水野水羽、登場
"無限牢"の崩壊が生んだのは繫がることのない異世界同士の繫がりだった。
管理人達は異世界同士の交流を極力避けていたのは、人々が交流し会って双方も滅んだという結末を知っているから。
相反する文化と時代を背負っており、決して同じ道を進めるわけがない。
人と人の干渉、交渉では必ず誤差が生まれる。その誤差を消してしっかりとした交渉、管理を行なえたのが管理人だけであった。人はとても人のためにしか動けない。
「異世界とはこの程度か?」
「まったくね、先生!これじゃあ、僕達が最強と旗を掲げてもいいかな!?」
現実、多くの異世界がこの大混乱に巻き込まれ、ほぼ正常に動いていると言えるのは言葉を使った世界でもないし、話し合いが上手い世界でもない。ましてや、その世界だけで生き延びられるところでもない。
世界が保有する"武力"
話し合いなんて言葉が通じ合えなければ意味も成さない。
侵略が容易になってきた世界情勢。どこよりも迅く、強く、奪える物を全て奪ってきた。
その最先端を行っていたのはこの異世界だった。
「"軍神"が、……血が足らぬと言っている」
"禁制領域"アメジリカ。
その異世界の支配者であり、全ての戦士の頂点に君臨する女性。
慈 朱里咲
スタイル:超人
スタイル名:軍神
スタイル詳細:
あらゆる存在を武器として扱うことができる能力。
「軟弱!貧弱!ひゃははは!少しは本気にさせる奴はいないの~~!?」
水野 水羽
スタイル:超人
スタイル名:死屍姫
スタイル詳細:
不死身に近い身体能力と凶悪な性格を内に秘める二重人格。
異世界を代表する圧倒的な戦士を2人が所属している異世界。
"禁制領域"アメジリカ。
ロイとアルルエラの異世界、タドマールと似ており"超人"ばかりの異世界。また、変わっているところとして……
「朱里咲様!異世界の制圧が終わりました!」
「これより男共の排除を行ないます!」
禁制と呼ばれるだけあって、……
「女性達の保護は完了致しました」
「手に入れた土地や特産物を調査しています。労働環境がより良くなると思われますわ」
この異世界は女性しか生きる事ができない社会作りとなっている。
男は家畜。馬のような扱い。女を心地よくさせるだけの命だとしか扱っていない。男は奴隷。女は気高き生き物。
この異世界は明らかに女の方が圧倒的に強い。
「ん?」
丁度、手中に収めた異世界は男が戦士として働いていた異世界。戦うことに関しては相当なレベルがあったはずだ。
支配者である、朱里咲に銃口が向けられる。
「な、なめやがって。まだ俺達の世界は終わっていない。女ごときに負けてたまるか」
その距離、400m以上。茂みに隠れ、特注のライフルで彼女の額を狙っていた。男には狙撃の腕と能力が確かに備わっていた。
「死ねぇぇっ!」
弾丸が発射された時、気付いたのは朱里咲の側近の水羽だった。
「先生!狙われてる!」
水羽は若いながらその戦績はすでに1万を越すほどであり、直感は鋭い。遠く離れたところから現れた、こちらに向けられた殺意に勘付いた。
しかし、朱里咲は溜め息をついた。
「私が気付かぬほど老いたと見えるのか?水羽よ」
飛んできた弾丸に目すら向けず、朱里咲は左手でデコピンの形を作った。
「"軍神"相手に武器で挑むとは愚かだ」
パァァァンッ
弾き返した弾丸は一直線でスナイパーの男の額へと突き刺さった。放たれた以上の速度であった。
「先生……。心臓に悪いぞ」
「修行不足だな、水羽。近頃、なまっちょろい相手ばかりして慢心しているんじゃないか?」
「そんなわけないって」
"超人"となっている女性は多くいるが、その中でも本当に抜きん出ている2人。異世界の制圧の大半はこの師弟が中心となっていた。
どうやらまだ抵抗してくる男達がいるようだった。諦めの悪さは嫌いじゃない。それに戦って殺してやった方が、
「楽しすぎるってーの」
今度は水羽が抵抗する者達の戦地へと現れた。その絶対的な戦闘能力は師である朱里咲にも劣らないものであった。
まだ何千人と彼女達に歯向かう者達はいた。そこには男もいるし、女もいた。自分の世界が無くなるという現実に抗いたいからだ。
「ひとーーーつ!!僕は、男は殺す主義だ!!ふたーーーつ!女と子供は抵抗しなければ生かす!!」
水羽の予告は自分がこの場負けないからという自負から来ている。
「みっーーーつ!!10秒以内で決めろ!1,2,3,4,5,6,7,8,9」
カウントダウンを始める。その最中に多くの敵が水羽に襲い掛かった。プライドを賭け、命と世界を守るための攻勢であった。しかし、水羽には一つも届かない。軽やかに全ての攻撃を避け、カウントダウンを叫び続ける。
数が大きくなる内にプライドをへし折る恐怖は来る。
「10!」
死ねぇっ
殺意のみで弱い戦士は意識を失う。立っていられない、戦う意志が崩れ去る。
水羽の拳は人間の体を軽々と打ち砕くのではなく、破っていくのだ。
「あひゃははははは!?雑魚雑魚雑魚!」
彼女の手に捕まれば一瞬で消滅する。振り下ろされる腕に触れれば剣よりも鋭く切れる。女性ながら怪物の域に達している力。
また殺害手段は四肢だけにあらず。大きく開けた口が相手の鼻を噛み砕く。
グジャアァァッ
「あへへへ。マズっ」
ロイのように型が存在する戦い方ではない。先生である朱里咲も、水羽には技を教えていない。彼女の戦い方は我のみ。しかし、セオリーが存在しない戦い方だからこそ無類の強さと予測できない行動力を発揮する。
宣言をして、それでも水羽は女性と子供は殺さなかった。彼女達が屈するまで男達を殺害し続けた。
「僕達、そーゆう人間関係なんだ」
女性だけしか生きられない。
「生き残った男達は労働力として働いてもらおう。力だけはあるからな」
「戦場は女の仕事でしょ~~」
「水羽の戦い方は女性としては品がなさ過ぎるがな」
異質な文化。そんな異世界が侵略を続けているところに落ちてきた一人の命。
「ううっ………」
なぜ自分がこんなところにやってこれたのか。意識を取り戻してからも思い出せなかった。
「ここは……」
春藍謡歌の冒険が始まった。