歳を重ねも、勉強三昧
勉強とは人生の退屈凌ぎ。
そう言われ、己が気付いた時。自分は子供ではないことを自覚し、また大人でもない事を知るだろう。
「この歳になって勉強か」
そう溜め息をもらすおっさんやおばちゃん達。好きでやっているものじゃない。とくに自分達に問題が発生しているわけでもないし。しろと、言われてやる。
義務的なもの。唐突にな……。
「俺達は、俺達の言葉でやっていく術はないのか?」
言葉で心を通わせられた時もあったが、その一手間が発生するだけで関係がわずかに祝勝するのはあった。学ぶには対価が必要だ。その対価が相応しくないと、感じる者はいるものだろう。
「ラフツー殿。まさかこれほどの人々を派遣していただき、感謝致すである」
ヒュールはふかぶかと頭を下げる。語学に通じるラフツー、及びその専門家達を100名ほどフォーワールドに派遣させてくれた。
「商業も成り立つメドは立たなかった。協力するべきだと判断するのは当然です。いずれ、契約どおりに全住民の移住を願います」
ラフツー側にもメリットはある。流通こそまだ無事でいられた、インターシグナルであったが、様々な異変から孤立するという可能性は予想できていた。それに
管理人のクォルヴァがいること、異世界を移動できる若がいること。
数多くの技術を輩出してきた、フォーワールドが移転する異世界だとしたら大分価値はあると判断がつく。
「お、は、よ、う」
謡歌を始めとした人材育成のプロフェッショナルから言語学を学んでいった。彼等は仕事で勉強となればその頭をフル活用する。
彼等が学んでから、多くの住民に教えようというプランである。
謡歌等の学び方は真剣そのものであった。未知の知識とは意欲を増させてくれる。
「会話ができれば少しは繫がりがまともになるだろう」
「ライラやロイ、夜弧とはここ4日ほど喋れてないですよねー」
春藍とアレクも勉強するべき状態なのだが、ライラ達が真っ当に動けないことを気に春藍の体にリアをパーツを埋め込んでいく作業を進めていた。
まだライラ達にその話は完全に伝えていないが、
「俺は両足の改良で良いか?」
「はい。本格的にするのはやっぱりちゃんとライラ達に話してからにします」
時間はそんなにない。危険人物が度々目撃され、なおかつ予想もできないトラブルも来る。
「俺が両足の改造。お前が"創意工夫"の修繕。気分が悪くなったらすぐに手を挙げろよ?」
春藍の両の義足を再び外し、メンテナンスを始めるアレク。そして、春藍も本格的な戦線に入るための"創意工夫"の修繕に入る。流通が少し戻り、欲しかった資源がいくつか入った。
こいつがなければまともな戦闘力を発揮できない春藍。良い意味でライラ達が身動きがとれないことで時間を作れた。
「えーっと、……これが……」
「"こんにちは"です」
頭の優れないロイにとっては言葉の勉強は辛かった。
自分が喋り馴染んだ言葉がどれだけやりやすいかとても理解した。これらの言葉を理解しなければ春藍達との会話ができない。
必死に頑張って覚えるしかない。
「どんなこともですが、最初の一歩が大変です。しかし、言葉は使うたびに自然と覚えていきます。きっと、1週間はあれば真っ当な会話ができると思いますよ?」
ラフツーの見解。上達するには練習しかないが、会話さえ繰り返せば異世界の言葉も手早く理解できるそうだ。
「生活的な会話であれば1週間で覚えられるんだ」
謡歌は何かよくない事を考えただろう。彼女は早くにも、ライラと夜弧、ロイ達の言葉まで分かるほど成長していった。
その成長は協力したいという一心。彼女は、春藍達に付き合うための翻訳者となろうと思っていた。これから行く異世界で分からない言葉があった時、すぐに答える役割となりたい。困っている人を救う存在になりたい。
本当に言語と出会えた時、謡歌は自分の存在意義を強く持てた。
一方で謡歌のように希望を持つ者がいれば、持たない者もいる。
「なんで他人の言葉を覚えなきゃいけねぇーんだ!」
とても今更な話。自分達、友達や仲間。家族ぐらいの会話であるなら必要ないはずだ。
「別にフォーワールドの人間の言葉なんて、理解する必要もないだろ!俺達はタドマールの民だぜ!」
それは逆もしかりだ。
出会うならば必要だ。生きる上で必要なら、……しかし。そこまで関わらなくても生きていける。言葉はそこまで強くないと、感じるのも無理はない。
こいつ等とは話したくない。ここまでの労力をして、話すなんて。対して得もないし。
「それはいけませんね!」
「アルルエラさん!」
教えをもらっているというのにそーいった態度を発見する。アルルエラは勉強中のロイに代わって不躾なことを言った民にお説教を始めた。
「あなた方はまだ平和でいられると思っているのですか?言葉を失い、私達のため、アレクさん達がラフツー殿達を連れて来た。義を果たさなくてどうするのです。タドマールの戦士でしょう?」
「し、しかし。アルルエラさん。俺達、勉強は苦手だ」
「お黙りなさい!苦手だからこそ、鍛錬するのでしょう!?」
一喝。その迫力は民全員に手を下そうとしていた。
「言葉は大切ですよ。とくにこーして、タドマールの民とフォーワールドの民。いずれはインターシグナルの民など。多くの異世界人がやってくるでしょう。不安になっている者を励ますには言葉しかないのではないですか?」
それから言葉の良さを伝える。誰にも扱える見えない人間の発明。
捨てるというのは止めない。言葉を失うことに悲しまないのなら、
「あ、挨拶だけは覚えた方が良いか」
「生活に影響が出ない程度には覚える必要はある」
「1ヶ月くらい、缶詰になって頑張ってやる!」
「ありがとう、アルルエラさん!」