ポセイドン②
奇跡が起こった時、人は何で感情を表すのだろうか?
「成功だ」
ポセイドンは前人類が成し得なかった偉業を成し遂げた。その年数は歴史年表を作れるほど濃く、長かった道のり。成功に小さく頷いて自分を静かに昂ぶらせた。
「ふふふ」
大好きな赤ワインを頂いて、つかの間の休息をとるポセイドン。
"SDQ"という災害を資源として扱うことができた手段が見つかった。直ちにアーライア全土で、手法を展開してエネルギーに変えようと目論む。だが、それはまだ第一段階。この資源によって生まれた最終目標はアーライアで人類達が住める環境を作る事だ。災害と敵対する生命の和解。
ポセイドンの動きは早かった。ほとんど1人でありながら、"SDQ"を素材にする技術も編み出して、文明や大地、建造物を造り上げる。
もう、滅びた大地、などとは呼ばれない異世界にしよう。目標がスピードと正確性を上げて瞬く間に成長する、"アーライア"。"SDQ"を恐れない異世界だ。
農村の完成と同時に異世界から人間を移住させ、同時に自分が造り上げた科学人間も住まわせて交配させて、新たな命を生み出した。これらの生命達が育める環境にする最終調整へと入っていく。
災害への対策面はもちろん、法律、政治、生活環境などに至るまでキッチリと確認をとり、修正もした。その時、この農村を見渡すと理想の原型が見えた。
平和で平穏。人間が求める安息の世界があった。
「お主様!」
「お祭です!ぜひ、ご参加してください!」
管理人がこうして人と共有する。村が誕生したその日にささやかなお祭が行なわれるようになった。ここの住人達がそう決めた。この地で収穫した食材を使った料理は美味しく、子供達はけん玉やかくれんぼ、釣りなどで元気に遊んでいた。
子供と一緒に遊ぶなど、ポセイドンからすればありえないことだった。研究に没頭していた男だ。しかし、息抜きにしては気分が良かった。
「お主様!また遊びましょう!」
「今度は何か別の遊び道具が欲しいです!」
「色々な物を持っていることは知っているよ!」
子供はねだる。そーゆう生き物だとはデータ内にある。
遊びに誘われるのは悪くないことだが、ポセイドンは管理人。子供の言葉に乗せられたように配る玩具。
「これをあげるから外で楽しく遊んでいなさい」
遊びは道具に任せ。自分は研究と調査に没頭する。だが、たまに屋敷の窓から子供が遊ぶ光景を眺めている。子供もそれを知っていた。
ゆっくりと進み、噛み合っている社会の歯車を観に行っている。
この異世界で仕事をもらい、全うし、休み。また仕事をする。しっかりと支える歯車を見ていた。穏やかな研究時間が続いた。
人間と行動し、人間と食事をとり、人間と喋り、悩みを打ち明けたり、悩みを聞いたり。小難しいことはなかった。そう、寂しさがなかったなぁ。
自分から子供に声を掛けたときもあった。らしくなかった。
「けん玉か。随分とアナログな遊びに興味を持つな」
「お主様もやってみてください!難しいんです」
「どれ、手本を見せてやろう。……ほっ、ほっ……むむっ。なかなか難しいな。気分転換の時でも、練習してみようか」
理想なのかは分からないが、ただ繁栄するだけよりは良いものを見せてくれた。
集中している時とは別の気持ちが沸いた。それがエネルギーになって正確に進んでいくことを願い、自分でしていった。
「これが管理人の役目か」
ようやく、この世界の管理人として誇れそうになれたポセイドンだった。
だが、この環境はそれほど長く続かなかった。このわずかな至福がポセイドンの休息に思える。頑張り、成果を出したことによる報酬だ。
本当の彼はここから始まった。