新たな異世界へ行って来る
「うぅぅ~ん」
「あら、どうしたの?春藍くん。お楽しみだったわね」
「とっても楽しかったですよね、春藍!……あっ、"くん"だね」
とてもニコニコしているライラとネセリア。それからとてもグッタリしている春藍。お酒もあるが、酷い目に合って、ライラとネセリアには決定的な弱みを握られただろう。
自分のメイド姿を鏡で見てしまったり、歌手っぽい恰好されたり、ワンピースを着せられたり、女用の水着までつけさせられたり。弄られまくった。
女って怖いって思った春藍。
その春藍やライラ達とは違い、ふつーにタバコを吸って隣にいるアレク。ライラはからかい半分で訊いてみた。途中、抜け出してからずーっと戻ってこなかった。
「お楽しみだったの?アレク」
「そんなところだろ。それが分かって何かあるのか?」
「いや、いちおアレクもそーゆうところあるんだって思えただけ」
「……いちおはつけなくても、男なんだよ」
そんな2人を聞いていたのか、聞いてなかったのか分からないが
「ねー、アレクさん。途中で抜け出してましたけど。あのー、3○っていうんですか?それを2人の女子と一緒にしていたんですか?」
「ぅぶーー!」
「?」
ネセリアの質問に思わず噴出したライラ。なんでライラがそんな事をするの?って顔をするネセリア。まだ自分をちゃんとできていていないだろうネセリアが知るのには早すぎる。アレクは顔色一つ変えずにネセリアに教えはしないが、アドバイスをした。
「確かにしたが、それを知りたければ、春藍とライラにいずれ教えてもらうんだな」
「わ、分かりました。その時まで待ってます」
「なんて事を言うのよアレク!するわけないでしょ!!」
「あのさっきからその○Pってなんですか、僕も分からないんですけど」
「お前は一切聞くな!」
ぶちギレながら、春藍を殴るライラ。
一行は偉い人が資源を鑑定施設に持っていっている間に裏から忍び込み、管理人達が使っている部屋へと真っ直ぐ入っていった。
モームストとは違い、この管理人の部屋は出入りが激しいらしい。
色んな異世界にどの資源を送れば良いかの資料が置かれており、これほどの数が流れ込めば一つだけではなく10以上の異世界にはばら撒かれる事だろう。ひとまずは資源の換金作業で1時間くらいは、誰も入っては来ない。
ガチャァッ
「探すよ」
「うん!」
管理人の部屋に入ったらもう時間との勝負。モームストのようなクローゼットのような物は置かれていないため、どれが科学なのか検討も付かない。もしかすると隠し部屋があるのかもしれない。四人は手分けして探し。
「机、椅子、棚、ベッド……もー!全部普通です~!」
「引き出しとかないのかな?」
「今度は一体何が移動できる物なのよーーー!!」
とてもモームストとは違い、事務室に近いこの管理人の部屋にはそれらしい物を探っても感じない。7分ぐらい4人で探しても、それらしい物が見当たらない時。アレクが棚の中にあった、何百枚もある超大型の白いの袋を発見した。
「これだぜ」
「ただの白くて大きな袋じゃないですか。これも"科学"なんですか?」
「けど、確かにそれっぽいような、違うような」
「何でも良いわ!とにかく、それをどう使えばいいのよ!アレク!」
アレクは袋を最大限に広げた瞬間、並んで訊いて来た春藍とライラ、ネセリアに
「この袋に入れるように並べ」
「わ、分かったわ!」
「な、なんなんですか。この"科学"は」
ガッポリと下から袋に入れてしまった。春藍達に映る視界はただの白い袋しかないし、何も起こらない。だが、アレクの声は聴こえた。
「この科学は袋の中に何かを入れ、袋を閉じた時に異世界へ行けるようだ」
「ええっ!!?」
「アレクさん!そんなに早く理解するなんて凄い!!」
「じゃあ、あんたはどうなるのよ!あんた、袋の中に入ってないじゃない!!残されるわよ!!」
ライラが叫んだ時にはもう袋は閉じられていた。
「心配するな。すぐ追いかける」
「アレクさん!」
「ひ、1人じゃダメですよ!」
「こ、今度はどこに行くの!?"アーライア"に……」
ドヒュウゥンッッ
春藍達が再び異世界へと吹っ飛ばされた。その時、三人を包んでいた袋は萎んでいってしまった。
1人残されたアレクは、誰にも邪魔されない事を知って管理人の部屋を片付けながら調査をしていた。役に立つ情報は少しでも集めようとしていた。
「悪いな、ライラ」
この異世界へ行ける袋やクローゼットなどの"科学"についての情報はもちろん調べていた。原理的には同じではあるが、操作方法がやや異なる。
アレクは二度の経験で理論まで辿り着いた。次からはほぼ自由に異世界を飛べるだろう。そのために必要なのは、フォーワールドやイビリィア、モームスト、チヨダなどなど。存在している異世界の情報だった。
ライラは言っていた、"無限牢"というとてつもない"科学"に色んな異世界が閉じ込められており、管理人というのが入って世界のバランスを整えているのだ。
「世界には番号が振られているのだろう」
クローゼットの科学を使った際、この番号は多少弄った程度で終わらせてしまった。
どの番号がどの世界に繋がるか。その情報をアレクは集めていた。しかも、幸運な事にクローゼットとは違って袋で移動できるこの科学は持ち運びがとても簡単。(一回しか使えないが)
アレクは情報を仕入れてから使おうとしていた。
「……………………"JP空断.VER.BIGBAG"……か」
使うのはそうだがそれが果たして、春藍達のところへ行くのかは分からない。
1人となった事でアレクに生まれた自由は自分のために使う。
◇ ◇
ヒューーーーーーーーンンンッ
「うひゃーーーーー!!」
「うああああぁぁぁ」
一方、ゴロゴロと転がりながら七色に変わる景色を見ている春藍達は目を回していた。異世界に移動しているという感覚はない。
「くうぅぅっ」
8分ほどそんな状態が続いて、七色の景色が徐々にたった一つの白いになっていった。転がる感じだけではなく、上から感じる重力ような物も分かる。
ドゴオォォッ
「きゃあ!!」
三人は袋から飛び出すかのように、異世界に流れ着いた。印象としては光が灯っていた
洞窟を照らしたり、暗いお店を艶やかにする照らすでもない。オレンジ色に包まれている街灯だけではなく、綺麗な夕焼け色の空。チヨダにあった街でもないし、イビリィアのような街でもない。フォーワールドにもこれほどの物はないだろう。
街と街を重ねるように作られた存在、まるで都のど真ん中に三人は転がり込んだ。
「ど、どこだろう」
「あたしだってこんなところは初めてよ」
突如現れた三人に街の人達はかなり驚いて声を上げていた。だが、それだけではない音が三人に届いた。優しい曲がスピーカーから鳴っている。
ここは音楽が栄え、ただの一つの都しか存在しないが、それだけでチヨダやイビリィアなどと同じ大きさを持っている世界。
"金の城下街"ゴールゥンと呼ばれる異世界であった。