管理人の対応
ライラ達に黒リリスの一団が数名。
ライラ達は明らかに偶然だろうが、黒リリスの一団は自在に移動する事ができるようだ。
あまり舐めないでもらいたいがね。
黒縁眼鏡をあげて、椅子に座りながら大画面で"ポリス"がやられる映像を確認する。余裕があるように、ハーブの匂いがする香水を体に吹きかけて
「ポンコツ二名を呼ぶほどかな?」
少し前に桂から伝令が入っていたため、ゴールゥンの"管理人"、ウェックルスは伝令の指示通りの事をしたが、双方を捕らえる事はとても有益な事だった。
この世界は"管理人"がウェックルスのみ。
だが、この大帝国のような世界をただ1人で支配できる力を持っていると考えるなら、相当な実力者である。番号がやや高くても、その戦闘力や管理人としての実力は関係ないを示すようなものがあった。
ウェックルス
管理人ナンバー:187
スタイル:科学
スタイル名:ポリス
機械仕掛けのロボット型の科学。
大量に生産されており、なおかつ決められたプログラミングを正確に実行する。銃器に長けており、統率面でも高い精度を持つ。ウェックルスの科学ではあるが、彼の意思や状態に関わらず動作する"自動のみ"で動く科学。
「少しだけ数は減ったが、まぁ良いだろう。ポリスはいくらでも作れるし、いくら作っても、全然疲れない。ライラの魔術、リアの科学、インティの超人。どの力も恐ろしいが、どの力にも限りがある。この"ポリス"は無限だぞ」
世界を1人で任されている"管理人"は極めて優秀である事が示される。
それだからこそ、他の管理人が関わる事がなく、この世界のように"音楽ができなくては生きる事ができない"という、自由のようで自由のない世界の環境を作り出せる。
"管理人"とは人を管理するという名目だ。
しっかり管理できれば良い。例えそれが、絶対的に悪という支配であってもだ。支配がなく、人同士が殺し合う事の方が悪ではないかと?訴える事ができるだろう。
ウェックルスは自分が"管理人"である事を理解している。
だが、自分は支配者のような存在という意志があった。音楽を作り出す世界を任されたのなら、この世界の住民は、音楽に携わるべきなのだ。それこそが音楽の発展と貢献に繋がる。
◇ ◇
オチこぼれを救済するような環境が無くなれば、人は命を懸けて物事に取り組める。逃げに走らない。この世界は音楽しかないと植えつける。音楽こそが力であり、強さというのを教える。
暴力も良いだろう。
だが、それよりも最も心に残るのは"自分以外の人間の末路"であろう。隣に臭みがあり、髪にカビが生えて、顔もズタボロ、何かを食べる日が決まっていない、女も抱けない、酒も飲めない、金もない、声も出ない、心臓を掴む日々。そんなのが見え隠れしたり、流されたりする世界だ。
「ううぅぅぅっ」
「もうええやん」
どこで拾ったのか、聞いたのか、読んだのかは忘れてしまったが、そーゆう物語だった気がする。
夢を追った者は数多くいた。誰もが成りたい夢を抱いた。成りたい夢が同じだった時、僕達は仲間なんだ。あたし達は仲間なんだって、思えて隣同士に座っていただろう。
仲間……………………。
涙と笑顔を一緒に共にした。苦しみも不安も味わって、仲間だったけれど、自分達の向かう先はライバルでもあった。仲間と呼んで、ライバル。
いつしか仲間だった者が、大粒の悔しい涙を流しながら夢を辞めたり、自分よりもただ売れるよう、もちろん。強くなろうとした。助け合いというの名の、努力の応酬が続いた。
成りたい、成った夢にはその夢を奪ってしまう。残酷な夢が他人に起きてしまうのが、夢の罪。
ピィロロロロロロ
「あー、またか」
「始まった…………」
この世界はとても辛い。音楽も美術も、文章も、……おそらく、勉強も運動もそうだろう。分野の逸材が現れるまで、性懲りも無く。才能というのを持ち合わせていない、"本当に努力"をした事しかない連中しか来ない。プライドと無駄な努力、間違った知識と感性が取り得。
一日に何千、何万件と来るんだよ?
お前等。本気でソレで目指すのか?
