クォルヴァを巡る冒険③
監獄の異世界とは。
どーしようもない連中が捕まった場所。大罪人や手に負えない怪物共の棲家。
「この異世界の管理人とはそのまま、囚人に成り下がるそうですよ」
「詳しいじゃんか、藺」
「伊達に大人しくしてたわけじゃないですからね」
春藍達よりも早く、この異世界にやってきたのは藺兆紗と王震源。
しかし、狙いが彼等とは違っている。そもそも2人はまだ知らない。
「ただ管理人がいなくなったのです。使える人間をここで獲るならこーいう異世界に来るべきでしょう?」
「性格が可笑しい奴とか、使いこなせるのか?」
「そこをなんとかするのが社長とか部長って奴です。まー、見ててください」
管理人が全滅したと思いこんでる藺。彼はここにいる囚人達に使える駒がないか、調べに来たのだった。力があるというなら扱い方さえ間違えなければ有効。藺の自信に偽りはない。
「と、その前にですが……私の最初のご友人をあなたに紹介しましょう」
「!そーいや、俺を二番目って言っていたな」
「隠れてないで出てきていいですよー」
友人と言うが、仲間と言葉を使った方が良い。それはなぜかって?
人間じゃねぇーんだもん。
どこにそいつがいたのか、王には分からなかったがうっすらと現れ始めたのは緑色の煙のようなもの。しかし、生き物に近い温かさを感じる。
『藺。こいつが友人だと?』
「ええ、メテオ・ホールさん。あなたと違って人間なので、友人がしっくり来ますよね」
「こいつは魔物か?」
にしても種類が分からない。原型がない。煙の魔物にしては先ほどまで存在すら確認できなかった。そして、こいつはメチャクチャ強い。肌で感じる
『ふむ。"超人"の者か。だが、分からないな。この程度の者、お前に必要なのか?』
「メテオ・ホールさん。おかしな事を言う。王くんは面倒みがいい方ですよ。魔物であるあなたには理解できないかもしれませんが」
鳥肌を立てるのが遅すぎる。おそらく、俺は気付かぬ内に死を近づけさせられていた。それほどまでの力の差を痛感する。
「改めてご紹介します。私の異世界で精霊と謳われ過ごしていた、メテオ・ホールさんです。姿を消すことがしばしばあって困りますが、優秀な方です」
ご挨拶の間にも死を考えた。メテオ・ホールは王のことなど何も考えていない。
「なんであんたは……メテオ・ホールさんは藺につく?」
『精霊などと言われるより、楽しいからだ。そうだろう?』
と口に出す。それは藺を信頼や信用を感じさせない。王は溜め息をついた。自分が付いていった男はどーやら、相当な馬鹿かアホみたいな自信家。
「これは仲間じゃないな」
「ええ。お互い思っている事、あなただけの世界。だからこそ、私はあなたに来て欲しかった。ともかく、今は3人で進みましょう」
メテオ・ホール
スタイル:魔術
スタイル名:元素
魔物に属する存在であるが、どーゆう種族かは不明。ただその強さは計り知れないものである。
3人で行こうと言ったのに、すぐにまたメテオ・ホールは消えてしまった。緑色の煙が現れるとその存在を確立できるようだが。
「向こうから喋ってくれませんが、たぶん来てくれてますよ」
「透明人間みたいな奴だな」
そして、この3人が先へ進んでからしばらくしてやってきたのが、春藍達であった。もし同時にぶつかった時、どーなっていたかは読めない。両者ともに不幸中の幸い。
「よっっ……と。着いたよ!」
「おおー。この腕輪は便利だな」
「ここが、"常世の牢獄"エンディング」
その異世界は全ての構造の原点と思わせる形。檻、檻、檻。牢屋がいくつも並べられている部屋の数々。"無限牢"を小さくした感じの異世界。
「勘弁してくれよ。俺は牢屋も、本も飽き飽きしてんだよ」
「"遺産もない図書館"と似た感じかもしれないね」
春藍、ライラ、アレク、ロイ、夜弧、若。全員が初めて来たこの場所を警戒しながら、周囲を確認した。
「監獄の異世界なんだし、不用意に囚人達とは触れ合わない!それから罠もあるかもしれないから気をつけて!」
ライラは皆に警告してから、様子をさらに調べて気まずいことを知った。
「まずいわね」
「どうした?」
「ここって全部が牢屋みたいな異世界だからか。あたしの"ピサロ"が上手く使えない。室内だと雲を発生するのに一苦労なのに」
おいおいおい。よりによって、主力のライラがいきなりの戦線離脱かよ。
「ライラ!お前、ホントに極端な能力だよな!もうちょっと安定した能力にしとえけよ」
「うるさーい!こればかりは生まれもあるんだから!無理言わないで!」
自分がここでも力を発揮できないことに少し脹れているライラ。春藍と一緒になって、無能コンビになった。
前衛にアレクと夜弧、その次に若、その後ろに春藍とライラ。最後尾にロイが並んで先へ進んでいく。先といっても、どっちの方向に行けば正しいかなんて誰にも分からない。
「あの。一ついいですか?」
「なによ、春藍」
「クォルヴァって方はどーゆう人なんでしょうか?実際に見た人がいませんよ?」
とても単純で難しい質問。クォルヴァを捜すといっても、どーいう姿をしているのかさえ難しい。しかし、
「管理人は彼1人だけよ。管理人には独特な気配みたいなのがある」
「人間じゃないからな。一目見れば、人間か管理人かの区別はつきそうだ」
簡単に言ってくれるライラとアレク。
「確かに管理人を捜していると思えば、すぐに判断できるはずですね」
「僕は管理人と同じ匂いがするから、相手を見れば理解できる自信はある」
続いて、夜弧と若も同意する。なーに、難しい人探しと考えたら最初から希望はなかった。たとえ、いそうな異世界にやってきても見つけられない。
春藍達はクォルヴァを、藺達は囚人達を。それぞれ目的を持って侵入したこの世界で待ち構えていたのは……