護衛の主義
「!あれ?」
「あの男は……」
春藍と夜弧には見覚えある男がいた。王震源だ。藺は奥まで行ってしまい、春藍達には見えなかった。自分達の突入以外で何かが起きていると、2人は分かっていた。
「ちょっと、交渉に来たんですけど」
こんな人間関係がズタズタそうな異世界でまともな交渉ができるとは思っていない。ライラが半ば実力行使で来たのは彼女なりの正義であった。
一歩、踏み込んだとき。王とレモン。それから、山羊波の護衛4人が動き出した。
「歩けるのはそこまでだ」
「あら?」
「山羊波様が1人の男と賭けをする。今日はそーいった日だ。邪魔をするのであれば滅するぞ」
護衛の任は山羊波を護ることが最優先であった。王もレモンも、それには同意に近い。しかし、2人の場合はやや違っている。
危険人物を藺から離すという考え。相手が如何なるものだろうと、
「"オペラ・クルセイダース"、発動」
先手を打ち、敵を骸にする。レモンが一気にライラ達を襲撃しようと企てていた。曰くつきの科学を一気に使って、ケリをつけようと狙っていた。
大きく口を開けて、その声から発するの
「あはババアばばばあばばばあばあばばあぁぁぁぁ!!!!」
なんの呪文だ!?と、誰もが驚きレモンを見てしまった。しかし、その呪文の意味はすぐに分かる。声から出た言葉が具現化され、弾にしては大きすぎる文字の弾丸となってライラ達に放たれた。
「なになになに!?」
「捕まりなさい、謡歌ちゃん!」
文字の弾丸を5人が緊急に回避し、外へと飛び出した。確認した後でレモンは王に伝言を飛ばした。
「王!私があの5人を相手にします!」
「5人相手、やれるのか?」
「あの程度なら私1人で十分です。万が一、中に入ってきたら対応を願います」
レモンは強く地面を叩いた。この異世界に侵攻して4日。大地に自分の文字を埋め込んでおり、その巨大さは凄まじい物だった。
「住民合唱曲」
レモンの文字は周囲から発生する言葉を蓄える。人間の声はもちろん、歩いたときに生じる音などでさえ、言葉と読み取ってしまう。
つまり、
ズズズズズズズズッ
「な、なんか揺れてないか?」
「そうだな」
何かに気付いた時、言葉が出る。当たり前だ。住民達が異変に気が付き、声を出す。すれば、自分達の足元から現われて来る巨大な言葉の具現化。
『な、なんか揺れてないか?』
『そうだな』
地面を押し上げて、言葉を出した者突き上げさせる。
「うわあぁぁぁーーー」
「きゃああぁぁっ」
叫べばさらに大きな言葉が具現化された悪化。この異世界全体が大混乱を起こすのは間違いない能力。
「な、なんなの?すごくビックリした」
「全員、無事ですよね?」
ライラ達は幸いにも、雲の上にいた。"ピサロ"で緊急回避したことがさらなる被害を防いだ。空から見れば文字が人々を襲い、とんでもない絵図となっているが空中で出す声はどうやら適応されないようだ。
「あれ?お兄ちゃんがいない」
「嘘!?まさか、あいつ落としちゃったかな!?」
「ちょっと何してるのよ、ライラ」
不安になる4人であるが、それは違っていた。レモンが外に飛び出しところを気に王は隠れてやり過ごした春藍の方へと歩いていった。
「なかなか良い避け方だが、隠れた方がイマイチだ。机の下から出てこい」
「…………ライラ達にも気付かれなかったから、上手く行ったかなって思ったのにな」
「ど三流。気配が丸分かりだ。レモンは気付かなかったようだけどな。本業には通じねぇよ」
春藍と王がゆらりとした振る舞いながら、向かい合った。穏便な話し合いができそうもない。いきなり、向こうから喧嘩を売ってきた。
ウィィィンッ
「あ!?」
春藍の右腕が変型する。
「まだ試作中だけれどあなたほどの"超人"との相手なら、ちゃんと調べられる。リアのことをね」
右腕が機関銃に早変わる。同時に天井に向けて発射する。完全な弾薬の無駄遣いであるが、この音だけで伝わるだろう。
「!まだ春藍が中にいるみたい!」
「銃声ですよ!?春藍くんの武器じゃないですよ!」
「あいつ!体の中にリアの、"機械運命"を埋め込んでるからそーゆうことができるようになったの!」
ライラはキングカジノから出てきたレモンを視認した。
単純な引き算をすると、春藍は5人の相手となる。確かに強くなったけど、調子に乗りすぎるのは危ない。かといって、私がいないとあの文字使いの攻撃を避けるのは至難。
「夜弧!春藍の応援、任せていい!?」
「うん!」
「アルルエラさんは謡歌の護衛をお願い!」
「承知!」
地上から放たれる言葉の弾丸の数々。ライラはレモンを仕留めるため。
一方で春藍は内臓した、"機械運命"で王との対戦。
「なんだか騒がしいですが、賭け事を始めましょうか」
「宜しい」
藺兆紗は山羊波春狩ととある賭けをする。