ポセイドン④
「人類を救ってくれないでしょうか?」
管理人は人類を救済するため。人類が生存するために。
「死ぬよりも、人間はここで滅んでしまうのかが怖いです」
その使命を与えられた。まだ、それだけなのかもしれない。
「僕達は生きたいです」
ポセイドンは最後の1人まで、見守って看病を続けた。それは自分の心が剥がれていきながらの行動だった。
遅かれ、早かれ、人は死ぬのだ。誰だって死ぬのだ。なんて徒労か。
「早く死ぬのだ!!死ね!!死ねば良いのだ!!」
自分の言葉はそうだった。
なにをしている?なぜ、自分は見守った?切り捨ててきた人間はいくらでもいただろう?人間は増えることができる。
「動けず、喋ることさえロクにできず、知る事なんてもう……。かはぁっ、ああぁっ、馬鹿が!なぜ、我は捨てなかった!あんな役立たず共をもっと早く捨てれば」
人類が終わった時。ポセイドンは酒に飲み続けた。忘れるため、酔いしれる選択をとった。あの頃の休憩とは違った。これは完全な現実逃避。これこそが徒労というべき行動だ。分かっている。けど、気分じゃねぇんだ。
「クソが」
買い取った健康体の人間も使い果たした、"SDQ"に掛かった多くの人々を費やしてでも。あの状況を打破するためのワクチン制作にも失敗した。
10人の子供達を助けるため、2000人以上の人間を犠牲にした。その成果は0。単なる犠牲者になっただけ。
犠牲になることをポセイドンが語った事もあった。その多くはとても薄かったが、喜びの顔だった。
『どうか、私の命で人類を救ってください』
なぜ、犠牲になることを喜ぶ?死を望んでいた?地獄だったのは子供達の方だったか?
「違う。違うんだ」
必死にポセイドンは忘れようと髪を毟った。この言葉はまだ続いたのだ。
『ポセイドン様のためなら、犠牲で良いのです』
命の犠牲は高いものか?
カスの命に値打ちをつけるのは難しいだろう。だが、人体実験では別である。有能だろうと人間という種族であれば、共通点の方が多く。例えば病を治せる特効薬の効果を調べるならばカスの命を使いたいものだ。
「生きたかったんだろ?」
"SDQ"に蝕まれた子供達は時が経つと共に人間から離れていった。それでもかろうじで、人間としての形と、その意思を、ポセイドンの尽力によって保てた。
だが、それまでだ。そこまでが最後まで限界だった。
ふと思ったのは。子供達が人間ではなくなるのなら、ここまで手を差し伸べる必要があるのだろうか?どうなのだろうか?
「人間として生きたかったんだろ?」
ポセイドンは人間としての生活と、その在り方にしてあげたかった。
それが正解かなんてその時の本人にしか分からない。けど、介護するポセイドンから見れば子供達は苦しそうで、そのまま20年以上も過ごしていたのだ。
怨みの方が多い。
助けてもやれなかった。ただ、時間が経つほど。あの言葉が温かく、前へと押してくれた。やりきったこの経験が、手段を選ばせなかった。
「でもな」
仮に。
10+20 = 30。この30という数字が金だとしたら少ない。人だとしても少ない。だが、年数だとしたらきっと多いだろう。30年なら長い。だから、
「人間は消耗品なのだ」
救うにはもっと時間がいる。もっと犠牲がいる。
「死ぬから。前へ行ける」
研究者、科学者においては当たり前のこと。失敗の繰り返しだった。
この世に成功しかしていない人物は失敗しかしていない。なぜなら、自分が小さいからだ。失敗から学んでより、非道にもなれる。
ポセイドンは変わった。その何が何でもやりきるという精神はタガが外れていた。感情に流されないよう、鉄の意志を宿した。その気持ちは確かにカリスマのような物を感じるが、融通の効かない暴走者でもある。
「もっと強力な科学力が必要だ」
あらゆる手段を講じた。それが危険視と見られる原因でもあったが、馬鹿共が!っと心から、この口から吐き捨てた。我を失えば人類は助かるという選択肢に辿り着けない。"SDQ"を研究し、解明するのは我しかいない。
管理人の多くはアーライアでの生存しかできない。何も対処できないだろう!対処しなければ、人類も我々も、朽ち果てるのだぞ。
「分かっているのか!?死ぬのだぞ!力を、"テラノス・リスダム"を返せ!科学の世界を増やすのだ!」
しかし、多くの管理人はポセイドンを危険視した。彼の中にある物が危ないと悟ったからだ。
その一番を感じ取っていたが、桂だった。
奴と争いが絶えなくなったのはこの頃だ。




