心の底から
パァンッ
「なんてね」
裏切ることを前提とした協力は差し出した方から、突然切って来た。
夜弧に後ろから左足を撃ち抜かれた。
「あ?」
理解をしてからすぐに夜弧の方へ振り向き、空いている左手で拳を作った。
「油断したぜ」
ドガアアァァッ
弾丸とは違った音と衝撃は夜弧を弾き飛ばした。夜弧を焼かなかったのは自分が巻き込まれることじゃなく、この場で攻撃の権利を有していたラッシから逃れるためだ。
ラッシの標的は夜弧。遠く離れれば、巻き沿いは食わない。咄嗟の判断にしてはもっとも良い選択であった。
凌げる。
ラッシの両手が夜弧の方……ではなく、彼の方に向いた。
「あっ!?」
「ラッシは洗脳済みよ」
今のラッシは、"トレパネーション"で傀儡にした。魔力も私の魔力を渡して回復させた。本当の攻撃は私じゃなく、ラッシに討たせる。
ラッシに仇をさせてあげるわよ。
「その身で知りなさい」
竜巻と雷撃が交わった攻撃。一直線上に立ち、足を撃ち抜かれた彼には避けることができなかった。
バリイイィィッ
風で身体を斬られながら飛ばされ、雷で焼かれる熱さと、剥かれるような痛みに襲われた。飛ばされながら建物に衝突し、壁を破壊しながらさらに飛ばされていく。
「うごぉっ」
被っていた黒い龍の仮面が衝撃で壊れた。
ドガアアァァッ
勢いが止まった時、彼は動くことができなかった。意識が朦朧とし、とてつもないダメージを負った。
「くっ……」
ラッシの攻撃を喰らって生きていたのは幸運だ。
洗脳された状態では、そこまで期待する力はでないのかもしれない。また、ラッシの肉体がすでにボロボロであったということも可能性としてはある。
考えてもしょうがねぇ。
「立たねぇと……」
夜弧もラッシも動けなくなっている。だが、まだ空にいるライラは狙っている。この隙を見逃す奴じゃない。クソ、来る前に立て直さねぇと。
「!……もう来たのかよ」
空を見上げればキラリと光った氷塊の群が、彼の中心に落ち始めてきた。力押しで踏み潰そうとする攻撃だ。この氷塊の群を全て焼く力は出ない。
ポケットからライターを左手でとった、タバコを探す右手だが……。右手はタバコを見つけられなかった。
「へっ」
タバコが死ぬなって言ってやがるのか。
「当たり前だ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
巨大な揺れと衝撃。そして、轟音。
ライラの"流氷群"が彼にトドメを刺した。防御不能としか言えない、圧倒的な破壊力。山のように積もる氷塊がそれを決定付けた。炎はもう立ち上がらなかった。
「つ、強かった。あいつは一体なんなのよ?」
ライラは敵の生き埋めを確認し、ようやく雲から地上へと降りていった。これほど激しい戦いをしたのは蒲生以来。管理人じゃないのに、ここまで苦戦する人間がいるとは思っていなかった。
「はー……はー……すっからかん。手前ね」
決着だ。このまま作戦通り、ポセイドンの"テラノス・リスダム"の破壊にいく。
っていうか、桂は無事に来るんでしょうね!?ちゃんと敵を撃退したのよ!
「夜弧は無事かしら?遠くまで来ちゃったわ。もう一回、雲を作らないといけないわね……」
バタンッ
同時刻。
夜弧から与えられた魔力が尽き、その命の役目を完全に終えたラッシ。
操られる形となったが、クロネアの仇の決定打を作り出したのは間違いなく彼の能力だった。
「ごめんなさい」
夜弧は謝りながらラッシを埋めてあげた。
真実を知ってしまったから、こうするしかなかった。出会えなければ良かった。
「あなた方、管理人の意思は引き継ぐつもりです」
そう言いながら、自分が殺して利用した相手を拝んだ。
「ふぅ」
一通り終えて、夜弧もまた空を見上げながらライラを待っていた。さすがに殴られたダメージも効いている(今は、トレパネーションで誤魔化してる)
あーゆう移動が簡易になる能力はつくづく便利だと思っている。乗せてもらうよう頼むつもりだ。ラッシがいなくなればちゃんと、ライラ達のサポートができそうだ。
「ライラーー!」
「夜弧!」
すっかり、仲間みたいに声を掛け合っている2人。何気に共闘回数が多い。
ライラが降りてきて言葉も聞かずに言ってくれる。
「乗りなさい。春藍とロイのところに行くわよ」
「うん」
本当の戦いはこれからだ。ポセイドンを倒すのが最終目標なのだから。