「これもダメだろ!!」
「ああぁぁぁ、もう辞めてぇぇ!!」
砂漠の砂を探って、金を掘り当てるような仕事がある。
夢を求めたい、生きたい。それは大いに結構だろう。だが、現実ってのは甘くはない。
砂を掘っても、掘っても砂しか見えない。一瞬、取りこぼしているかもしれないと、掘った砂を見る時間があったのは最初だけ。今はただ掘って掘って。1円くらい、2円くらいのお金になりそうお金を見つけて、本社にいる中堅アドバイザーに伝えて送る。
こんな作業を繰り返す。
砂がどんどんと空から落ちてくるのだから、終わりが無い。
そして、昔。
こうして砂を掘っている連中の事を嘲笑っていて、俺達は砂だった事を思い出すと胸が痛い。
良い中二センスをしていたもんだ。上せ過ぎていたな。
精神的に辛いよ。こーなって来ると、俺の人生は失敗しかなかったと押し潰される。
成功や笑顔、嬉し涙ってのはあったと写真や人の記憶にあっても、自分の体験は失敗が多いと身が実感している。
「何で俺はこんなところにいるんだ………」
まだ素人と呼ばれる者達を、一次審査として送られてくる曲を聴くだけの簡単な仕事で今を食い繋ぎ、自分の夢も追おうとしている連中。
だが、それらに着いた以上。彼等はこれ以上の選択肢はもうない。いつの間にか、社会に慣れて抱いていた夢に恥ずかしさを覚え、歩みを止めていた。
敗者の数は1000人に積もって、たった1人の勝者を作り出す。それがこの世界の、理不尽過ぎるのが当たり前に映し出していると、たった一つしかない実力社会を現していた。
職があればギリギリ生きられる。
だが、悪い職があまりにも多くて過労死や自殺という顛末を迎える事も多い。その非道な環境が自由と夢を懸けて必死に、音楽に嵌るのだ。
職がなければ、金はもらえず、誰からも見捨てられ、路上を彷徨う。古びて朽ちていく。死体と思われたら"ポリス"に回収される。
ザッッ
「ここまで来れば大丈夫、よね?」
「移動してきた地点から大分離れちゃったよ、ライラ」
「空から見てみましたけど、ぜーーんぶが街って感じですね。凄く迷路になってます」
「とりあえず、どこかで休みたいわね。宿舎があればいいけど、可能性は薄そうね」
春藍達が着陸した場所は街であるが、耀きが少し落ちていた。陽も沈みかけていてやや暗めに彩られている。裏街というか。
「!」
夢と生きるを失った連中の集まった場所。この世界の社会の底辺を映し出している場所。腐っている人間が多い。体的にも内面的にも。
「空から女達が落ちてきたぞ~」
「どーでも良いからよ~。お姉ちゃん達、俺達と一緒に来ね~」
「カラオケなんてどーよ?良い店知ってるぜ~」
「歌い放題、泣き放題のカラオケなんだぜ」
とてもチャラそうな言動と腐っている態度が分かる。
「カラオケってあれよね、歌を歌うとこよね。チヨダのあれとは違って」
「そうだよ。防音になっている部屋にマイクを使って歌うとこ」
珍しくライラにも意味が分からない物があるんだと、春藍とネセリアは暢気に思った。突然と、現れた男達のカラオケへの誘い。
「ふーん、良いわよ。あたし達三人を案内してね」
とても嬉しそうな顔を出して、ライラがYESと言った。少しだけ色香を出しているような仕草をとっていると、春藍には分かった。ライラの答えに男達は三人を取り囲んで、堂々とライラやネセリアに触れながら案内する。
「へっへっへっこっちだよー」
「まー、連れていってくれるなんて優しい(棒)」
「良いカラオケなんだぜー、一緒に歌おうぜお譲ちゃん」
「は、は~。私、音痴ですよ?」
2人の様子に春藍は、自分が変態だとか言われた事が益々分からなくなった。なんでライラは嬉しそうな顔をしているんだろうか?僕には酷い事ばかり言うのに。(いや、お前はもっと酷いだろ?)
春藍はやや後ろになり、男達とライラ、ネセリアが前を歩いて古臭そうなカラオケがある建物に入った。チヨダのガールズバーとは違う黒っぽい感じの雰囲気があった。
ここは○○○ボックスとして有名なお店だった。
カラオケを行う部屋に入ったら、女性達を取り囲んで
ドガアアァッ バギイイィィッ
「すっごい運が良いわ。タダで宿に泊まれるし、お金も入るわ!サイコーに良いわね」
「ラ、ライラ。7人もいた男性を1人で殴って倒すなんて……」
「だってほっといたらこいつ等、私達に何するか分からないでしょ!!外に捨てに行こう」
○○○をするのかと思ったが、逆にライラにボコボコにされた挙句。自分達の全財産を奪われるという末路。最後がそれとはとても哀れである。
「はぁー、ライラの気分が良さそうだったから、心配しちゃったよ」
「?何のこと?」
「ううん。ライラが無事で良かったなーって、感じただけだよ」
春藍はライラのやり方にホッとしたような顔を出した。ノビた男達を窓際に運び、その近くに雲を発生させて雲流しをさせるライラ。カラオケの個室だが非常に広くて、長いソファもあって寝るには悪くない。いざとなれば春藍が机とかをベッドにする事ができるだろう。
部屋の様子を確認するライラ、自分の世界ではあまり見慣れない物が多く、逆に春藍達はこーゆう機材がなんなのか分かっているらしく、逆にライラが質問をしていた。
「?何かしらあれ?上の隅についているレンズの」
「あれはカメラだと思います。監視カメラ」
「カメラ…………って、この状況がどっかに流れてるわけ!?」
「たぶん、そうですけど。そーゆうのは私でもおかしく映るように改造しましょうか?」
「お、お願い!あんなのついてちゃ、ロクに寝れないわ」
ネセリアに頼み込んで監視カメラの封殺。
また、カラオケを始められる機械に触れる様を見て、とてもなんていうか。ライラも経験のない事にはドキドキ感を出しているんだなって、春藍とネセリアは思ってみていた。
曲を選んで流そうとする動作は凄く新鮮な動きだった。
トゥントゥントゥン
「うわぁ!流れたー!これさっきのCDショップで聴いた曲だー!」
「はははははは」
「ふふふ」
「な、何よ」
「ごめん。ライラって可愛い行動もできるんだなーって、思ってさ」
「そーゆうイメージなかったけど、とっても似合うね」
「ば、馬鹿にするような事言わないでよ!」
それから三人は軽く、この世界のカラオケというのを味わってから就寝した。