戦争決起
管理人 VS 黒リリスの一団。
この2つの組織の戦争は双方が表明しあっていた。優しく言えば、正々堂々とした戦争。黒リリスの一団側のテロ活動として報告できる。
桂 VS ポセイドン。
同じ組織同士の戦争。内紛、内戦。戦争という形も、双方が理解しあい、意見をぶつけ合っていたものだった。
人類の多くは本当の戦争を忘れていた。侵略という行為の恐ろしさ。ただ強いだけではやっていない記録。
「なに?南側と連絡がとれないだと?」
「はっ!南方の者達からの連絡が突如途絶え、こちらも使者を数名送っていますが……帰還者がいません!」
朱里咲達、アメジリカは侵略する側だった。
その攻撃力、武力は圧巻だ。まともなぶつかり合いで彼女達と戦える者達など、そういまい。管理人の作った社会から自立し、自分達の力で異世界を侵略する手際の良さ。
「いかが致しましょう、朱里咲様」
「本当なのだろうな?」
「はい」
連戦連勝。しかし、それがある不安をぼやかしていた。
彼女達は侵略されているということには慣れていなかった。また、謡歌が指摘したとおり、侵略した土地と人材、資源などの管理を疎かにしていた彼女達にとって、情報収集能力と安全面を欠如したところだった。
「軍を動かすか」
軍、と言うが。戦闘能力は朱里咲と水羽に劣る烏合の衆に過ぎない。単純な数同士の戦いならば勝つくらいのレベルだ。
領土が広がりに対して、戦闘で確実に勝てる駒が2人しかいないという弱点がアメジリカにあった。それを今、思い知った。
「いや」
朱里咲は前に言ったことを一度撤回した。
「私が行こう」
「朱里咲様が!?しかし、……」
「ただの勘が言っている。軍を動かすべきではないとな」
勘ではなく、人を失いたくないという朱里咲の心情だ。
南の方にある街にいる連中の情報だけでなく、こちらから送っている使者が帰ってこないのは明らかに違和感がある。
侵略されているかすかな予感。それを奥深く辿ると、我々は侵略する手段を持っていても、侵略から護る力がなかったと知る。
「ここは水羽に一任する」
「僕にですか?」
「難しいことではないだろう?南の調査には私が出向く、この中心はお前が護る以外ない」
朱里咲の行動は早かった。そして、早いだけでなく確実に情報を水羽に託した。
水羽が見守っている謡歌。
彼女のおかげで発達した情報能力が聞きつけた危機だった。
「謡歌も守り、この場所を護ることくらいできるだろ?任せるぞ」
「!……はい!大丈夫です。任せてください!」
朱里咲の性格が出た采配とも言える。
彼女には受けというのは性格に合わず、異変を察知した=敵がいるという、戦闘意欲を掻き立てる情報。
敵は未知数。
「少し遠いが、半日で間に合うか?」
軍を率いなかったのも、自分の最高速度で移動するためだった。
情報が途絶えた地点まで全力で走ればすぐに辿り着ける。ま、未知なところもある以上、向こうで戦闘ができる範囲内の余力は残す。
半日という見積りは明らかに最高速度で走る距離だ。
『藺様、朱里咲が離脱しました』
しかし、朱里咲達の敵は想定以上に用意周到であった。しかも、彼女達の小さな情報収集能力では到底勝ち目がないことを示すほど。
「よろしい、謡歌さん。そのまま水羽を引きつけておいてください」
スパイを送り込み、なおかつ敵陣ながら自分達に有利なるよう罠を張り巡らせた。朱里咲の行動など、移動を始めた瞬間から知っていた。朱里咲の単独行動は情報をもらさないための手だろうが、完全に裏目であった。
「メテオ・ホールさん。相手は超大物ですからね。できるだけ、時間を稼いでくださいよ?」
『だが、殺していいんだろ?』
「だから~~、できませんよ?そんな相手だったら、こんな大掛かりな手は使いません。打撃が効かないあなたが彼女の適任です。しかし、相手には逃げるくらいの知恵はありますから」
朱里咲が受け取った情報は真実である。
そこに立つのは"占有"の最強生物、メテオ・ホール。
「朱里咲がいない間にこちらの支配。水羽及び、アメジリカを奪取すること」
そして、すでに朱里咲の監視下から外れたアメジリカの中心に侵入したのは3人の男女。藺兆紗、レモン・サウザンド、山羊波春狩。
「病み上がりなところ、すみませんね。山羊波さん。女性の方が何かと便利な世界なんで、王くんがあっちでお留守番です」
「ふん。けど、私は雑魚相手なんでしょ?烏合の衆の殲滅だっけ?」
「こっちまで被害を飛ばさないで。あなたの"五月病"は危険」
「私は平気なんでいくらでもしていいんですが……。いちお、レモンちゃんと私が戦いやすい状況ですからね。水羽は任せてくださいよ」
アメジリカが相手にするのはとても危険だった。
戦力の数はもちろん、準備の違いは明らかに差がある。アメジリカにとっては完全な奇襲攻撃を浴びる状況なのだ。主力も分断している状況。
「決着は2日とかけませんよ」