説得③
準備は整ってはいない。
一つの戦争が終わっても、また次の課題がやってくる。だが、拙者はその課題をやらない。なぜなら、やらずともやらなくても、終わりが来ているからだ。変わらないならする必要がない。
「うむ。良い天気になった」
ポセイドンは始末した。ラッシについては残念であるが、致し方ない。
ライラ、春藍くん、アレク殿、ロイ…………それから、夜弧も無事に生きて戻ってこれたというわけだ。
この、"和の国"吉原に。
「桂。そろそろ、教えてくれない?」
ポセイドンの死から2日が経った。秒速で"無限牢"内にある異世界は多くの混乱を生み出していた。それを感じ取っている桂。気付いているライラ。
何かをすべきであるが、戦争の傷が癒えていない。春藍の科学、"創意工夫"の損失がとても痛く、夜弧の"トレパネーション"による自然治癒力の強化や、吉原に伝わる秘薬での治療が行なわれている。どれも、傷口がすぐに塞がるわけではない。確実な治療であるため、安静が第一となっている。
「夜弧のこと、分かっているんでしょ?」
「またそれか。本人に訊くと良いだろう」
「あいつ、言わないし。それどころじゃないし……悪い奴じゃないけど」
ラッシと夜弧のやり取りを知ったライラは、管理人にとっては夜弧が危険であるのは確かだと分かった。ただ、ラッシと桂にある差がどうにも分からない。
「桂が乗った船は、夜弧の方ってこと?」
「拙者は自分の道を選んだ。夜弧はこれから自分の道を作るだろう。ライラ、人など気にせずに自分をちゃんと選んでいけ」
これじゃあ、教えてくれそうにない。
「いずれ付き合っていけば分かるものだ。本当に気付けるだけの力が、ライラにはあると拙者は思うぞ」
「……そー願うわよ。夜弧がずっと付いてくるならね」
なんだろうね。
私だって、そうだって分かっているけど。無性にさ。
「まだ"いく"のは早いわよね?」
「アレク殿次第だ。彼に伝えたいことがある。目覚めてくれなければ始まらない」
"テラノス・リスダム"の発動。
ポセイドンの最期を知れば分かると思うが、相当なリスクを払っている"科学"。扱えたが、本来の持ち主ではないアレクが使ったということはポセイドン以上のリスクを浴びたということ。
脳への障害が心配だ。ただ、
「精神治療ができる者がいて良かった」
「夜弧の能力って、色々応用が効くし恐ろしいものがあるけど」
時間の問題だ。別に、悪く言うつもりはないけど。まだ、少しだけアレクが眠っていて欲しい。
「変なことを考えているのか?」
「当たり前でしょ。馬鹿」
「拙者に向かって馬鹿というか」
まだ、何も言わないって事はその時にちゃんと役目を伝えるってことだよ?
遣り残したとか止めてよ。あってもいいんだけど、今。世界中が大混乱しているって分かっているんだから!立ち止まっている時間がもったいないでしょ。
ドタドタドタ………
「?」
「ライラーーー!桂さーーん!アレクさんが目覚めたよ!!やったよ!!みんな、助かったんだよ!!」
歓喜が伝わってくる足音と共に結果を報告する春藍。
表情はライラとはとても反対にある笑顔であった。
「ホントに!?よかったわ!」
春藍にそれがバレないよう、声だけはちゃんとしたものを出した。一方で、桂は無言のまま、春藍ではなくライラを見ていた。目覚めたとはいえ、
「アレク殿とは会話ができるのか?」
「あ、それは。少しだけみたいですけど!でも、僕の声やロイや夜弧の声にも反応してますよ!」
「そうか。では、夜になってからアレク殿も含め。拙者から皆に話したいことがある」
桂はまだ少しだけ、時間を作ってあげた。
「その頃には覚悟ができるだろう?」
春藍はきっと知らないだろう。でも、覚悟とは違うもので対応するはずだ。不安に感じているライラは
「大丈夫よ。大丈夫」
桂に応えながら、春藍の方へ歩いていく。
「アレクのところに行くわ、春藍」
「うん!」
勝つにしろ、負けるにしろ。結末が同じだったのは分かっているはずだった。
でも、これが選択なんだよね?大丈夫。って、強く。今思っている。