言葉は力に勝てず、力は言葉に逆らえず
アレクの質問からおよそ3時間後になる。
とある異世界の街中で休んでいる藺、王。それから、1人の少女がいた。
「レモンさん。どーですか、この新天地は?」
藺兆紗の質問に対し、終始無言。
「……………」
「女の子の扱い方は難しいですね~~。王くん、何か言ってください」
「お前に誘拐された子なんだぞ。ったく、無理言うな」
無茶振りだ。とはいえ、王はまだお礼を言っていなかったことを、しっかりと伝えた。
「さっきはありがとな。お前のおかげで言葉が分かるようになった」
レモンなどと可愛らしい名を持つだけに小柄な体型に、♪マークのイヤリング、黄色が中心となったファッション。
「……うん」
王にだけ小さく頷く可愛い子。仲直りの握手をレモンからしてくるのであった。それに王も優しく手を差し出して握ってみせる。
「ロリコンですね~。王くん」
「どーすりゃいいってんだよ?」
「ロ、ロリコン……。ロリータコンプレックスの略」
見知らぬ人がそんな症状を持っている。語学に通じるレモンにはその意味が分かってしまう。手を振りほどいて、熱く意味を語ろうとする。
「幼女・少女への性的嗜好や恋愛感情のこと」
「そんなことを女の子が語っちゃダメです!まったく!」
王がレモンの口を優しく塞いで心の中だけに留める。王には少しだけ、本当に少しだけ心を許したようなレモンだった。
藺は人に嫌われていることを自覚した上で、レモンに事実を突きつけた。
「レモンちゃん。話半分で聞いてもらいたい」
「はい」とか、無言の頷きもない。
レモンが藺を嫌っているのはもう明らかだろう。しかし、それでも藺はレモンの耀く才に酔いしれている。
「優れた人ほど、優れたステージに行くべきなのです。私の役目、優れた人を必ず適所に置いてあげること。夢でもないかもしれませんが、残酷かもしれませんが。才能にしろ、努力にしろ。優れた存在は優れていなければならない」
レモンは頭も良い。だから、藺の言っていることは分かっている。
「君があんな異世界でただ座っているだけだというのなら、私もあなたも後悔しかない。あなたのその力は世界を動かせるほどです。強引でも、あなたは世界を知らなければならない」
ただ文字を見て、凡人共ができる仕事をして、友達(笑、雑魚)とお話して
「そうやって死ぬのは似合わない。優れた存在と、凡は付き合ってはいけない」
藺は自分で良い事をしていると思っている。誘拐してでも、才を世に広めるという行い。彼はそれこそが人間の賛歌と考えているだろう。
力を発揮させることだけしか考えていない。
「藺!一つ約束しろよ!」
「あれ?王くんからですか?」
レモンがその気になれば藺も、自分も殺していただろう。しかし、彼女は幼い。頭の容量があるわりに判断が追いついていない。
王の人の良さには本当に心服すると藺は思っただろう。
「レモンちゃんの才を、しっかり活かせるようにしろ。泣かしたり、殺したりしたら……俺がお前をぶっ殺す。いや、レモンちゃんだけじゃなく。これから来る、俺達の仲間を潰したらお前を殺す。そして、俺も死ぬ」
脅迫の仕方が仲間意識ありあり。本当にやれるのかどうか怪しいものだ。
「肝に命じておきますよ。本当に王くんを部下にできて良かったです」
こちらも仲間と甘い響きに酔いそうです。
「とはいえ、レモンちゃん。そろそろあなたのソレ、"オペラ・クルセイダース"の力を見せてもらいたい。そうですね、かるーく。ここの異世界の思想を書き換えてやってくませんかね?」
言っていることは壮大だ。レモンの力は洗脳に近いものか。
「何をどーするんですか?」
「具体的に決められるんですか?なら、私に崇拝する世界に変えてください」
「藺に……崇拝する暗示か」
レモン・サウザンド
スタイル:科学
スタイル名:オペラ・クルセイダース
言語型の科学。文字の中に潜めることができる科学である。
自分の声から発する言葉を具現化し、武器として扱えたり、自分で鳴らす音も具現化し、固めて集めて生物にしたりもできる
文字の記憶を引き出して、盗聴したり。レモンが作った文字を読んだ対象者に暗示を掛けたりできるなど利便性は高い。
文字は在り来たりで人が生み出した原始記号(最初の発明)とも言える。
科学にしては不定形であり、レモンが手ぶらに見える。ただの少女にしか見えない。
異世界にある文字にレモンの力が注入される。何気なく読んでしまうだけで暗示に掛かってしまう。感染力もさることながら、その力も強力。
「私を知らないからですけど」
レモンを知らなければどっぷり填める簡単には抜け出せず、暗示に掛かる。暗示に掛かれば洗脳すらできる。
瞬く間にこの異世界は藺の異世界になってしまった。恐るべき人材がまだいた。