説得①
あなたの幸せはなんですか?皆、同じなわけがない。
バラバラであるのが自然である。
「"SDQ"を防ぐ気持ちは分かります。だから、ポセイドン様は何もかも捨ててまでここまで来た」
説得を選んだのはこの場で戦える者がいなかったからだ。
厳しい声で質問をしたポセイドンに、春藍はとても穏やかな気持ちで語った。
「でも、もう僕達にやらせてください」
朦朧としているポセイドンには春藍の言葉の真意を掴むことができなかった。無意識に拒んでいたとも言える、彼は春藍にめがけて殴りかかるも、春藍には見切れるだけの余力がまだあった。
「やらせてくださいだと……?はぁ?……お前……何を言っている?」
「僕達人間はもう、管理人がいないところまで進んできたと思います」
「馬鹿な。我は認めていない。そんなのはまだ先だ!!まだ終わっていない!!」
無我夢中が正しいか?
ポセイドンは執拗に春藍へと拳を振り翳した。力の入り方がなっておらず、転倒もした。それでも這うように立ち上がって春藍へと。
「管理人は人間を管理するためにある!!その時期は来ていない!お前と、桂、その他を含めても、人類全ての賛成となるのか!?力もなくやっていけると思うのか!?」
「……あなたの意見は全てが賛成なのですか?」
「賛成や反対の問題ではない!!人間が真っ当に命を紡いでいけるのか!?貴様の意志、その所業で人類を抱えようなど、片腹痛い!夢幻に等しい!!我は人類に反していようと、彼等を大切に守り続ける!滅ぼしはしない!」
管理人がいなくなっている世界を握るのは、意志や言葉なんかよりもその力が鍵になっていく。人類にまだそれはない。これから創り上げていくもの。
「我はやってのける!!人類を幸せにする箱庭を創り上げる!!終焉に導く災害も、一掃し!!未来に訪れる困難も打ち破る!!」
「あなたはもう先も見えていない」
春藍はとっても、優しい顔で
「自由は僕達人間で創ります。あなたの箱庭に住むつもりも、合わせるつもりもないです」
ポセイドンは本当に人を想っている。だけど、その想いが人類の不自由と繋いでいる。動くことができなくなってしまう。彼1人で回る人間社会はあってはならないものだ。
「幸せも、困難も、全て乗り越えていくのが人間です。だから、過去の人々はポセイドン様達管理人というのを造り上げた。今の僕達は、管理人も過去の人々の気持ちも含めて自立しなければならないのです」
ポセイドンの心が揺らぐか?
「やってのけると?その準備すらないのだぞ、できるはずがない。その気になっただけでは、取り返しのつかない死と滅亡を生む」
いや、揺るがなかった。春藍の言葉に揺れるほど、このイカレた精神力は崩せない。あまりにも堅すぎる。そして、愛に包まれている。
自分を正義だと認め、自分が悪であることも認めている。
「滅ぶ未来があるのなら選ばない!それが未来の舵取りの基本!我が理想こそが、人類の安心を築く!この科学力がそうさせる!」
揺るぎはしなかったが、
春藍の言葉にポセイドンはもう1人の敵を忘れてしまった。こっちこそが本命であった。絶対に隙を見せていけない相手、自ら造り上げた異世界に閉じ込めても、破壊して脱出する者。
バギイイィィッ
「本当に幕だ!」
ポセイドンの背後に突如現れた桂。振り向く事すら許さず、今度こそ。ポセイドンが意識するよりも前で、本体の胴体を切断する。
その瞬間。ポセイドンは蒼白した表情を造り上げた。
「っ、……ぁっ……」
"テラノス・リスダム"の創造も間に合わない。桂に壊された影響で機能しなくなった。
「やだ……やだ……」
"一刀必滅"がポセイドンの身体を蝕んでいく。絶対に生物を滅ぼす刀だ。助かるという可能性は0。分かっていても、理解まではしたくなかった。
「嫌だあぁぁぁっ!」
足掻く、足掻く。必死に
「死にたくないいぃぃっ!我はこんなところで終わりたくない!!終わらない!!終わってはならない!!」
のたうち回るムシケラの如く、地を転がった。人を想う気持ちがあるとは思えない足掻き。この足掻く力がどんなプライドも捻じ曲げていく。
「助けろ!!我を助けてくれ!!治せぇぇっ!治せぇぇっ!!」
恐怖に抗う。それは悪い事ではないだろう。
しかし、その恐怖が伝染するように桂はポセイドンに追い討ちを掛ける。"テラノス・リスダム"を破壊したとしても、奇跡を連発してもおかしくないのがポセイドンの強さ。別ベクトルにある生命力。
「いい加減、死ね」
桂はポセイドンの身体を次々に斬りおとしていく。ムシケラ以下に成り下がる。
「まだぁっ………我は……」
ドスッッ
ポセイドン
管理人ナンバー:002
"管理人の最高責任者"、アーライアの元管理人であり、人類を護るべく研究を続け、悪事をもした。自ら管理社会を崩壊させ、自らが人類を支配しようと画策し実行するも、桂と人間達に敗北。死亡。
最後まで、人類を自分のために、足掻き通した。