アレク+ライラ VS メテオ・ホール
透明だったから?そんなチャチなものではない。とにかく馬鹿デカイから、触られたのだ。
「みんな!」
ライラは咄嗟に魔力を自分から一気に放出し、仲間全員を包んでから雲に変化させた。全員がパニックになっただろうが、やっていなければパニックどころではなく、
確実の死だった。
「うおおぉっ!?雲!?」
「なにするんだ、ライラ!?」
ライラは少しずつ雲を溶かしていき、急に現れた存在を確認した。人間ではないということは、この手段から察知できた。
「誰よ?いえ、……どーゆう怪物?」
全員が同じく、出会った見えない怪物の前に身構えた。そして、怪物側も出くわした同種が、自分達と同じく怪物であることを知る。
『気配に気付けるとは』
「アホね。いくら透明でも、私達の体に触れた魔力の湿り具合でバレバレよ」
ライラの雲は敵を押し戻すために使われたのだ。このことに気付いた時、ライラには救われたことを全員が察する事ができた。
ライラの言葉に敵、すなわち。メテオ・ホールも肉眼で捉えられる緑色を発する気体となって現れた。煙のようになり、それが形をつくり、人と成す。
『私はメテオ・ホール。そー呼んで欲しい。怪物は願い下げだ』
精霊と言われたほうが知性を感じさせる。
礼儀正しい奴と思うほど、ライラ達は良い人間ではない。奇襲を仕掛けたのは奴の方だ。
「あんたなに?この牢獄の門番的な奴?」
ライラ達は藺達のことを知るわけもない。まだ、彼等とは出会っていない。それはメテオ・ホールが透明となれ、キャッチできる情報が人よりも遥かに優れているからだ。
メテオ・ホールが姿を現し名乗ったのは
『その通りでございます』
ライラ達にこの嘘を信じてもらうためである。
事情はどちらにも分からない。しかし、この場でそのように語ればライラ達から得られる情報というのがある。
『ここは異世界。どーして、囚人ではない者がいるのか、不思議でございます』
質問はとても良好。
答える義務がライラ達にはないにしても、メテオ・ホールはこの言葉を投げかけるだけで見せる、ライラ達の反応で藺と同じく、異世界を自由に動ける奴がいると察しできた。
「礼儀正しくないのに、あんた強いよね?」
「邪魔だテメェ」
目的は分からなかった。
「春藍、夜弧」
「ロイ、若」
メテオ・ホールから見れば好戦的な3人の内2人が、残りのメンバーの名を言ったことをちゃんと覚えた。
「ここはあたしと」
「俺が引き受ける」
ライラとアレクが同時にメンバーの前に立ち、メテオ・ホールとやり合う構えをとった。2人はメテオ・ホールの狙いがわずかに分かり、違和感を覚えた。
魔物ではあるが、生命体であり、人語を話す。
ここに来た目的が分からないという質問から、ここにいるであろうクォルヴァを解放しにきたと言ったら。こいつはなんと答えるだろう?
異世界からやってきた……という質問に、よく出会って1分足らずのライラ達に投げかけられただろう?それ以外はないと思っている?
こいつが異世界の門番だと仮定したら、侵入者の抹殺のはず。探りを入れたということは、何かが違うし。メテオ・ホールはもしかすると、クォルヴァがここにいるという事実を知らない?
疑問を知るにしても、邪魔者でしかないこいつは早く始末するのが得策。
アレクの業火がメテオ・ホールを一瞬で焼き払い、なおかつ牢を揺らし、灼熱へと変えるまでに10秒も掛からなかった。
「おおぉっ。なんてっ……破壊力と、魔力のぶつかり合い」
遠くにいる藺と王にもその衝撃が、その戦いが分かるほどだった。
「メテオ・ホールが戦っているのか?」
「でしょうね。しかし、あの人がここまでやるなんて珍しいです」
藺の舌がライラとアレクに興味が沸いたのは当然であった。そして、アレクの放った業火によって、牢屋のいくつかの檻が熔けて壊された。囚人達の大脱走が行なわれたのは当然だった。
「好都合です。少し調べましょう」
藺の"人脈"によって、偵察能力に特化した人間達が召喚される。
適材適所の人間配置を可能にしていた。囚人の衣服を着せ、現場へ向かった偵察用の人間達。
春藍達は4人纏まって、別のルートからクォルヴァを捜しにいった。無論、走っていた。
「今の奴!なんだったんだ!?ビビッたぞ!」
特に若は恐怖によって、全速力で走っていた。
「このままフォーワールドに戻るぞ!死ぬなんてごめんだ!」
「わ、若!どうしてそんなに慌ててるの!」
「分からなかったのか!?春藍くん!」
魔術の適正がある若にはメテオ・ホールの異質な強さがハッキリと判った。触れた瞬間から感じる、自分とは桁外れの魔力。
「明らかにあいつはずば抜けた素質があった。尋常じゃない、魔力の量だった!触れただけで僕は力の差を感じ取れたんだよ!」
若の迫真かつ恐怖を訴えるメッセージは春藍、ロイ、夜弧に十分に伝わった。
「姿も消せるわ、そもそもあれにどんな攻撃が通じるのか。未知しかない!ライラとアレク……いや、僕達が纏めて相手にしても勝てない!」
若は戦闘要員ではない。それを補佐するタイプだ。恐怖を敏感に感じ取るのは仕方のないことだ。
「確かにあれは化け物だった。けどよ、ライラとアレクだぞ」
「そうです。私だってあれくらいの化け物と出会ったことはいくつもあります」
「僕も、本当に強いかどうかは。魔力だけでは分かりません」
若以外の3人が、メテオ・ホールに対して平静でいられているのは管理人という強大な力とまともに見て来たからだ。確かに異質な魔力であり、魔物に属する何かだったが。
「勝てない相手じゃない」
「じゃあ、なんでお前等も逃げてるんだよ!」
「逃げてねぇーよ。クォルヴァ捜すまで踏ん張れよ若」
「嫌だーー!帰りたーーい!!」
ライラとアレク。そして、メテオ・ホールの戦場。
「お前は魔力を少しでも温存してろ」
「別に平気よ。サポートくらいするわ」
ここが室内だからこそ、雲を一気に出しただけでライラの消耗は激しかった。しかし、ライラもここまで成長しており。まだまだ余力はある。
短期戦が超短期戦になった程度。
「…………」
メテオ・ホールはアレクの爆炎とともにまた姿を消した。しかし、奴の癖をたった一度で見抜いたアレク。
透明になっているだけじゃなく、おそらく気体の何かで姿を消せるようだが細かくなりすぎると、攻撃をすることもできない。魔術の類であれば魔力の反応があり、それを基点に奴の攻撃が始まる。
ガシャアァンッ
「炎の中で生きられる生物か?」
取り出したのはバズーカ型の科学、"紅蓮燃-℃"。どっから出したのよ、ってライラが不思議そうな顔でアレクを見ている。
「"灼眼龍"」
炎が放たれて龍の形を作り出す。その熱もさることながら、敵を追尾する機能もある技。消える相手と初めて出くわし、これが通じるのかアレクが試した。
周りの熱が上がりっぱなしでライラもさすがにこれ以上近くにいれない。少し離れてアレクの戦闘を見守る。もう、ポセイドンの弟子ということを隠す必要がなくなって、本気モードである。これは超安心できる。
龍は踊るように回っていき、次々と壁をぶち壊し、その中にいた存在を問答無用で焼き尽くしていた。メテオ・ホールの姿を捉えられず、不規則な動きをしていた。