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RELIS  作者: 孤独
女性編
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武力とは最後の手段

謡歌は水羽を連れながらアメジリカを回っていった。知識も地理も、まだ2週間ではそこまで細かく把握できていないが、アメジリカの仕組みについては教育を伝える手段から知る事ができた。



「こんなところに来たいなんて変わり者だね。謡歌」

「水羽ちゃんはもっと学ぶべき事があると思います!」

「僕、謡歌の面倒を見ることを担当されているんだけど?」

「そーであっても。水羽ちゃんにその能力があるとは思えないからです!」

「うっ……辛口」



謡歌がなぜここまで水羽に対して言葉を使ったか。

一番の理由はなんかこう。水羽が華のようにスッと死んでしまうような幻覚が見えたからだった。

え?よく分からない?……じゃあ。



「水羽ちゃん!あなた、戦うことしか勉強していないでしょう!」

「また嫌な事を、取り得はそれくらいしかなかったんだよ!」

「それだけじゃダメです!もっと戦うにしても、知ってからやるべきなのです!水羽ちゃん、人の戦いは決して終わらないですが、終わるものなんです!」

「?」



謡歌はほっとけないだろうし、ライラやロイ、アレク、春藍などとは違う場所に立って戦っている水羽が心配で仕方がなかった。

きっと暴れたいから暴れるだけの、人間だけど獣と表現するべき存在。



「そもそも、水羽ちゃんはどうして戦うんです?」

「それは管理人がいなくなって、アメジリカだけじゃ運営は難しいからね。先生が言っていたけど、侵略して領地や人材や食料、物資を奪うことだよね!」


ハズレじゃないが、朱里咲の意見を言っただけ。

記憶力が多少あることに謡歌はちょっとムッとして、躊躇を出したが。問題形式で水羽を訴えていく。



「では領地はどこまであると思うの!?食べ物は奪っていくだけなの!?広がった土地はどう扱うべきか分かっている!?」

「ちょっちょっ……いきなり3つ!?もーぅ」


水羽は頭が痛いポーズをとりながら、問題について考えていく……。


「うーん……」

「むーぅ……」


時間が経っていくほど謡歌の両頬は脹れ始め、水羽は表情がどんどんと苦そうになっていく。考えた事がなかった問いにぶつかると、何を言えばいいか?

言葉って難しいな。



「分からないけど、僕は戦えるだけでさー」

「それじゃあダメなの!水羽ちゃん!」



なんだろうか。

謡歌は若干としか感じられない。それは"彼"と直接ではなく、間接的に知ったからに過ぎなかった。

自分に降りかかった不幸な経験、恐怖を。まだ自分とさほど変わらない年頃で戦争を望んでいるような人と出会ったからこそ、強く伝えたかったのだ。

"彼"は間違っていた。故に死んでいったのだ。



「生きることは戦争じゃないんです!」

「そ、そうなのか?」

「奪い合っているだけでは何も解決されないんです。確かに手段としてはありえるやり方ですよ。侵略というのはそうです」



侵略なんて言葉を知っている感じの言い方だと、我ながら思う謡歌。

常時平和と勉学、真面目な勤労ばかりがあるフォーワールドでは、戦争とは失ったことしかなかったからだ。


「手に入れた土地を大切に耕せば農地に!その土地に住居を建てることもできます!人が生きるために土地は有効に使わなければならないのです!手に入れた物は大切に考えて、扱わなければいけません!」



フォーワールドの敷地面積は聞いた話によるともうキツキツらしい。

なにせ、その民衆だけでなく、タドマール、インターシグナルなどの人民を受け入れており、住居も仕事も、とにかく土地も足りていない状況なのだ。水羽達は相当恵まれている。



「コロネパンが大好きな水羽ちゃん!小麦畑や新しいパン工場ができたらどうします!?」

「そ、それは……とっても行きたいです……」

「でしょ!?水羽ちゃんが酷いことをするのはもう目を瞑ります。ですが、水羽ちゃんが手に入れた物はちゃんと清算しなければいけないのです。じゃないと、あんまりですよ!」



口の五月蝿いおばさんとはこーゆうのを言うのだろうか?同年代なので、おばさんは違うけど。こんな友人と初めて出会った水羽だった。


「アメジリカをより発展させるのではなく、安全と安心に考えるならば侵略よりも内部の補強です!」

「え?」

「水羽ちゃんの言う敵というのはきっと、命しか分からないと思いますが……。異世界の整備というのは大変なのです!」



家を建てるにしろ、その土地が住居に適しているかどうかもある。

また、いくら侵略が上手くいったとしても、敵というのは外から来るとも限らない。フォーワールドには法というのがあり、しっかりと住民が守ることで治安と平和を確固たるものとしていた。

一方で、このアメジリカは女性の国。男性なんて獣以下の存在。男性として生まれたり、その性だけでこの世界では不幸が決められている。

凄まじい上下関係があり、治安や真っ当な関係は築けていない。水羽はそれが日常だと思っているから、謡歌の言葉が嘘にしか思えなかった。


女性同士の本気の喧嘩や、家畜=男性への暴言、暴力。死への追い込み。

ハッキリ結論と述べるなら、自分中心の周り方。自分の死が世界の死と思い上がった理想。


そんな血の流れがアメジリカにとっては残酷ながら普通だった。



「世界の作り方でしょ?」

「!……水羽ちゃん!どうして何も思わなかったんです!?」

「?」


異世界に文化がある。それは異世界との交流を知る謡歌だ。

重々理解している。自分が、この世界は間違っていると、ここで宣言しても誰も信じてくれないだろう。だって常識は今作られるのではなく、生きてきた者達の環境の中に存在する。

正義という律儀かつ曖昧な意味に心を燃やしたわけではない。

謡歌の気持ちは教育という大切な人のアルゴリズムの強化。ならびに平和と安心、命の大切さを伝えたいこと。

教育者らしい発想が強く心を動かした。


水羽のような戦うことだけしか知らない人間。戦うことをただ一つとして、世界を見て欲しかった。



「水羽ちゃん!私の授業を受けてください!」

「え?」

「水羽ちゃんがこのまま進めば、きっと世界に良くないことが起こります!」



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