前途多難
「おーっと」
5人は無事、目的地の異世界に辿り着いた。若が一度だけ行ったことがあるらしく、安全な場所にマークを入れておいてくれたらしい。
辿り着いた場所は街中の公園であった。その公園からでも人の声と、酷い騒音はかなりのものだった。
「そ、騒々しいわね」
「でも、言葉が理解できます」
「僕にも分かるからフォーワールドと似ている言語なのかな?」
否。
この異世界は多種多様な人間が行き来しており、複数の言語を学ぶことは必修とされていた。また、"文学楽園"インターシグナルから色々な言語を取り入れている。
イカサマを扱うのに言葉というのは非常に使いやすい。
春藍達が理解できるのはたまたま、標準語がフォーワールドと同じなだけであって影では色々な言葉を使うのである。
「言葉がみんな通じるなら楽なものね。全員で逸れないように情報収集しましょうか」
「おーーっ!」
アルテマ鉱石の採取のための聞き込み活動が始まった。声を掛ければすぐにだが、色んな誘いがやってくる。
「お姉ちゃん達、今晩どう?」
「良いカジノや飲み屋を知っているよ」
「今、可愛い子をバニーガールとして募集中なんだけどー」
ロクな情報はとれない。来る誘い来る誘い。
「お断りよ!」
女性4人が揃って断固拒否する。道のりは結構通そうな予感をしながら、安心できそうなホテルに入ってもう1日を終えようとする5人であった。
カランカラン
一方で、キングカジノでは波乱が起こっていた。
「持ち金、無くなっちゃいましたね」
藺兆紗が圧倒的な強さでポーカーの勝負師を圧倒。瞬く間に金をぶんどって、軍資金を増やしてしまう。
「あ。ああ……」
「大丈夫。怯えないでください。私はあなたからこれ以上、奪うつもりはありません。また対戦をお願いしますよ」
馬鹿勝ちしてすぐに席を立つ藺。いろんなお客から金を巻き上げた凄腕のポーカーの達人がいとも簡単に抑えられた。
凄まじい勝負師ぶりを発揮する藺に、お客様方も震えていた。
「すご~い……」
「どーやって勝ったんだ?藺は……」
王もレモンも、その手腕。いや、剛運では片付かない勝ち方に気になっていた。ほとんど藺のギリギリの勝利。勝負に行って確実に勝つ。それも、イカサマを感じさせない。2ペアや3ペアなどの小さい役で勝ってしまうやり口。
「ホテルで話しましょう。そこまで秘密はないしょです」
他のギャンブルには目もくれず。藺は勝ったお金を王に預けてホテルへ戻ろうと指示した。レモンも、王も、何もしていない。
「護衛だけしてくれるだけでも違いますよ。この異世界は物騒な方が多いですからね」
「わーってるよ。トランクケースは放さねぇよ」
「早くネタバレを聞きたいって顔ですね」
ホテルに到着し、無造作にベッドへトランクを投げ置く王。レモンも真摯な表情で藺のネタバレを聞きたかった。
そんな2人の表情を見るとどーしてか気まずくなってきた。
「そんなに聞きたいの?お二人共、しょーもないですよ?」
「いいんだよ!あんなに勝ってたポーカーの達人、どーやって勝ちまくったんだよ!」
2人にとても悪い気がする言葉を使う藺。
「女で買収しました。無論、昨日からの仕込みですよ」
パリーーーーーンッ
王とレモンの中で、希望のガラスが壊れたような音と衝撃。
「お金ないんで私の社蓄コレクションにいる女性を1体売って、負けるようにさせました。女性をこう扱えば金になりますから」
「お前、サイテーだな!!」
「期待していた私。馬鹿でした。なんですか、官能小説ですか?」
だから、そんな期待されても困るんですけどね~~~。
「ともかく、私は疲れたので寝てますね。明日もこの調子で軍資金を貯めて、カジノの秘密を暴きましょう。お風呂は朝に入りますから、先使っていいですよ」
両陣営の一日はこうして終わった。先に乗り込んだ藺兆紗達の方が4日ほど先に乗り込んだこと、立派な軍資金を蓄えていること。目的の達成に近いのは藺達の方かも知れない。
しかし、目的の難度ではライラ達の方がいくらか楽であるのは明白だった。
カカカカカカカカ
両陣営共、宿泊先にホテルを選んでいた。さすがにどちらも違うホテルだ。一方でどちらも激しい音に包まれていた。不思議と。
「おやおや、なんだか朝になると人が囲んでいるじゃないですかー」
「昨日、あんな馬鹿勝ちをしたからだろ?逆恨みじゃねぇの?」
「イカサマより性質の悪い、買収行為」
「ふふふっ、イカサマを使うカジノ集団は結構堕ちているところですね。現状、仕方ないですね」
藺達は昨日の馬鹿勝ちの逆恨みか、多くのならず者共が藺のいるホテルを囲んでいる状況だった。
一方で、
「お金がないの!」
「………え?じゃあ、どうやってこの部屋を借りられたんですか?」
ライラ達側はまた別である。こちらもホテルを取り囲まれている。どうやら警察のような集団だった。謡歌は初めての異世界で、こんなに状況に追いやられて不安になっていた。それをケアするようにライラが現状と方法を伝えた。
「それはね、夜弧の"トレパネーション"で店員を洗脳して宿を確保するという荒業だったのよ!」
「ちょっと待ってよライラ。あなたが先に店員を殴り飛ばして、気絶させたが先でしょう!?私はその後!」
お金という定義が怪しくなる方法。
謡歌はこの旅のやり方にとても不安な眼で見ていた。そんな謡歌に優しく肩を叩いて教えてくれる春藍がいてくれた。
「こーいったトラブルは日常だったからね」
「そ、そうなの?お兄ちゃん」
「僕達が使っていた通貨が使えないのが普通だし、この異世界で働くのもライラ達が消極的だったし。してくれればきっとこんなやり取りはなかった」
その言葉を聞いたライラと夜弧が春藍の方を向いて、ぶっちゃける。
「は~る~あ~いー……。あんた、私達に変な奴等とヤレって言いたいわけ?そこまでして金を稼ぎなさいと言いたいわけ!?」
「春藍様はもう少し、女性のことを理解してください!!」
パァンッ パァンッ 。2連打の掌打。床に倒れ込む春藍。相変わらず、ロイと違った天然馬鹿だ。言葉が聞き取れても意味が理解できない頭とはやりにくいものだ。
なんで2人に叩かれたのか分かっていない顔で謡歌を見る。
「ごめん、お兄ちゃん。私も少しライラさん達と同じ意見です」
ホッペを抓って、分かってもらいたかった。
「朝からイチャイチャ会議はそこまでです!みなさん!」
「これは違うわよ、アルルエラさん」
「1人の店員しか洗脳しなかった仇でバレたようです。捕まればタダじゃ済みません。私が代表して道を作りましょうか?」
シャドーボクシングを始めたアルルエラ。タドマールの出身だったことを忘れていた。朝から血の気がある。つーか、戦いたいのかな?
「よしなさい。逃げ切ればいいだけのこと。窓を空けて!あたしの雲で道を作って走り抜ければ余裕だわ」
タダで宿泊、タダで飯を食い……。どこまで持つか不安である。