足掻き③
完全な無敵能力。
しかし、それは一概に言えない。能力というのは立派な評価基準であるが、状況によって基準は変わるものだから。
タイマンであれば、こーゆう仲間がいればとか……。そーいった事が条件付けられたらまず。完全は消える。次に無敵も消える事だろう。
誰にも邪魔されなかったら、ポセイドンの天下であった事だろう。
ではなぜ邪魔をされた?
「あなたに付いていく、人がもういないからよ」
「えヴぇヴぇヴぇ……?」
ポセイドンの隙を伺い、別行動で戦況を見守っていた一人。
機会を見出し接近し、ポセイドンの頭蓋に魔力を送り込み、身体の支配を始める。
「あなたの野望はおしまい」
「夜弧。消えた桂さんは戻ってくるの?」
さらにもう1人。仲間から許可を得て、引き返した者。すでに役目はなくなっていたのは事実。
「春藍様。私はトドメを刺しに来ただけです」
「できるの?」
「……ええ。たぶん」
もしかすると、ライラは気付いていたのかも。春藍様がいれば選択を得られると。
だけど、あなたが思っている通りには未来は動かない。私の思い通りにもいかない。
「まだ、ポセイドンの心を支配できないわ」
桂の意思は確かにポセイドンより、劣るものがある。だが、桂を選んだ人間が勝ち上り、こうして立ち向かった。志よりも、何よりも、
「時代を決めるのは"力"と"数"なの」
悪いとは言っていない。ただ、自分達とは違い。不都合であるからだ。そこからは結局、話し合うという選択はなくなり、こうしてぶつかり合い。勝者が決めることになる。
現実世界に桂がいないように、肉体こそ存在するが、精神が肉体とリンクしていないポセイドンには夜弧の"トレパネーション"から逃れる術はなかった。
ポセイドンの心を操作すれば、桂の運命を変えられ生き延びられる。それさえすればいい。終わったら、頭を撃ち抜く。
「べはははは、貴様ぁぁ」
「!」
「あの時の、女かぁぁ?あれは上手く逃げたぁぁなぁぁ」
精神を操作しポセイドンの意識が回復するはずがないと、夜弧は不気味に必然に頷いていた。だが、今操っているポセイドンには意識が蘇り始めた。自身が疲弊していることもあるが、触れることすらできないほど氷結な意志を悟れる。
「やはり、あなたがフォーワールドで」
喋るこいつは何?
疑問は浮かぶ前にその手を喰らった。
「うヴヴぅぅ」
甲高い呻き声と共にポセイドンは夜弧に対し、大きな掌を握り締めて力一杯に殴り飛ばした。2人の体格差は大きく、夜弧の身体が数mも飛ばされた。
「くっ」
「お、終わらせないぃぃっ」
意識は飛んでいる。ポセイドンが普通の拳を使うなど、ありえないことだ。それすら気付けていない?
「桂が、お前等が、どうしようが……」
どんな手を使おうが、目的への到達。
ポセイドンの周囲がなんと言おうが、どのように行動しようが、こうして殺しにきようが、
「我の理想を邪魔させやしない!!」
今の自分すら分からなくなってもいいから。
「足掻きは超える!!」
負けるという結末が見えていながらも、何も見なかったフリ。突きつけられる否定の嵐をただ闇雲に進んで行く。足掻く時点で敗北の一歩手前だというのに。
「終わらせない!」
最後までやり抜くを超えた、足掻きの悪さ。その最上級にいる異質すぎる精神力を持つポセイドン。狂気的な愛国心に近いものであり、それは全てにポセイドンの考えこそが人類にとって幸福であるという
「支配だよ」
それは正しくもある。
「たぶん、誰よりも人を思う気持ちがある」
過保護なその手と思想だ。
ポセイドンの目はきっと、人類とは皆子供みたいに見えるのだろう。彼の力が必要であると分かっている。だが、これ以上は要らないはずだ。
「僕はやっぱり、ここに来て良かった」
この意識が混同しているポセイドンこそが、正真正銘の彼の心だと。
春藍は察した。夜弧をポセイドンから庇うように立ち塞がった。ポセイドンの目には誰だか分かっていないのだろう。ただ、敵だという認識はあった。
「お前に人は救えるのか!?」
管理人の最高責任者。まさにその鑑。
そんな人にこうして話せる言葉は、お別れだと決めていた。