音楽の世界に大興奮している馬鹿へ
立ち並んでいるのはCDショップやカラオケ、ディスコ、楽器店などなど。ここは音楽というのをメインとしている世界。ただの娯楽だけで食べていける世界。
作詞、作曲した物をレコード会社に売ったり、路上ライブで金をもらったり、ホテルにあるレストランのピアノで一曲弾いたりして生活をまかなっている。
自分の喉や腕、音感など、音楽という科目がどれだけできるで生き方が決められ、ある種の弱肉強食がこの世界で広がっていた。
ジャジャジャーーーーンン
「まだまだ盛り上がっていくぜぇぇぇーーー」
「いえーーーぃぃぃっ!!」
ロックバンドの近くにいるダンサー達などは二流階級。
音楽という要素を盛り上げるだけの存在に過ぎない物は、かなり窮屈な生活を送っていた。だが、彼等はそれでも音楽というのを支える存在でもあるためまだマシと言える。
三流階級には電池製作、客層偽造者(ステマを起こす人々)、掃除人、ステージ製作の建設工事、ティッシュ配り、在庫CD処分係などなど。道を大きく外した者には厳しい人生が待っていた。
そんなところだとは知らずに凄まじく目を耀かせ、耳が大きくなったかのように感じるほど、やってくる音楽の魅力にやられている男。
「うわーーー!すっごい!これ"BAHHA"のアルバムに!"VERTVEN"のシングル!!それだけじゃない!!"ANUP"や"SAZAN"、テクノの曲まで充実してるなんて!アレクさんの好きなロックバンドもあるーーー!凄いぞ!凄い!この世界!」
「は、春藍ねー」
「はしゃぎすぎです。みんなが見てますよー」
世界が違う。
音楽を聴き、歌い、弾き。
ある一定の水準まではそれでギリギリ通る線。その下とその上に格差が大きく生じる。
「買いたいなー。モームストみたいに働いて買って良いかな?」
「働くって、あんた。アレクの事を忘れてないでしょーね。あいつはまだチヨダにいるし、アーライアに行かなくちゃいけないのに……」
CDショップに入って、無料と書かれた曲を聴き始める春藍。それに一度は呆れたり恥ずかしいと思っていたライラとネセリアも、気になった曲を見つけて聴き始めた。
特別に売れた物ではないし、特別に有名でもない。
しかし、慣れ親しんでいない三人にとっては良曲と思えるだけの心地よいのが広がっていた。
「サイッコーだ。"Rio"に置き換えられないかな」
純粋に音楽を楽しんでいる春藍が、自分のポッケから"Rio"を取り出した時だった。後ろからCDショップの店員が2人掛かりで春藍を取り押さえた。その物音にネセリアやライラも振り向いて、駆けつけた。
「な、なんですかぁ!?」
「君ぃ!!今、取り出そうとしていたのは盗聴用の道具だろう!!」
「勝手に曲などを録音しては犯罪なんだぞ!つーか、君は聴き過ぎでお金を取るレベルだ!!」
「ええぇぇっ!?」
「ちょ、あんた達!春藍を離しなさいよ!?」
「な、なんだお前達!この世界のルールを忘れたというのか!」
「有名なミュージシャンの曲は人間1人よりも重いんだ!勝手に録音したり、配信などをしたら一生牢獄逝きだ!」
「えええぇぇっ!?」
「たかが音楽よ!」
「たかがじゃない!!俺達はどれだけそれが大事か、教わっているんだ!!」
「"ポリス"を呼ぶんだ!」
イビリィアやチヨダのような。力という物を蓄えて生活をしている人間達がいる世界ではない。フォーワールドのように、"管理人"が強く支配している。
絶対的な暴力が傍にいるから、人は強さと似た存在に縋り、優劣を決めなければいけない。
ザッザッザッ
「ドノカタタチデショウカ?」
「ハンザイシャタチヲカクホシニキマシタ」
数十体の、青い色の服とバッヂを付けた人間ではない。
