主人公とヒロインを殺してみた
倒れるアレクの前に身体を引き摺ってまで現れた男がいた。
「アレク。お前よー」
「ロイか。そうか……」
動けないアレクと、歩けるだけに回復したロイとでは状況が違う。
「お前を一発、ぶん殴らねぇと気がすまねぇ!」
死を後押しする仲間がいてくれて良かったと、ホッとしながら意識を断ったアレク。
暗躍し続けていたのも理由がある。話す気にもならない。一番の人間が分かっているんだ。そうして、逝ってしまったのなら俺も追っていこうか。
『アレクよ。お前には学習を施す』
両親の顔を見た事はない。ただ、選ばれたということはそれなりの資質を持っていたとは後から聞かされた。両親代わりというのもいない、ポセイドンはそのような顔を出したことはない。彼は実験という名目でアレクを飼っているだけだった。
『学習とは環境における重要なテーマだ』
ダネッサ達のような生物実験や、リアのような機械化による実験とはまた違うテーマでアレクは造られている。
だが、命を備えた連中は学習をしていくのだ。アレクは特別ではあったがやっていることはそれほど特別ではなかった。ポセイドンからすればアレクの成功は何も持たない者達も、真っ当に救えるという手段だ。
学んでいく速さは各々あるだろう。それがまた個性でもある。
埋めることができるのなら
『我は救った先も見据えている。幸せの箱庭を護るのにはやはり強力な支配者が必要だ。そして、支配者を支える民も必要だ』
学ぶを通して、支配を生み出す。
幸せという自由な定義を束縛したい。
災害や戦争も恐ろしいが、我々人類及び生命体達が築きあげた世界の歯車が当たり前のように回っている。生きること、学ぶこと、働くこと、食われること、死んで行くこと、助けられること。極々当たり前に思える平和は災害や戦争よりも、奇跡で悲劇的にさせるものはない。
死が悲しいと思わせる平和や安心は酷いもんだ。最初はそんな環境すらなかったはずだ。
『学んでいけ。人生は最後まで勉強だ』
本当に小さい頃から色々と学んできた。だけど、人間はそうやって1人1人学んでいる。その中で見つけてきた仲間がいた。裏切って欲しかったのはポセイドンの傍にいることじゃない。奴の希望でもない。
俺の野心だ。いつまでポセイドンは俺の先生面をする?もうそーゆう歳じゃねぇーんだ。俺はポセイドンを超えるためにいる。
何を捨ててでも上を目指さないと。それが学ぶ功罪なのだから。
「?なんだ?」
アレクにはまだ死は届いてこなかった。そのことにアレクは現場で何が起きているか読めなかった。
一方で、アレクが戦った2人には死が迫っていた。
「ライラ!ねぇ!お願い!!」
1人でライラを見守り、声を掛け続ける夜弧であったが。現実はたしかなものとなっていく。
「嫌よ!私がここに来たのに!もう、お別れだなんて!」
生きている可能性が0。そう認識できる状態にまでなったライラだ。彼女を人間として扱うには無理がある。もう、
「死なないで!まだ、春藍様がいるから……!」
夜弧の懸命は空しく。命は止まった。
ライラ・ドロシー、死亡。
夜弧はそれを受け入れられず、まだ彼女を起こそうと声を掛けた。現実を受け入れられず、心が動揺してしまった。
そして、ライラとは違い。たった一人で炎に包まれ、静かに焼かれていく春藍。ハーネットの意識が消えても、春藍の意識が戻るわけでもない。無抵抗のまま、彼も焼却されていく。
彼の全てが灰になるまで、炎は存在しようとしていた。だが、
オォォンッ
静かだが、炎が消えてしまう風が突如として起こった。
「肉体はまだ消えていないが」
発見し、この風を生み出した桂は春藍を抱えた。春藍の姿こそ残ったが、命は散っていた。
「……春藍くんも、死んでしまったか」
春藍慶介、死亡。
ブライアント・アークスとの戦いはこうして終わった。
桂は、春藍とライラ、ラッシを失った。
ポセイドンは、ダネッサとリアを失った。
生き残った3人だって、戦えるとは良い難い状況。
しかし、桂とポセイドンにとってこれは代理戦争だ。勝敗は付かなかったが、決着がつかないというのも、また新たな動きができるというもの。
「まだ、生きておられるだろうな?アレク殿」
もし、死んでしまったらお主を殺してしまう。ライラと春藍くんを殺した罪はとても大きいことだ。
「どーゆうことだ、ロイ?」
「殴りてぇよ!けどな!俺が本気で殴ったら、お前死ぬぞ!」
「あ?」
アレクは桂がこの世界に来ている事に気付かなかった。無理もない。それだけ、春藍との戦いは命を賭けていたものがあった。
「桂さんが来たんだ。ライラと春藍を救うために、アレクの力が必要なんだよ」
「なに?」
「俺はお前を死なせないために身体張って来たんだよ」
いや、春藍とライラの死亡の確認がとれたんですけど!それは一体……。