戦争は反対、支配は賛成
いくつもの世界は多数決という愚策に包まれる。
ただそれが正しいというか、……”世界という空間”で正論だと決められる。
「どんどん、行きましょうか。レモンちゃん」
「承知してします」
洗脳。悪と、行なわれることを見る者は思い、感じ、批難し、嫌悪する。
偽り。偽り。偽り。
ダメだと、悪だと……。正義は言うか。
『藺様、藺様、藺様』
『ご命令を、ご命令を』
「信号の負担が大きいですね」
道徳がなってない?ま、それはどっかの教科書が言っていれば良い事。
だいたい、多くの、在り来たりの人間は、……役割が不確定。どいつもこいつも並んでしまう人材。
これが仕事だ。こーゆうのが仕事だ。そーやって、私が多少手段を、横暴にやっていても良い事でしょう。洗脳という形であっても彼等の魂は最後まで、死んで喜びながらいる。
批判する者は、優しく。私の下にいて欲しいですよ。分かってくれますよ、そう。分からせます。嫌でも、使われることにですね。
『藺様、山羊波様からのメッセージです。全然、人が来ないそうです』
「そうですか。レモンちゃん、少し山羊波さんの方に人数を振ってください」
藺の”人脈”によって、洗脳が完了した人間は、藺自身が確認することができる。テレパスと似た形でのやり取りであり、その人間が見ていた情報のみを取得できる。
洗脳が済ませた人間は、その事実さえ忘れられるほど精妙な精神状態を保つことができるが、これらの精密動作のある機能を付けた状況での人間を操作することは藺を大きく消耗させていた。急ぐようにその消耗を補うため、栄養にしかならないような人間を洗脳し、魔力のみを抽出させていた。
「はっ……は……」
「大丈夫ですか?」
「ええ。私、こー見えてへこたれるほど、甘い悪者じゃないんです。少女に心配される器じゃありませんよ」
藺の異常とも言える能力の正体は、人と人との繫がりである。
しかしながら、この男には何もない。繫がりを信じない。”人脈”を使うには相応しく者。本人もそう思っているだろう。
「いくつかの人間はしまいます。本命達がいるわけですし」
情報が錯綜する中。まだ、本命の1人である水羽にはこの危機は届いていなかった。異常事態です、と……報告はできるが、その原因がまったく分からないという状況を上手に作り出しているレモンと藺の作戦が上手いのだ。
報告すべき状況で、報告できない状況は、止まっているだけで事態が深刻していく。異常事態の経験は学ぶことから始まる。朱里咲抜きの、人材では困難の状況であった。
「止めろ!仲間同士で戦うな!!」
「仲間割れをしている場合ではないぞ!」
「なにを言っているのですか……?」
「これが私達が受けた命令なんです……」
藺が洗脳したアメジリカの人間達はとても効果的に相手を麻痺させ、強烈なダメージを与えていた。
敵に対して非情になれる拳も、味方となれば迷いが生まれる。注意力、判断力が散漫になっていくのは確かである。まだ、アメジリカ側にいる人々はここまで事態が酷くなっていたことを、知る頃にはその側を止めていた。
「離せ!離してくれ!」
「なぜ、こんなことをする!?」
「藺様のご命令だからです…………」
「大丈夫です。すぐにみんな、藺様からのご命令が言い渡されますから……」
みんな、みんな、藺様の下につけば幸せなのです。
洗脳という状況下はそれしかない。自分が良ければそれでいいこと。
「あっ……あ」
すぐに洗脳は終わる。凡人はすぐに崩れ去る。アメジリカのことなど忘れる。
藺への忠誠を固く誓う。
その量、その票、その支持。アメジリカが保っていた、その形が転覆。横転。裏返り。藺達、”占有”への忠誠へと変われば、アメジリカは崩壊したことを意味する。
ここに朱里咲、水羽という。2人の巨大戦力が残っていても、アメジリカはない。世界は強者で作られ、守られているわけじゃない。世界は人々によってできているのだ。
「ふぅ」
静かになるアメジリカ……いや、もう”占有”の領土と化しただろう。
すでにここにいた人口の7割以上は藺の洗脳、その配下になった。侵略のスピードを緩め、あとは降伏を待つだけのような静かで確実な支配が広まっていく。
「少し体調。戻りましたかね。やっぱり、人を大人数操作するのは酷です」
藺の懸念は片付いた。そのほとんどは終わったと言って良いだろう。
支配するまでに1日以上の時間が掛かった。アメジリカを完全に消してみせた。完全に姿を隠して、逃げ切って支配を遂げた。これが藺達のやり方、真正面からぶつからない戦争の仕方。支配のやり方。
『藺様、山羊波様の作業が終了しました』
「そうですか。アルテマ鉱石が完成しましたか」
勝てば良い。手段など、成果が出れば問わないのだ。