アレク VS ハーネット
今のはなんだった?
アレクの意識が戻った時、目が覚めたのかと疑いたくなるほど真っ暗であった。
ハーネットの魔術、"マグニチュード"の直撃は死を迫らせた。
どこだここ?俺はどうされちまった?
身体が一気にボロボロになり、1mmたりとも動かす事ができなかった。
光が見えない場所まで追いやられたアレクであったが、思い出したことがあった。
野郎だ。消したと思った、あの野郎にやられたんだ。
どう蘇ってきたのかは考えられなかった。結果を受け入れて、拒絶しようと動く。
今度はアレクの番だ。死力を尽くしてでも取り戻さなければいけない。己の命も、春藍だってだ。
「ハーネット」
ここまで追いやった奴の名をこの地中で呟いた。
そして、我を忘れながら力を欲する。自分のために自分を死なせる。
「ハーネット!!テメェは今度こそぶっ殺す!!」
動かない身体ではあった。
しかし、アレクの身体もまたダネッサ達と同様に通常の人間の身体ではなかった。
「春藍は誰にも渡さねぇぇっ!!」
アレクもまた改造されている人間であった。
ただし、ダネッサやリアなどのブライアント・アークスの者達とはまったく違う改造である。
多くの生命体は今生きている環境に適応しようと、意識も身体作り、感覚も変わっていくという。望む物を欲するため、生態の本質を変えていく。
アレクの恐ろしさでもある。彼は環境や状況に瞬時に適応するという能力を自然のまま保有しており、ポセイドンの教育によってさらに研ぎ澄まされた。
才能と教育、環境によって作られた超自然体の生態兵器。
ボロボロになった身体も、体内の細胞が活性化して傷口を縫っていく。砕かれた骨すらも再生できる。
逆境に打ち勝つ以上の抗いを身体に掛ける。
ガリィッ
自分の歯に仕込んだ薬品を舌で取り出し、噛み砕いた。
ポセイドンの手は借りていない。アレクはアレクの力で手にしたい物がある。教育や生活を与えられたが、アレクは今日までの過程であったと考えている。
「"テラノス・リスダム"も控えているんだ」
天然の能力と、科学の融合。
身体の至るところから血を噴出しながらも、瞬間であるが一時的に身体を完全に治す。自分の足りない部位がすぐに補給したのだ。
動くと分かれば反撃に転ずる。この局面でも……
ドオオォッッ
「奴を殺す前にタバコだ」
ハーネットが操った大地を焼き飛ばし、バズーカを背負いながらタバコを吸うアレク。
タバコを3本も口に加え、ライターで着火。ついでに白衣も土で汚れて重たいので、焼いて脱ぎ捨てる。上半身裸のアレクにはもう隠せる武器はないと分かる恰好。
だが、彼の肉体は大きな身体もあって、"超人"に近くて頑強な肉体を手にしている。
「打ち込んだダメージがない?」
ハーネットがアレクの姿を見た時に感じた事は傷の少なさであった。
お前の攻撃は効かないと、アレクが身体を張って訴える行動。これでハーネットがわずかでも慎重になってくれれば儲けものであった。
アレクにとっては戦うとは思えなかった相手だ。冷静に状況を分析する時間が欲しかった。
「ふーーっ」
向こうは"魔術"だ。春藍の身体を使っているなら、魔力の残量を確認するはず。つまり、長期戦になれば間違いなく、"科学"の俺が有利。
俺にもダメージが残っている(誤魔化している)が、ハーネットも俺が春藍に蓄積したダメージがある。また、春藍の能力をハーネットが使えるわけがない。つーか、"創意工夫"は壊れたか?
肉体的なダメージでも俺が有利だ。
「はーーっ」
魔術、"マグニチュード"
魔力で震動を引き起こす能力だが、必要以上に警戒しなくていい。俺の炎を止められる能力じゃない。勝てる見込みは十分にある。
「行くか」
タバコを吐き捨てると同時に戦闘体勢に入った。アレクは窮地であるが、それに屈しない精神力はさすがだ。プラス思考だけを考えれば、難敵とは戦うことができる。
ミシィッ
「っ!」
ハーネットは冷静な顔を保っているが、春藍が背負っているダメージを感じた。
"魔術"にはさほど影響は出ないが、動きには影響が出てくる。それでもアレクの科学が、中~遠距離での間合いを好んでいるのなら良いとハーネットは考えている。
"マグニチュード"の間合いもまたそこがベストだからだ。
アレクから生み出される炎の龍と、ハーネットが引き起こす地震。
どちらも、人間という枠組みでならば同格の戦闘力だった。
アレクは自分に賭けている。ハーネットは人に賭けられている。
この差が勝敗を左右するか?それとも、感じ取れないわずかにある差が決めてしまうのか?