クォルヴァ登場
春藍に現れた幻覚の正体。それは夜弧と同じく、自分の中にいる人格。
まだ春藍もぼんやりとでしか認識できていない存在。
「僕?」
髪の色だけが違う自分であったが、その幻はすぐに第三者の介入によって打ち消される。
春藍の周囲の煙が退き始める。すぐになんらかの異変のある方向。隠さずに独特のオーラを発する存在がやってくる。
「手荒なマネをして済まない」
「!誰ですか?」
初めてその姿を見た時、中世的な顔立ち。髪も囚人だったとは思えない美しさ。
桂さんも美しいような容姿であったが、彼は違うような感じ。
「先に会うのなら、君を一番に選んでいた。桂からも高く評価されていた」
ズイッと、春藍の眼前にその顔を近づける。雰囲気はライラと似ているが、ちょっと何かオカシイ。
「あの……」
「ふむふむ。ハーネットの3世代目……いや、実験を含めれば4度目の人生」
「ですから」
「魔術は無論、科学にも精通できるとは。パイスー以来のダブルスタンダード。"RELIS"の副産物ですね」
「どなたですか?」
敵ではないというのは分かる。そして、その言葉からも相手が誰なのか分かってきた。しかし、こー……
「君がここまでの大器なら、ライラやアレク、ロイにも期待していいようだ。ふふふっ」
春藍を視察しただけですぐに、どこかへ行こうとするクォルヴァ。
「あの!!クォルヴァさん!!」
「!」
春藍は彼がそうだと核心して呼んだ。そして、止まって振り向いてくれたからなおのこと自信を持てた。
「いえ、クォルヴァ管理人ですよね?」
「そうだけど?」
「僕達はあなたに会いに来たんです。少し、待ってくれませんか。いえ。あなたの力が今人類に必要なんです!」
春藍は言葉で、クォルヴァを止めようとした。こうして出会えて良かった。
そして、このチャンスを絶対に離さない顔だった。
「ここで僕と待っていてください。ライラも、アレクさんも、ロイも、……みんながここに来てくれます。あなたに会うために、みんな必死で来たんです」
春藍の言葉にクォルヴァ。我を思い出す。
「待ち過ぎたからつい興奮しちゃってね。それは失敬した」
クォルヴァ
管理人ナンバー:001
スタイル:魔術
スタイル名:エターナル
「おわびに、2人の幻覚を解いてあげようか」
クォルヴァの言動は春藍の心を探るため、他ならない。
独特のペースでクォルヴァを取り逃がすとしたら、きっとクォルヴァは協力などしなかっただろう。
本当にちゃんとした声だった。
クォルヴァは指を鳴らして、煙を吹っ飛ばした。元々、彼が蒔いた物だった。
「うああぁぁあっ、……ああ?」
恐怖から逃れた若は地面に尻餅をついてて、叫んでいた。しかし、晴れると同時に何をしていたか思いだして恥ずかしくなる。
「ふぅっ」
夜弧の顔は早々変わっていない。そこまで辛い物を見たという印象ではない。
むしろ、整理ができて良かったという表情。
クォルヴァは本来、気にしていたライラ、アレク、ロイの3人に期待していたわけだが。他の二人もこれまた面白い人材だと分かった。
「おや?なんだよ、なんだい、なんなんですか?」
「?」
「お2人さんも、春藍くんと同じ"RELIS"?これはとても悪い事をしてしまったか。それとも何かな?」
一瞬でそれを理解できるのはやはりクォルヴァが、RELISを作り出したからか。
「な、なんなんだあんた!」
「若。彼がクォルヴァよ」
警戒する2人。しかし、それも虚しくクォルヴァはあっさりと2人を近くで確認する。
「若というのか、君」
「あ、ああ」
「ふーん…………!そうか、そうか」
「?」
「君は覚えちゃいないだろう。そういえば、桂やポセイドンに伝え忘れていた隠し子がいた」
すでに過ぎ去ったこと。
若の能力が特異なものであった理由。
「ライラにはもう1人弟がいたんだ」
「は?」
「双子の片割れでね。弟子はライラにしようと決めていたものだから、君を別の異世界に送り、RELISを用いて記憶を混同させておいたかな」
機密事項をあっさりと人間に打ち明ける辺り。管理人としての適正は微妙。
しかし、こーいった事情を知っているのはトップシークレットに入っている存在なのは明らか。
「若くん。君はライラと血の繫がりがあるんだよ」
「はーーーーーーっ!!?」
「えーーーーーっ!?」
「ライラの、弟……?」
その事実が確実なものかなんて、春藍と夜弧、そして若にだって分かるわけがない。あくまでクォルヴァが言っているだけ。
「なんで僕があんなクラゲ女と姉弟なんだよ!!言いがかりだ!だいたい、僕はあんなのと一緒じゃない。クラゲヘアーとかどこに需要があるの!?」
若はそんな妄言を信じるわけがない。ライラを罵倒しながら否定する。
「へーっ、そーよね」
「そうだよ!!僕はライラやリアみたいな暴力を使う女は大嫌いだ!!女としてどーなんだ!?歳もヤバイし(僕と同い年だけど)」
「ババアってこと?」
「そう!よく言ってくれるな、ライラ………?」
背後から感じる、メテオ・ホールとは違った怒気を察した若。ゆっくりと後ろを向いた時。
ライラはその真相を否定しながらも、罵倒されたことに腹を立てていた。若はまだ幻覚を見てた方が良かったと思った。
「ぶ、無事だったんですねー……ら、ライラさん」
「あんたはこれから無事じゃなくなるけどね?」
ライラの右ストレートが若を襲う。
「死ね!死ね!生きながら死ね!!」
暴力で若をボコボコにするライラ。つまりは、
「アレクさん!ロイも!無事だったんだね!」
「おう」
「お前がクォルヴァか」
出会った時、アレクもロイも同じ事を感じただろう。
雰囲気が桂やポセイドンとは違う。言葉にはできないが、ともかく。こいつも化け物であるのは確かなようだ。
「初めまして、クォルヴァです」