笑いはなく、教わってきたこと
「くそっ」
ロイは今の状況を見ているだけで精一杯だった。ロイの治療はまだ延命程度でしかなく、身体に負担が掛かったまま。抱いているライラをどこから治療するべきか。っていうか、そもそも治療の役目は春藍であるため、ロイが治療するなんてできるわけがなかった。
「あの野郎、どこかで感じていたウザさはやっぱりだったか」
ロイが知る限りの情報で、仮面を付けた彼とアレクの行動を照らし合わせれば今の現実を素直に受け入れた。だが、素直に受け入れるとなると怒りも込み上げてくる。ロイの立場からでは理由までは分からないが、
「春藍!そいつに加減することはねぇ!!目の前でやられてんだぞ!」
今は敵と認識しなければいけない。
ロイはそのことを春藍に強く押してあげた。
しかし、そんな心配をせずとも春藍は強く理解している。あたふたしているなら誰も救えない。二人を救わなきゃいけないから、なるべく早く急ぐ。ライラがロイの元にいるのなら、少しは意識を傾けられる。
「アレクさんのことをずっと、傍で見てきました」
所有している科学は2つ。どれも同系統のタイプ。アレクさんがとても気に入っているからだ。今日は随分と、とても熱く来る。
その炎は自分以外には容赦なく振り撒くだろう。
「俺もお前の成長をいつも見ていた」
"創意工夫"は優れた能力を手にした。防衛、治療、創造など。手段の多さは俺とは違った"科学"の耀きだ。
俺は一点集中、春藍は万能型に。
考え方は合わないと思っていたが、これが意外と合った。力勝負以外の何かを見てこれたよ。そして、これからもだ。
平等に、お互いが自慢としている科学を披露した。
アレクは上空に向けて、"紅蓮燃-℃"を放った。春藍はしゃがんで両手を地面にくっつけた。空には炎の龍がいくつも飛び回り、地面は大きく揺れていく。
街にも空にも起こる異変。
「この場所が"科学"に適していて良かった」
戦場の地形だけを見れば、地理に詳しくなくても春藍にとっては都合が良かった。彼の"創意工夫"はこの地形を存分に操作できるからだ。負担は大きいが、それ以上の効力を発揮できる。
春藍が造り出したのは2つ。
「"図面構築・病院"(クリエイション・ホスピタル)」
ライラを治療するべく、医療機器までも創造する病院の造形。薬品まではいけないが、包帯や氷なども完備可能。
「"図面構築・孤島"(クリエイション・アイランド)」
信じていたから要塞や防火壁といった障害物で囲うという選択はできなかった。
物理的にアレクが誰にも近づけないよう、大地を鳴動させる。
ドゴオオオォォォッ
「じ、地震か!?」
「ロイ!早く!こっちに来て!春藍様が、何かを作っておいております!」
春藍とアレクを乗せて空へと突き上がっていく地面。木の成長のようにグングンと伸びて、広がっていく。変動のリスク故か、下にいるロイと夜弧に襲い掛かる土砂崩れにも似た崩落が起きる。
病院だけは無傷であり、2人はライラを連れてすぐに逃げ込んだ。
バギイイィィッ
地面の成長は止まった。
「もう誰も見えないでしょ?」
「どうかな?俺には誰も邪魔するなと言いたげだ。すぐにはライラ達を始末できないのは事実であるし」
アレクの放った炎の龍がこの突き上げている大地の周りをウヨウヨと旋回している。
「お前の手じゃ、もう誰も助けることはできねぇのも分かった」
俺の春藍がここまで昇ってきたんだ。負傷しているからと言って、遠慮なんかしねぇよ。
「やれ」
アレクの命令を受け取った炎の龍はどんどん地上に降下していく。それを見届ける春藍ではない。下で起きることは想像できている。
春藍は珍しく懐から、"創意工夫"以外の科学を取り出した。
「やるのは僕です」
先手必勝で行けばアレクさんの"科学"が無敗に近いのは知っている。間合いにいながらも躊躇してくれるのは疲労じゃなく、僕を生け捕ろうとしている。僕は色々学んできたからそれがどれだけ大変か知った。
アレクさんの"科学"は明らかに殺傷目的。手負いかつ、手加減しなければいけないなら、十分な勝機がある。
ピィッ
「誰も聴かないでよ」
春藍の方から本気だった。