ったのは2つの音。
炎を吹く火炎放射の音、朱里咲同様に力技で氷塊を弾き飛ばす音。家は潰れても、中にいた4人は平然と無事。睡魔がぶっ飛んで緊張が走った。
「も~危ないな~。誰がやったの?」
「春藍様の方が危ないんですけど、体にホント色々仕込んでませんか?」
「あのライラの氷塊の数々を一瞬で投げてくる"超人"」
「強いのは分かってる」
でも、こっちは4人いる。
春藍、ライラ、夜弧、アルルエラの4人はすぐに戦闘の体勢に入っていた。
奇襲による動揺は一切見せなかった。
「敵の姿が見えた?」
「いえ、さすがに見えなかったわ」
かなり遠くから投擲された攻撃。朱里咲という存在を知らないライラ達は、水羽が生きていたという予測を立てていた。しかし、この静けさを考えれば彼女の可能性は極めて低い。
この正確な投擲もまた彼女が考えたとは良い難い。
新手という判断もある。
「複数の可能性もあるわね」
「ええ。なるべく、敵が分かるまで動かないで。私の"ピサロ"で牽制する」
夜という視界の悪さに加えて、地の利もそこまで把握していないライラ側の不利は大きい。接近での戦闘をメインとする夜弧とアルルエラは防御の態勢。春藍とライラが中心となって、攻撃してきた朱里咲の索敵を行っていた。
サーーーーーッ
「む、雨だと?」
夜に加えて、雨。奇襲をするならもう少し後の方が良かったかと、朱里咲は反省を一瞬だけしたが……。雨が降りそうな雲はなかったはずだ。
この本部を潰した氷塊の数々。それが何者かの能力であれば、この雨もその能力者の仕業である可能性は高いな。メテオ・ホールといい、なかなか面白い連中がひっきりなしに来るな。
ライラ達以上に警戒を強めながら、朱里咲の攻撃が始まる。




