希望はなくても、精一杯を尽くして死にたい
アレクの声は春藍には聞こえなかった。悲しんでくれているのか、分からない。
ピィッ
"Rio"を破壊され、音波の攻撃も止んだ。"創意工夫"で反撃できる兵器を造ろうにも素材がもう近くにない。
この場所はもう炎一色。高熱に耐性のない春藍の体にとってはそれだけで辛かった。それなのに
バギイイッッ
ライラと同じように。アレクに痛めつけられる。
どーゆう心境でやられればいいんだろうか?思い起こす苦境は何度かあった。その時、その時、自分らしく自分なりにやってきた。結果、生き延びたこともある。だが、ウェックルスや粕珠といった時とは相手がまったく違う。
酷いなぁ。
憧れの人にこうされてしまうなんて。
「うっ、ああぁっ……」
自分の悲鳴は痛みからか、状況からきているのか。
死ねないって気持ちじゃない。どうやって、生きていけば良いのか。希望が見えてこなかった。強くなった春藍は状況をよく理解してしまうことになった。
悪くないのかな?
アレクさんと一緒にいれば僕はそれで良かったのかな?
「嫌だなぁ」
違う。嫌だって思っているのは、心からあなたに向けられる力が出ていないから。
勝てないなら勝てないなりの。死ぬなら死ぬなりの。礼儀があるはずだ。
僕はまだ戦えるんだ。
アレクさんが本気で殺しに来るくらい。もっと、力が欲しい。もっと、技術が欲しい。
心だけじゃなく。その実から力を。
「まだ、嫌だ」
魂を賭けろ。後戻りをするな。立ち止まったら、アレクさんもライラも救えないんだ。僕は泣いて諦めるな。縋って、削って、人間の僕を信じろ。
人間じゃなくなる僕へ。託す。
「創意工夫!!」
本来、不可能だ。使用者の僕は分かっている。でも、縋れる素材は僕しかなかった。
胸に自分の"創意工夫"を填めている両手を押し付ける。
ドオォォッ
身体が電気ショックを浴びたように跳ね上がった。どう転ぶか分からないが、成功しなければもう誰も護れない。
なんでもいい。とにかく、アレクさんを超えられる力を引き出させてくれ!
人間という極上の素材から強さを出させて。
「僕を強化しろ!!」
"科学"は精神に呼応として力を呼び起こすことはない。
安定しているが、造られた最大限の力でしか対応できない。春藍は自分の"科学"に全てを託し、命を賭けて放ったにしても所詮は道具。
分からない問いに、鉛筆に答えを訊ねるようなものだ。
バギイィッ
春藍が求めている力があまりにも高すぎる故、"創意工夫"にヒビが入り始めた。
それでもなお、自分を信じて改造を推し進めた。諦めを一切失って突き進んだ信念。
見苦しくもあるが、悪くはないな。
ボオォンッ
両手に填めた"創意工夫"は裂け、使い物にならなくなった。
その事実は結果的に誰も救えないという結末なのだ。春藍はその理解に到達できないほど、知能を欠如した。しかし、強さだけを信じた春藍が手にしたものはある。絶望を忘れたほどの力。
ボロボロにやられた身体の傷が治った。
「僕はまだ」
ふらふらとしながら、立ち上がる。
戦えるとは良い難いコンディション。感覚が欠落している。一つだけを信じているような目でアレクを向き合った。
「あなたを殺せる」
誰がここまでやれと。思ってしまうことはいくつもあるだろう。
春藍もその1人だ。そーゆう馬鹿なところも、好きだった。
「惜しいな」
自信というより、使命感のみで立ち上がってきた春藍にやや残念さを感じるアレク。
"創意工夫"を失い、春藍の脳にもダメージが出るだろうハイリスクな行動。命を賭けた行為に対して与えられたのはローリターンだった。
ドゴオォォッ
「あれ?」
春藍の視界はアレクの拳をもらう前から揺れていた。聴覚も遠のいて、再びに地面に転がったことを知ったのは時間が掛かった。
燃え盛る地にいるのに熱を感じられなくなった。
何かを知るという術をどんどんと剥ぎ取られていく。
「殺すんだ」
ただ一つを信じ、実行するため立ち上がる。それ以外が分からなくなってきた。
意識はハッキリとしているが、身体がついていかない。
そんな状態ではアレクを超えることはおろか、先ほどまでの自分にも勝てない。希望を信じるだけ、向かっていくだけでは、手にする事はできない。
ドゴオォッ
「そんな………そんなの」
アレクの打撃を味わいながら、自分の状況を理解していく。
色々と失いながら何も手にする事ができなかった春藍。それがどんなに苦しくて、痛みよりも悔しかった。
希望は潰えてしまった。現実は非情であった。




