管理人ナンバー:030、"一刀必滅"
「そのつもりか?」
桂はポセイドンに姿を見せながら、刀を抜き取った。普通の刀とは違う。"一刀必滅"をこの手で握りながら、ポセイドンに尋ねていた。
「……………」
「無視か?」
ポセイドンは答えない。張り詰めている空気に乗るような返しだ。
「桂!あたし達も手伝う!?」
桂に接近しながら、大きな声で最終確認をするライラがいた。それに桂は雰囲気だけでライラに告げた。
【邪魔だ】
復活したばかりだから無理もない。"テラノス・リスダム"を破壊したわけではなく、解除したに過ぎない。逃げても逃げても、追ってきた攻撃はどこにいようがやってくる。
「桂……」
ライラはその温かくて暗い気持ちを受け取って、名前以外の言葉を噤んで退いて行った。十分な仕事をしてくれたのかは教えてくれない。無事に帰ってくれるのかも教えてくれない。ただ、桂から生きてくれと伝えられている。
もう、猫の手は要らない。
この条件、この範囲、ここならば
「"一刀必滅"の間合いに入った」
"一刀必滅"
刀と化した"超人"。桂の切り札。"雷光業火"との組み合わせは最上である。
本来は桂と同じ管理人の能力であった。彼は"超人"であり、触れた物を即座に破壊し、消滅する能力を持っていた。
"超人"はその身体に能力を持っており、2つの能力を有することは極めて稀であり、同時に操ることも、開発する事も困難であった。
だが、"科学"が独自で進歩を心がけたように、"超人"側も独自の研究で進歩しようとしていた。その一つの研究成果が、"超人"の道具化である。"科学"を真似たと言って良い。
死んではいるが、肉体は刀となってもその能力を維持しており、保有している能力を引き出すことは容易かった。爆発的な動力と、"超人"特有の精神状態による再起は道具となった"超人"にも適応され、なおも持久力と耐久力を持ち合わせている。
良い物を作るため、良い素材を使う。至極単純なこと。しかし、それだけで最強。
刀が突然伸びたかと思わせる踏み込み。
ポセイドンは瞳を動かすだけの時間だった。
桂の"雷光業火"に対応する時間も、策も、ないだろう。真正面での戦いは危険どころか、敗北一直線。
キィィィンッ
綺麗に斬られるポセイドンの体。その傷口から徐々に存在する細胞が消えていく。この刀で斬られた生物は死ぬだけでなく、遺伝子を破壊されて生殖器官を失ってしまう。滅するとは死だけでなく、その種族、その血、思いすらも滅ぼし、絶滅に至らせる。
「創造外」
そこにある。しかし、"科学"とは別の手法で製造された物は"テラノス・リスダム"でも創造することはできない。また、"一刀必滅"に対抗する創造物もない。
最速の男に、絶対防御不能、絶対即死攻撃を持たせたらいけない。
いかにポセイドンが優れた能力を有していても、桂と"一刀必滅"のコンボは策と知を超える暴力。理不尽。
「"SDQ"以外は破壊可能」
直撃だけを避ける。紙一重でもいいから、当たらなければ死を回避できる。
「桂はまさにソレだ。なら我はな……世界を全部ぶつけてみせよう」
誰かが、死ななければ生きていける。桂と"一刀必滅"がコンビだというなら、こちらもポセイドンと"テラノス・リスダム"のコンビ。いや、それ以上に大きく、数多く、
「海神降誕」
モデルは管理人、インビジブルの持つ、"無敵艦隊"。
自分自身を"テラノス・リスダム"で創造するだけでなく、同じ能力を持ちながら自分以外の生命体を作り出す。その速さと一度に生み出される命の数はインビジブルと互角。
自分1人では今の桂を倒せないからもっと単純に数を増やし、頭を増やし、手段を増やし。結果行き着くのは当然ながら、異世界全体で桂を殺すことだ。
命が、風景が、製造物が、自然が、
ポセイドンの味方であり、桂の敵である。
数が勝り、知が勝り、力が勝り、それでもどうして勝てないとしたら?考えられない。ポセイドンはその結末を考えられない。想定もしていない。あってはならない。
頑張っていて、こんなにも人がいて、こんなにも力を出し尽くしているのに。
たった一人に負けて良いはずがない。たった一つの災害で絶滅なんてして良いわけがない。耀きは、消えてはならないだろう?
人類側はどっちかって言ったら、ポセイドンの方だ。