そろそろチーム名を決めないとな
「あぁぁ、痛い思いをしました。肉体派じゃないので止めて欲しいですよ。よく生きましたね、ええ、ホント」
ほぼ全身に包帯を巻いた女性がイライラした顔つきでベットに入っている。その横で、七三分けスーツ野郎が林檎の皮を剥きながらの会話のこと。
「お互い、命が助かって良かったですよね、山羊波さん」
「藺~~~」
ボロボロの顔。体。
傷ではなく、破壊が行なわれた痕であった。
「ミイラコスも似合うじゃないですか、山羊波さん」
「ああっっ!?テメェ、ぶっ殺すわよ!っっ……くぅぅ」
「大人しくしてください。私の医療班がしっかりとあなたを治療しますので。料金は0ですよ」
とある異世界に匿っている藺、王、レモン、山羊波、メテオ・ホールの5名。
夜弧とアルルエラの戦闘によって、藺と山羊波は大怪我し、特に山羊波は真っ当に動く事ができなかった。
「"超人"は便利ですね。回復力も高くて」
「痛いのはお互い様だ」
王は完全に回復しており、レモンと遊んでいたところであった。レモンもライラにコテンパンにやられたが、戦える程度には回復していた。
「王さん!次はこの本を読みます!」
「ああ、好きに読んでおけよ。暇なのは今日くらいだ」
レモンは色々な創作物を見ることに嵌ったようだ。読書好きがさらに読書を好きになる。藺がそーゆう異世界の文芸に知り合いがいるから、調達してきてくれるらしい。
王もその経由でたんまり溜めた雑誌を読み漁っていく。今は全員オフ状態に近く、山羊波の病室がみんなの家のように思える。
「エロ本を私の病室に並べるな!」
「病人は静かにしていろよ。見舞いに来ているんだぞ」
「どこに大量のエロ本を持参して、女の見舞いに来る男がいる!?」
文芸を静かに読むレモン。その隣で静かにエロ本を読む王。
「なにこの温度差!(っていうか、この私がメンバーのツッコミ役だと!?)」
「…………」
「…………」
ゆっくりと目を降ろしながら読んでいくレモン。文字から伝わる物語をしっかりとイメージしながら進めている。一方で王は絵から伝わる部分をしっかりとゆっくりと読んでいる。両方共静かであった。
「何しに来たのよ、こいつ等……」
「まーまー。どうせ、私達は仲間意識が低い一味じゃないですか。お気になさらずしましょー」
王とレモンは読書。
藺はしゃくしゃくと林檎を剥いて皿において、みんなに食べられるよう爪楊枝を刺したかと思えば一本だけである。自分だけ食べるようにしていた。
しゃくしゃくと食べながら終始無言の藺。
読書で無言の王とレモン。
「あーーーーーっ!何黙ってんのよ!私は!私はなぁぁっ!!っっ……くぅー」
「学習してください。刺激すると痛むんですから」
「あなた方が黙って、好き勝手するから…………腹が立つと思っているんです。完治したら覚悟しろ」
病室がこんなにも退屈だとは思えなかった。怪我するとロクでもないことも知った。山羊波は怪我を受けたときよりも、この現場を知って強く学習した。
そして、もう一つ。姿をまったく現さないが、
「あと!隠れてるの!いい加減出てきなさい!バレバレよ!」
「おや?気付けますか」
「舐めないで欲しいわね、藺」
山羊波は初対面となるその異形。
何もないところから現れる緑色の煙。それが本体だと知った時は意外だという表情は作った。何かがいるとは気付いていたが、人外だったとは……。
『気配が漏れてたか?』
「そうでしょ?」
「それしかないでしょ。自惚れ馬鹿?」
「ああ。だろうな」
「あの、なんていうか……気分悪い体温がするのであたしの方には近寄らないでください。読む集中力が減ります」
メンバー全員が本当に仲間意識の欠片もない痛烈な批判ばかりをする。メテオ・ホールも復活したというのにその喜びは誰にも感じない。
ある意味でメンバーが全員、揃ったという状況だ。
「じゃあ、メンバーが揃ったところです。そろそろ決めませんか?」
仲間という枠は誰一人もいなそうな感じである。
「何を決めるのよ?」
「リーダーはお前だろ?藺」
「そーです。でも、その他にもあるでしょう?」
最後の林檎を食べてから発表する、藺にとって大事で他にとっては曖昧なもの。
「私達の"国"の名です。これから造り上げるのに名前もなかったらしっくりこないでしょ?」
おーー、あーー。
そんな感じのテンションで藺の提案を聞き入るメンバー。
「ハーレム帝国でいいんじゃね?」
「王く~ん。私はそーゆう国を作る気は毛頭ありません。とても普通ですね」
1番手はこーいったことにやる気なさそうな王が、本当にテキトーかつスタンダードな回答をしてから始まった。
「じゃあじゃあ、レモンちゃんのお伽で夢の国で良いと思います」
「あ、可愛いですね。大人になったら幻滅しますよ、きっと。それも止めましょうね~」
『そんなの酸素で良いだろ。お前等、酸素がなければ生きられないんだから』
「酸素だけで生きてたら苦労しませんよ。実は酸素って猛毒ですから、気をつけてくださいね?」
ダメだこいつ等。
良い姓名判断ができる人材でも雇っておけば良かったですね。とても重要なのに。
「どーです?山羊波さんは?こーゆうの得意じゃないですか?」
「う~~ん」
異世界の支配者であったからこそ。こーいった経験が確かにあるはずだ。
ちょっと期待してのことだった。
「山羊波春狩様と下僕共」
「あんたの国じゃねぇーんだよ。みんな、ダメですね!もう私が決めます!」
っていうか、お前の頭じゃきっと決まっていただろ?
藺以外の人間にはそれが分かっていた。だから、テキトーに言っていたとも言える。良い渋る癖が悪い。
「これから私達、メンバーのことは"占有"と名付けます。良いですか?占有という国を造りますからね」
占有。
藺曰く、占めた物を有りがたく使うという意味が込められた名。
"せん"という読みが入るので、少しだけ好戦的な雰囲気があるため本人はあまり納得がいかなかったが、自分の目的を現すのにはやっぱりこれしかなかったとか。"ゆう"もあまり好きじゃない。仲間意識を目的としているわけじゃない。
以後、占有の奮闘劇が始まるのは言うまでもない……。