明らかに鉄とか金とかで造られているロボットの群れが現れた。
「な、何よこいつ等!!」
「ムダナテイコウハシナイデクダサイ」
「ケンジュウデドギャンデス」
「ツイテイクダケデイノチハタスカリマス」
「よ、読みにくい……」
「バカニスンナ、チャントミミヒライテキケヨ」
"ポリス"と呼ばている存在。
どう見ても、そいつは"科学"の一種だと分かった春藍達。武器を向けられて、大人しくするよう言われて。
「春藍、ネセリア。"今"は言うとおりにするしかないわ」
「わ、分かりました」
「ライラらしくない発言」
「春藍。あんたのせいでこーなってんのよ。反省しなさいよ」
ポリスに武器を向けられたまま、三人は両手を挙げて連れて行かれる。
とても不安そうな顔になるネセリア、牢獄行きとはどんなとこだろう。怖いところだというのはイメージできる。
一方、春藍は僕はまだ何もしていないという顔を出していた。反省というのが感じられない。良い曲だったら買いたいという思考なのだろう。そして、ライラは
トンッッ
外に出て4分ぐらい経って、気付かれないように十分に練った魔力を使って。
「ネセリア!春藍!あたしに掴まりなさい!」
「え!?」
「こ、こう!?」
「ナンダァ」
ドヒューーーンンッ
ライラは自分の足元に雲を作り出し、さらに空へ突き上がるほどの風も発生させて春藍達も連れて、ポリス達の包囲から抜け出した。
「ノワァーーー」
「ウテーーー、ヤッテモカマワナイ!」
片言で武器を上空に向けるポリス達。だが、ライラの雲は空で徐々に広がり、厚くなっていって武器の攻撃をまったく寄せ付けない。空に出ればライラの"ピサロ"が強い。
「うわぁ!一瞬で空に来ちゃった!」
「凄いよ、ライラ!」
右肩に掴まるネセリア、腰に掴まる春藍。もう離れても足場に雲が出来ているため、大丈夫。っていうか、ネセリアの胸が当たっているし。
「どこ掴んでいるのよ、春藍。離れて」
「あ、ごめん……って、額を押さないでよ」
2人を離させるライラ。安全地帯にいるわけだし、これからどうするか。ここで話を始める。ただ音楽を聴いていただけではなかったライラ。
「とりあえず、ここの世界は"金の城下街"ゴールゥンって呼ばれるとこらしいわ。分かっての通り、音楽だらけの世界」
「すっごい楽しみなのになー」
「我慢しなさいよ。また捕まって逃げれる保障はないわよ」
「これからどうするんですか?アレクさんがまだ来てませんし」
「無視するしかないでしょ、あいつが私達を見つけてくれる事に賭けるしかなさそう」
「えええーーーっ、音楽だけじゃなくて、アレクさんまでは諦められないよ!!ライラ!アレクさんはさすがに探そうよ!」
春藍の言葉にライラはまったく揺さぶられず、逆に不信に思っていた事を2人に言ってしまう。
「アレクは最初から何か様子がオカシイと思っていたわ」
「え?」
「あたしはどーせ、異世界へ移動できる術を持っていたから利用されただけ。アレクは移動できる術を身につけたら、私達なんていらないと思っていたんでしょーね」
そのあまりにも証拠のない、憶測だけの言葉に春藍が怒ったし、ネセリアも少しだけライラに注意するように言った。
「アレクさんはそんな事しない!僕の!ネセリアの上司だし、命の恩人なんだ!必ず僕達を見つけてくれる!僕も見つけるんだ!」
「その言葉はちょっと、ないですよ、ライラ」
「わ、分かったわよ。悪かったから、ネセリア。春藍」
自分の考えと春藍達の考えの違い、ライラがどれだけ無神経な事を言ったか。2人に謝ってネセリアは笑顔で許したけれど、春藍は少しライラの顔を見ずに。それでも下に映り、音楽が聴こえる街も見ずにしていた。