ライラ VS レモン
王は春藍と夜弧が茶番をしている間に高速で戦況を見据える。
藺は山羊波となんかの勝負。レモンは外で敵3人と戦っている。俺はこの2人相手に勝てる見込みがない。
こいつ等の狙いは不明だが、山羊波の名を口にした。同じ目的であればこの先に行かせるわけではない。
ライラとレモンの戦いは建物の中からでは音しか伝わらないが、双方が未だに激しい攻防を続けているのは事実。
どちらが優勢かは王には分からない。
「ふぅー……ふぅー……」
土砂降りに当てられながら、建物の路地に隠れているレモン。
もう大空はライラの雲が一面を覆っていた。完全に姿を逃した。いくら言葉を武器に、上空へ放ったとしても当てようがない。
すでに一方的にライラの攻撃がレモンへと集中している。
「空から攻撃を決める相手がいるなんて、初めて。どうすればいいのよ」
地上にいれば文字を大地に隠して使い、いくらでも戦い方があった。
雲の上に隠れるライラから勝てる方法がすでになかった。言葉が届く距離にライラがいてくれない。
土砂降りに加え、稲妻も、強風も、レモンを苦しめているのは事実。
「でも、引き下がるわけにはいかない」
空を見上げながら、ライラと戦う決心をしている。見えない敵をどうやって
トントンッ
「?」
後ろから肩を叩かれた感覚。ゆっくりとレモンが振り返ると、容赦なくレモンの顎を突き上げる一打が決まった
レモンの体が宙へとフワリと浮いてライラは、レモンが地面に触れる前に自らの雲を下に作り出す。とても柔らかい雲に乗っかったレモンは無事。今のところ。
「!いやっ」
レモンを乗せた雲は一気に広がりながら急上昇。降りるという選択肢を完全に奪って、上空に浮かず雲まで突き上げさせる。
「っ……ちょっと……」
雲の上に足がつく。天国という場所に近い。なのに震えるレモンの手足。絶対に良い事なんておきない。完全に"オペラ・クルセイダース"の射程外。
自分に格闘能力がないことを見抜かれ、絶対に勝てる陣地に引き込まれた。
「やっほー?気分どう?最悪かしら~~?」
ライラの笑顔が眩しく、怖い。
「若い子を殴るのは少しだけね」
「え?」
「スカッとすんの!」
"ピサロ"のみならず、格闘能力もかなりの能力を持つライラ。レモンとの戦闘を一頻りやり、感じたことはかつて管理人であった粕珠と類似しているということ。言葉を具現化し、なおかつ広範囲に適用される能力。
設置するタイプか、条件や制約が掛かるタイプのどちらかと判断がつく。
ライラはレモンから大地を奪えば勝てるとわずかな判断で察知した。
ベギイィッ
「うぁっ、ああっ」
「悪いわね。胸骨と喉は潰させてもらうわよ」
残酷で冷静に、レモンが助かる手段を潰す。
「じゃ!一発だけいくよ」
「!」
泣いているレモンに向けて放つ、全力のストレート。
顔面が歪み、後方へ吹っ飛んで何回もバウンドして止まった。上げる声も喉がやられて、上手く発生できない。言葉が作れない。
「あんたみたいな小さい実力者を見ると、手加減と油断ができないわ」
殺される。
レモンも世界を知った。とても小さき世界に自分が住んでいたと知る。藺に誘拐され、外の世界を知るという中途半端な目的。
「あぁ、ぁっ……」
「?」
生きたい。
死にたくない。色々な存在がまだ多くいることを、ライラが可能性を見出してくれたこと。話が通じる相手かどうか分からない。けれども、レモンは自分の保身と自分に生まれた希望に
「だ、だずげて………ゆるじ、で……」
深々と雲の上で頭を下げ、降伏を宣言してしまった。
自分が生き残ることを優先に考え、その上で自分をもっと高めたい気持ちでの降伏。恥を得てでも生きなければならない。
まだ自分は自分自身も知らない身なのだから。
ライラとレモンの決闘が片付いて少し経った頃。王は、この場の撤退を考え始めた頃合だった。
勝ち目がまずなかった。これほど自分達と相手に差があるとは思ってもみなかった。先手を打って火傷するとは恥ずかしい。
春藍と夜弧が茶番をしている隙に脱出しようと思ったが、
「は~る~あ~いー。まだ片付かなかったの?夜弧も!」
ライラが気絶させたレモンを抱えて、出入り口を塞いでいた。
「ライラ!無事だったの!?」
「私が小娘如きに負けると思う?経験値の差が違い過ぎるわ!危ない能力だから本体を気絶させといた」
完全な挟み撃ちを喰らい、さらにはレモンを人質にとられた王。
「子供の話すことより、大人なあんたの意見を訊きたいわね」
「ちっ」
「言っておくけど、我慢しても向こうにいる夜弧には相手の記憶を読み取れる能力がある。あんたの負けは確かよ」
絶対絶命であるのは事実だった。