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RELIS  作者: 孤独
女性編
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幸福理論

謡歌はアレクと、恩師のヒュールの凄さを実感した。

アメジリカの発展に貢献している理由には2人の政策を知っているからだ。

労働を与え、生活を与え、異世界の根本を着実に太らせる。

労働が安定し、土地の扱い方がより高まり、食料の配給はもちろん個人個人が家を備えられるほどにまで急成長を遂げた。



みんなで生き抜けるという環境の確立。謡歌が成せた所業は確かな物だろう。



「くぅ~~……」


そんな謡歌は2日ぶりに睡眠をとった。

よく体がもったと、同伴していた水羽は感じた。謡歌には悪いが水羽はそれなりの休息をちゃんととっていたのだった。


「すごいなぁ、謡歌」


頭を撫でてあげ、謡歌を守るようにしている水羽。

今まで戦いしか知らない者達が労働を知り、生き抜く術を知った。奪い合うという過程を払ったのは謡歌の最大の貢献であろう。

そして、2人の前に現れたというか



「……天井裏に張り付いてないで降りてきたらどうです?先生……」

「いかんなぁ。私は修行中なんだぞ」



水羽が謡歌に同伴している状況であったが、2人を遠くから監視している目があった。それはアメジリカの現支配者である、朱里咲であるのは当然か。


「私も随分と足を止められる。しかし、悪くはないかもしれんな」

「先生は素直じゃない?」

「性に合っていないと、述べるかな」


朱里咲も、今は支配者をやっているが本職は戦士。戦いの中で生きることを美徳にしている。

戦い以外のことを任せられる存在が現れたことは、朱里咲に掛かっていた負担が和らいだのは事実だ。ただ、支配者が自分ではなくなりかけることで不安もある。嫌な感じがするのは事実だ。



「今まで上手くいってなかったじゃなく、何もしなかったんだね。僕達は奪い合って、それを自分のためだけに使っていて……。全部奪っても扱えなかった、って謡歌にしたら酷いことだって」

「食べられる物と食べられない物の区別ぐらいしかしなかったしな。美容とか、エステとか、道場とか、そんなことを中心にしていたし」

「なんでヨーグルトを食べてるんですか?欲しいですよ」



朱里咲は小さな瓶に詰められた飲めるよう加工されたヨーグルトを頂いていた。スプーンは使わずとも食べられるようになっているのだが、どうしても瓶の底などについたヨーグルトは食べられない。


「食べられる物は食べてしまえ」


瓶に付き、とれないヨーグルトの欠片のようなもの。


「そんなことをよく言っていたよな、私」

「あ、その一発芸は止めた方が……」


朱里咲は大胆かつ、ワイルドな口でヨーグルトが入った瓶を口へ押し込む。良い子のみんなは真似しちゃいけない。

ガラスで出来た瓶。それを平然と噛み砕いて、バリバリと粉々にして喉の奥へと押し込んでいく。水羽もこの程度の力技ならできるが、やりたくはない。ガラスの味はとっても悪いし、栄養にもなりやしない。



「こんな芸当も使わず、覚えることもしなくていいのか?」

「やるのは朱里咲先生だけですよ」




粉々に砕いて、飲み込んだガラスが再び喉を通って朱里咲の口に入る。



「ふぅ~~」


塵に等しい粉。光の反射で美しい輝きを見せながら、床へと積もっていく。

その積もり方は雪のようなただ舞い降りる物ではなく、まるで計算された家作りのように組み込まれていく。

朱里咲の歯で砕かれた瓶が元通りになろうと、組み立てられていく。



「はぁ~~。こんな感じだな」


全ての粉を吹き出した朱里咲。終わってみれば、瓶は元通りに組み立てられた。そして、本来ならば手にとれば崩れる状態なはずにも関わらず、朱里咲はあっさりと掴んで元通りにする。

瓶についていたヨーグルトは綺麗サッパリなく、朱里咲の胃に入っていった。


「"軍神"を極めればこーいう技術もできるのだ」

「誰もしないって」

「なんだ、面白くない……」



味方だからこそ、警戒心は薄いのだろう。

殺意とも違っているか。警戒感を剥き出しにしていても、水羽は手を出さなかった。


「今の内は良いと思うが、注意するんだぞ水羽」

「……そこまでする?」

「私もやや毒されたが。毒というのは厄介で気付いた時に毒にやられるものだ」


水羽がいるからこそ、改革が上手くいった。悪い方向に転がればきっと始末していた。しかし、良い方向に行き過ぎた結果もまた恐ろしいのだ。

その点の判断がどうしても水羽だけでは不安なのだ。朱里咲が独に走り過ぎていると、今からもう言われるかもしれない。


「みんながさ、なんか楽しくやっている感じだよね?」

「暴の理論だな」



水羽にとっては久しぶりに感じた。こーして、先生である朱里咲と1対1で話し合うこと。

ただ、2人の会話のほとんどが戦闘話ばかり。一瞬一瞬の攻防における選択とか、戦場の状況判断の確認とか。戦うこそが2人の道だったはずだ。それが今日は初めてだと朱里咲は感じたのだ。



「謡歌のおかげで僕も色々勉強ができるようになったんだ」



ヤメロ。



「今、色んな異世界と勝手に繫がっちゃう状況でしょ?これからどんな敵と出会うとかも楽しみだったけど。今は、その異世界の人に会いたい気持ちもあるな」



ヤメロ。ヤメロ。



「謡歌のおかげで、いろんなことに価値があるって分かった。もう少しだけ早く、あいつと会いたかったなぁ」



ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。



「世界がこんなに静かに平和でも。楽しかったり、凄い奴が傍にいるからかな?悪くないって……」


ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。

ヤメロ!!水羽!!



「?先生?……怖い顔になっているけど」

「!そうか?」


どうしてか幸せそうな顔を作っている水羽に殺意が湧きそうだった。

隣に座ったとき、一瞬だが感じて。今は分かった。

水羽はもう別人だ。


そんな冷たい決め付けをしてしまう朱里咲の、幸福理論。



「気のせいだ」


自分自身にもそう言い聞かせる。どうして、こんな気持ちになるのか?

水羽が謡歌にとられたから?変化することが怖くなったから?

違うな。

そして、私はやはり水羽や謡歌では変わる事ができない。仲間という者で心が潤ったり、鎮めることができない。そうだ。自分の心は自分に向けられる敵意とその力に揺れ動き、熱くもなり、冷たくもなる。



「本当に気をつけろよ」

「分かってるよ」



その、"本当に"は自分自身にも言っている気がする。


朱里咲はこの場をゆっくりと冷静になって離れていった。



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