ヒロイン、主人公を捨て駒にする
ボロボロだと見えて分かる。しかし、それを知らないでいる。水羽はただの器。
「きゃはは」
全力で動き続けられる。体内に掛かる負担を何も知らないでいいからだ。
水羽の体を強制的に動かし、全ての敵を殲滅するまでのミッション。その敵の判断は鈍いまま。
「春藍!」
「3人は下がっていて!!」
春藍の言葉を少しだけ安心して受け止められるライラ。状況は大きく変わっている。夜弧、アルルエラの2人も連れて、ライラは上空へと逃げていく。
「一旦退避!夜弧、アルルエラさん!戦況を確認してください!」
「分かりました!」
「ライラは!?」
「春藍を援護する!空中戦なら私に勝てる奴なんていないわ!」
敵正体が分からないのはライラ達も同じだ。ただ、わずか1分ほどの死闘で狙いは春藍に絞っていたこと。
「うぁっ!」
春藍。最初は面を喰らった攻撃だったが、冷静に向き合えば不気味に見える少女は怪我人。重傷者だ。相手の攻撃に付き合わず、水羽の攻撃を避けることに徹する。回避されることと防御されることには差がある。
スピードはあっても、動きは読める。
「はははははは!?」
「デ、デタラメな攻撃ばっかりだね!」
ロイの素早い連続攻撃とは違い、大振りの攻撃を連続で速く使っているパターンをとっている水羽。
ドオオォンッ
「えっ!?」
水羽。右足を大きく踏み込み、地面に太ももまで突き刺さる。これでは水羽が動けないはずだ。
予測不能のパワーが成せる常識外の攻撃。右足を主柱のように扱い、地面を素早く蹴り上げる。床をひっぺり返すような技だった。普通に両手でやれよ。春藍の両足がつく大地は崩され、彼は投げ出されていた。剥がされた地面が壁となり、春藍の目から水羽を隠した。
視界から見失った水羽。春藍は狂気の声からやってくる方向を察知する。
左から周りこむか、右から周りこむか。
「君なら」
投げ出されながら左腕からバズーカを取り出し、背中が地面につく前に構えた。
剥がされた地面は瞬間に弾け飛ばされ、春藍にも被弾していった。
「正面だよね」
水羽が蹴り上げた地面を砕き、真正面から春藍を殺そうと来た。そこへ構えていた春藍の攻撃は想定もしていなかっただろう。いろんな意味で。
"機械運命"に内臓されたバズーカが水羽をさらに焼き尽くす。圧倒的な戦闘能力を持っていても、その脅威は拳と足の間合いくらい。やや離れた距離で戦えば優位に立てる。
「いぎぎぎぎいいぃぃっ」
直撃した爆発。しかし、水羽はこれでも止まらない。体が燃えながらも春藍へと詰め寄って、左腕のバズーカを掴んだ。
「え?」
説明不能。ボロボロになっている肉体で、"科学"が壊されるという事実。
バギイイィッ
水羽は素手で春藍の左腕をもぎとった。ダメージ知らずの攻撃に春藍も、これにはキョトンとした表情を浮かべる。唖然が多い。
「あ」
その呆けを逃さず、水羽。今度は大きな口を開けて自ら、抜き取った春藍の左腕の傷口に目掛けてかぶりついた。強靭な顎の力、歯の強さ。破られる音は手で千切る紙とは違っていた。
バギイイィッッ
「っっ」
「ひゃはははは。お前もそれで生きれるの?」
「……ライラ達だったら、死んでたよ」
狙いが自分で良かったとホッとしている春藍。完全に左腕、左肩を水羽に奪われてしまった。今まで鈍かったが、死の恐怖も感じてきた。それでも冷静に、落ち伝いて相手と会話を始める春藍だった。
「君を倒して早く修理しないとね」
失われた部分を、"テラノス・リスダム"で一時的な修復を始める春藍。圧倒的な耐久力と、圧倒的な修復力で分野は違えど、お互い簡単には死なないタイプ。
気が合いそうな戦い方かもしれない。
「春藍!!巻き込むわよ!!」
「え?」
「ひゃは?」
ライラは春藍が水羽を足止めしたおかげで十分、攻撃に集中できた。援護ではなく、完全な攻撃。
「あの、僕も巻き込む気?」
"テラノス・リスダム"を起動させて修復は万全なんでしょ!?
なんとか私の攻撃を耐え切りなさい!!
「酷いや………」
覚悟を決めた感じだ。
「流氷群!!」
避けれることは不可能な氷の軍勢を空から落としていくライラ。その範囲とその威力は絶大であり、どんな存在も押し潰すだろう。積み上げられる氷の山々。
「ぎゃはははは、ははは……」
水羽も最初こそは落ちてくる氷塊を砕いていったが、すぐに力負けする。数でも圧倒的な差がある。ムシケラのように氷塊に潰される水羽の狂気の声が止んだ。
「よーし!とりあえず、倒した!」
「ライラ……あの。春藍様は無事なの……?」
「彼も直撃してましたよ」
"流氷群"が止んだ時、全てが氷に押し潰された景色が広がっていた。




